——多幾宏平[マーケティングリアルティ]
【第13回】マーケティング視点の不動産投資講座
グローバル都市において「デジタルノマド(数ヶ月単位の都市滞在者)」が増加しています。この市場は、単なる一時的なトレンドを超え、都市経済および不動産投資における構造的な高収益セグメントとして確立しつつあります。不動産市場におけるノマドワーカーの有望性について、マクロ環境・顧客ペイン・日本の市場性の3つの視点から分析します。
IT エンジニア、クリエイター、起業家などの知的労働者は、場所を選ばずに高所得を得る働き方へとシフトしています。各国政府や自治体は、消費単価が高く地域経済を潤す彼らを惹きつけるため、デジタルノマドビザの新設や税制上の優遇措置を相次いで導入しています。また、米国の調査機関(MBOPartners)や主要コミュニティプラットフォームの推計によると、世界のデジタルノマド人口は約3,500万~4,000万人規模に達しています。そのうち、高所得層の実態は[図表1]の通りです。

彼らは単なるバックパッカー(節約型旅行者)ではなく、「高い購買力と専門スキルを持ち、場所の制約を受けずに稼ぐグローバルエリート層」として確立しています。米国のテック企業は出社を義務付ける一方で、コスト削減のために正社員のレイオフを進め、専門性の高い業務を社外に外注する比率を高めています。そのため、レイオフされた優秀なエンジニアやデザイナー、マーケターが個人事業主や法人を立ち上げ、複数のグローバル企業から高単価なプロジェクトをリモートで請け負うケースが急増しています。それは企業側としても、福利厚生やオフィス固定費がかかる正社員を抱えるより、世界中の高度人材をプロジェクト単位でリモート契約するほうが合理的な判断となります。
したがって、不動産企画開発の視点で見れば、「可処分所得が高く、快適なワーク環境にプレミアムな対価を支払う優良なターゲット」の密度は今後ますます高まってくるでしょう。
ノマドワーカーが日本で居住先を探す際に直面している課題は、[図表2]の通りです。

日本はそもそも家具・家電付きの賃貸住宅が、国際都市と比較し圧倒的に少なく、かつ日本国内の「保証」「所得証明」といった従来の賃貸基準が存在し、これらを一括で解消できる物件の供給ストックは依然として希少です。 数か月滞在のノマド市場は、相場が固定化された一般賃貸とは異なり、商品設計によって「利便性」や「ワーク環境」、「コミュニティ」などのパッケージに対して対価が支払われます。つまり工夫次第で、ホテルより割安でありながら、一般賃貸相場を大幅に上回る坪単価設定(賃料プレミアム)が成立します。
ニューヨーク、ロンドン、シンガポール、シドニーでは、急激なインフレと住宅不足により、数ヶ月の滞在に必要な家賃や外食費が跳ね上がっています。これに対し、東京は歴史的な通貨水準も相まって、「欧米の主要都市の半額以下のコストで、世界最高の生活水準と食体験を享受できる都市」として圧倒的な割安感を持っており、近年のインバウンドの増加でも証明されています。また、いつでも安心して外出できる治安の良さ、時間通りに運行する交通網、街中の高速通信インフラは、PC1台で移動するノマドワーカーにとってストレスフリーな生活基盤を提供しています。加えて、アニメやアート、豊かな食文化、四季折々の街並みなど、滞在そのものが「コンテンツ」となる独自の魅力を持っています。 東京は「生活の質 × 安全性 × コストパフォーマンス × カルチャー体験」のバランスにおいて魅力が際立っており、さらに、政府によるデジタルノマドビザの新設など、制度面での受け入れ環境も整備が進んでいるため、グローバルノマドワーカーの受け皿は中長期的にみて有望な市場となるでしょう。そもそも数ヶ月間の滞在であるため、多くの人にとって90日の観光ビザで入国できる日本は、ノマドワーカーにとってはとても気軽に来られる最適地です。
視野を世界へ広げ、急増するグローバル・デジタルノマドという「高所得・高付加価値層」にターゲットを定めれば、日本人に普通借で相場で貸していた不動産は「世界中の才能が交差するサービスアパートメント」へと進化します。広がる市場と彼らの不満を的確に解消し、ハードとソフトのデザインによって高い賃料収益へと変換する。これこそが、これからの国際都市・東京において相場に依存せず高い収益性を生み出す、新たなマーケティング視点に基づいた不動産投資戦略です。
本連載「マーケティング視点の不動産投資講座」
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