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温浴施設の立地与件および商圏の考え方

執筆|葛ハ岡設計

  • 温浴施設
  • 開発計画
 開発計画のなかには市街地中心部のものもあれば、郊外のロードサイドや、ショッピングセンターなどの広大な敷地の一角、海や山に臨む抜群のロケーションのものもあるなど多岐にわたっている。それらは、それぞれ長所と短所があり、計画される企業の思惑も千差万別である。

土地条件

 一般的な事例として、開発場所が選択可能な場合では、主に下記要件の検討が必要となる。
@温浴施設の開発が法的に可能か
A盛況施設が成り立つための商圏人口が確保できるか
B適正な駐車場を確保するための敷地面積が確保できるか
C温浴施設の命ともいえる水が確保できるか
D施設開発に経費が掛かりすぎないか
E競合施設は存在するか、存在している場合どのような内容か
 @に関しては、スーパー銭湯の場合、建築基準法上の「公衆浴場」として扱われないため、都市計画法で定められた用途地域によっては開発自体が不可となる。また、施設内に設置されるレストランやボディケアなどは店舗扱いとなるため、店舗面積に制約がある用途地域では開発がむずかしい場合もある。
 Aに関しては後述するが、玉岡設計ではコンピュータソフトにより商圏人口の算出を行なっている。
 Bに関しては、適正な駐車台数の確保は事業成功のための必須条件となる。
 過去の事例を検証すると、適正な駐車台数は、商圏内人口が豊富な場合では、施設規模330uにつき25台の駐車台数が望ましいようである。ただし、地域によって人口あたりの車保有率がまったく異なるため、玉岡設計では、必要駐車台数を下記の計算式で算出している。

施設規模(u)×25台/330u×人口あたりの車保有率(出店地域)/人口あたりの車保有率(全国平均)=必要駐車台数
 必要駐車台数に26uを乗じたものが必要駐車場面積となるが、温浴施設の場合、必要駐車場面積に施設の建築面積および屋外機械置き場、サービスヤードなどの必要面積を足して必要敷地面積を算出しなければならない。
 そのなかで忘れがちなのは、施設や敷地周辺に設ける緑地帯の面積である。緑地帯は非日常感の演出のため設けるが、自治体によっては、緑化条例などによっても必要となる場合がある。
 緑地帯の面積は法的制約がなく、出店場所がロケーションに恵まれている場合にはさほど必要としないが、郊外のロードサイドへの出店や、ショッピングセンターなどの敷地に出店する場合には、非日常感の演出のため、まとまった面積が必要とされることが多い。
 平均的な車保有率の地域に、延3,000uの温浴施設を単独で計画するケースには、屋外機械置き場や緑地帯の面積を合わせ、9,000〜10,000u程度の敷地面積が必要となる。必要な敷地面積が確保できない場合には、立体駐車場を併設したり、1階部分をピロティ方式にしたりして駐車台数を確保するケースが考えられるが、これらの方法は、建設費が高くなることに加え、屋内駐車場の設置が法令によって制限されている地域もあるため、開発計画の前に確認しておく必要がある。
 Cに関しては、温浴施設は大量の水を使用する(おおむねの目安として140〜200L/人)ため、井戸水の確保ができるかどうかが重要なポイントとなる。井戸水が必要量確保できない場合には、水道水を使用しなければならないが、上水道の価格は自治体によって大きく異なるため、開発にあたっては特に注意しなければならない。そのほか下水道が整備されている地域では、下水道料金が必要となるケースが多い。これらの水に関する費用は事業性を大きく左右するため、事業者によっては土地の賃料が安く、井戸の掘削や揚水量に制限がなく、下水道が整備されていない郊外への出店を希望される例も多い(ただし、下水道が整備されている地域においても、合法的な手段で下水道に放流していない事例もある)。
 Dに関しては、建設費の高騰状態が継続し収まる気配が感じられないことに加え、人口集積地での不動産価格(借地での開発の場合は借地料)の上昇傾向も顕著である。ただし、不動産価格(借地料)が安価である傾斜地や起伏の多い敷地での開発の場合には造成工事や開発工事などに多額の経費が必要となり、法面やスロープの設置などで敷地の有効面積が減ってしまうこともあり得る。また、造成地の場合には維持のために思わぬ経費が必要となることもあるため注意が必要である。
 Eの競合条件に関しては後述する。

