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――熊谷正寿氏[GMOインターネット]に聞く

オフィス取得の真意、不動産は経営の攻守で「保険」に

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GMOインターネットは2021年12月、東京都世田谷区の大規模オフィスビル「世田谷ビジネススクエア」の信託受益権55%を234億円で取得した。取得を機に「GMOインターネットTOWER」の副名称も付与している。インターネット事業を本業とする同社が、なぜ今回のような不動産への大型投資に踏み切ったのか。トップを務める熊谷正寿氏が、その狙いを明かしてくれた。

世田谷ビジネススクエア(GMOインターネットTOWER)

画像提供:GMOインターネット

100年単位でビジネスを戦い抜く、業界トップ企業の「天守閣」

熊谷正寿氏 代表取締役グループ代表
 今回「世田谷ビジネススクエア(SBS)」を取得したことに関して、「B/Sが膨れ上がり、ROAが低下する」「IT 企業が不動産に投資するなどとんでもない」といった声を耳にすることがある。それは経営の教科書的には間違っていない意見ではあるが、私に言わせれば、近視眼的すぎるのではないかと思っている。
 当社グループが目指す100年単位で続く企業には、その権威(ブランド)を示す象徴(シンボル)が必要不可欠だ。この象徴という役割を最もよく担ってくれるのが、100年を越えても確かな形を残す「不動産」だと考えており、物件の取得と副名称の付与を決めた理由である。
 歴史を振り返ると、エジプトのピラミッドや日本の城はその時代の最先端の文化や技術、権威を表してきた。それらは多くの人々を集める“ 器” として機能し、その存在が現代まで語り継がれている。当社グループも技術や人材を集める象徴的な器としての不動産に注目しており、個人的に「天守閣効果」または「お城効果」と名付けている。

不動産そのものの価値では示せない、ブランド認知高める「おまけ要素」

 SBSは最寄りの東急田園都市線用賀駅直結で、渋谷駅まで10分強という交通利便性もさることながら、金銭(不動産価格)では測れない価値、いわば「おまけ要素」を持つ物件と考えている。
 周辺にはほかに高層ビルが存在せず、高架の首都高速3号線からはSBSが非常によく目立って見える。そこで当社のロゴマークをビルに設置することにより、絶好の広告看板として機能すると期待される。加えて用賀駅には「GMOインターネットTOWER前」の副名称も付与した。こうすることにより、車内アナウンスを通じて耳からも当社名をインプットできるようになる。
 こうしたおまけ要素は、当社グループに対するブランド認知をじわりじわりと高めてくれ、100年先も企業を存続させるうえで計り知れない効果があるはずだ。昨今ESG/SDGsへの注力が企業経営に求められるなか、それらに関わる非財務要素の重要性が増している。それと同じように、財務指標では表せないブランド力は、顧客や投資家に選ばれ続ける企業になるための根幹をなしているのだ。

未来をつくる先行投資、「空飛ぶクルマ」の時代を見据えて

 当社グループの直接的な事業拡大にもSBSは関わってくる。最上階の26、27階に映像制作・配信スタジオやサイバーセキュリティセンター、そして「空の移動革命」に関する研究拠点を設ける。前者には3DCG やセンシング技術などに対応した最新設備を揃え、各種説明会やイベントを開催するほか、サイバー攻撃の脅威から顧客のウェブサイトを守る場として活用する。
 後者については、当社グループが経済産業省および国土交通省主催の「空の移動革命に向けた官民協議会」に参画し、空飛ぶクルマの調査・研究を行っている動きを加速させるもの。SBSの取得には、来たるべき未来を見据えた先行投資という側面もあるのだ。
「攻めの保険」と「守りの保険」 SBSの取得には、ブランディングや事業拡大に加えて、「攻めの保険/守りの保険」という側面もある。
「攻めの保険」というのは、業績拡大で人員を増強したときに備え、オフィス拡張スペースをあらかじめ確保するという意味だ。当社グループは現在週2日の在宅勤務としており、あと6割の人員増強まで現状のオフィススペースでまかなえているが、それ以上に人員が増えてきた際はSBSの活用が選択肢に入ってくる。
 一方「守りの保険」というのは、万が一業績が悪化したときに備え、渋谷で賃借しているオフィスから移転可能なスペースをあらかじめ確保するという意味だ。もちろん自社のオフィススペースとして活用しない間は、テナントからの賃料収入で多少なりとも経営を下支えしてくれる。

良質物件を吟味して投資を検討

 ここまでSBS取得の意義について語ってきたが、無論あらゆる企業がこうした不動産投資をすべきとは限らない。冒頭で触れたB/Sは企業経営では極めて重要な事項であり、それを度外視した不動産投資などあってはならない。また資金面の余裕や人員増強の必要性がさほどない企業も不動産投資には原則慎重であるべきだろう。逆にそれらの問題をクリアしていて、かつ良質な物件に巡り会えたら、躊躇せず投資に踏み切るべきであると考える。当社グループは不動産業に進出するわけではないので、不動産投資を積極化することまでは考えていない。ただしSBSのように好条件が揃った物件であれば、投資を検討する用意をしている。
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