商圏条件

 商圏範囲は施設規模によって拡大縮小するといわれている。過去の事例を検証したところ、延330uにつき半径1km圏内が商圏となっている事例が多いようである。
 具体的には、延3,000uの施設の場合では、半径9q圏内が商圏となる。開発施設を盛況施設とするためには、商圏内に10万人以上の人口があることが望ましいが、地域によって人口あたりの車保有率が大幅に異なるため、単純には判断できない。玉岡設計では、全国平均の車保有率を分母に、商圏内の車保有率を分子にして係数化し、商圏内人口に乗じて得られた人口が実質的な商圏人口であると考えている。
 小商圏地域で開発される場合、人口に比例して施設規模を小規模に設定する事例をみかけることがあるが、小商圏地域の場合、人口に見合った規模の施設では求心力に欠けることが多く、人口減少によってジリ貧となる例も多い。逆に小商圏地域での開発の場合、あえて大規模施設を計画することで商圏を広げ、近隣の人口集積地を取り込み、商圏人口を確保することもある。言い換えれば、小規模の施設は都心部でないと成立しにくいということになる。
 しかしながら、温浴施設の利用目的はレジャー目的でもあるため、レジャーの選択肢が多い都市部地域においては、ほかのアミューズメント施設などとの競合対策が必要となる。逆に小商圏地域では、レジャーの選択肢が少ないことが多く、相対的に温浴施設の人気が高くなりやすいなど、人口の多少だけで開発の可否を判断するのはむずかしいこともある。
 小商圏地域の場合には、開業後に競合施設が進出する可能性が低いため、長期にわたって安定した経営ができる可能性が高くなるというメリットもあるため、好んで開発を行なう企業もあるほどである。
 また、商圏範囲は、施設規模だけではなく、抜群のロケーションがあったり、良質な天然温泉が豊富に使えたりする場合には広げやすい。

競合条件

 出店を決定する際に重要な項目として、競合施設の有無がある。近年では、スーパー銭湯を含む温浴施設も全国に行き渡っているため、競合施設が見当たらない立地を探すことは相当困難なこととなっている。
 当然のことではあるが、出店計画地の商圏内に競合施設が存在している場合、その内容を十分に調査しておく必要がある。調査する項目は、施設内容はもちろんのこと、施設規模、築年数、投資規模、改装履歴、増築の余地、土地情報(所有地か借地かなど)、入館状況、入館料、総売上、テナントの有無、土地建物所有者、運営者、経営方針など多岐にわたる。
 仮に競合施設が盛況施設であり、増築の可能性が低いと考えられる場合には、計画施設の規模を競合施設の1.5倍程度にすれば競争の原理から脱することが可能となる。
 具体的には、延2,000u程度の既存施設から、直線距離で約10qの位置(車での走行時間30分圏内)で施設開発を行なう場合、延2,000u×1.5≒延3,000uの施設規模があれば競合の影響はほとんど受けないと考えられる。延2,000uの施設の商圏が半径約6q圏内であるのに対し、延3,000uの商圏は半径約9qとなる。このうち5q分が競合することになるが、競合範囲内の人口も1:1.5となるため、現実的に競合施設の存在を消すことが可能となるのである。
 もちろん、新たに開発する施設においても、将来の競合施設の出店に備えておかなければならない。また、前述のように、温浴施設の開発のベクトルが10年ごとに変遷しているため、10年後には「第五世代」の温浴施設が登場する可能性も高い。将来開発が予想される競合施設と長期間にわたって伍していくためには、可変性を備えた施設計画が必須であり、投資の早期回収も必要となる。
 しかしながら、既存の温浴施設が、近隣に競合施設が出店した影響で閉鎖された、という事例はかなり少ないようである。温浴施設の場合、にぎやかな施設を利用したいと考える利用客が70%であるのに対し、静かな施設を利用したいと考える利用客も30%程度は存在しているため、競合により新たな利用客層が発掘され、自然と棲み分けができているものと考えられる。
(つづきは本書で)

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温浴施設の開発・再生計画と運営戦略資料集

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