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――鈴木邦成氏[日本物流不動産学研究所]に聞く

まちづくり型物流施設開発
プロジェクトはこう作る

  • 物流施設
  • 機能複合

施設内から施設外の充実へ

 物流施設の開発ラッシュは留まるところを知らない。今年に入っても新規参入が後をたたない。ECの配送拠点をはじめ、コロナによる輸出入制限に伴う在庫の保管場所などを確保する企業の需要が旺盛なためだ。個人的には少なくとも4〜5年の間、こうした需要を背景に市場は安泰だ。アマゾンは日本で20か所の配送センター(フルフィルメントセンター)を開設したが、日本の経済規模を考えると50か所程度まで増やせるポテンシャルはある(米国では110か所程度)。
 とはいえ、施設間競争は今後激化することは避けられない。テナント企業から「使いにくい」、「雇用を確保しにくい」とレッテルを貼られないよう、デベロッパー各社はあらゆる知恵を絞っている。人口が密集していない都市部周縁の施設では、シャワー付き更衣室やラウンジ、売店、食堂、託児所など共用部を充実させ、テナント企業の雇用確保を支援する試みが以前から活発化していた。では人口が密集している都市部の施設はどうだろうか。最近になって、共用部の充実からさらに一歩踏み込み、物流施設の周辺に商業施設やレジャー施設などを整備するまちづくり的な複合開発を行うデベロッパーが現れてきた。もともと施設間競争の激しい都市部にあって、テナント企業やワーカーからの人気獲得の点で、ライバルとの差を一気に広げたい意向がある。

商業施設を併設した物流施設「GLP大阪市東住吉区まちづくりプロジェクト」

画像提供:日本GLP
 物流施設は雇用流動性の高いパートタイムやアルバイトの人材が多く、業務に対するノウハウ蓄積が要求されないため、少しでも良い環境の施設があればそちらに流出する可能性が高い。またそうした層をマネジメントする現場主任クラスの人材を流出させないための策も、テナント企業が頭を悩ませている。
 そこで物流施設の周辺に、商業施設やレジャー施設を整備すれば仕事帰りで買い物や娯楽を楽しめる施設として、住宅や公園を整備すれば職住近接を実現した施設としてアピールできる。これによって雇用確保に苦心するテナント企業の入居を促進できるのではないか。もっとも物流施設に何を付帯するかに関しては、各社試行錯誤の段階である。その意味では隣接地でのスケートリンク開設のような変わり種の事例も、今後の試金石として注目に値する。
 個人的には、トラックやフォークリフトの教習所を併設するアイディアは検討の余地があると考える。これはテナント企業にとって庫内作業に必要な人材育成の場が近くにあるという点で、入居先選びのインセンティブとして働くはずだ。

スケートリンクを併設した物流施設「三井不動産ロジスティクスパーク船橋」

画像提供:三井不動産

自治体は物流施設への評価反転

 物流施設と他のアセットタイプを複合開発するのを喜ぶと思われるのはテナント企業だけではない。自治体も歓迎の意向を示すものとみられる。
 自治体は物流施設に対し、かつては雇用や税収の面で貢献度が低いとの認識を抱いていたが、今では長期安定的に雇用や税収をもたらし、かつ工期も短いとして評価を反転させる傾向にある。そうなれば、雇用の場として人を集める物流施設を軸に、地域の賑わいを創出するまちづくりの手法が普及してもよさそうだ。
 デベロッパーからすれば、土地区画整理事業やPRE(公的不動産)活用事業などの場面でそうしたまちづくりを志向すれば、自治体に刺さる提案となって開発用地を手に入れやすくなると考えられる。物流施設で安定的な収益を確保できるのであれば、まちづくりの中身はリスクを取ったチャレンジングなものとすることもできよう。
 なお、物流施設をまちの中心に据えるにあたっては、夜間景観の面に留意すべきと考えている。物流施設は夜になると外観がとても暗くなる場合が多く、施設自体や周辺地域のセキュリティに悪影響をおよぼしかねない。適度な明かりを物流施設に照らすことが重要と言える。

区画整理事業の一環として開発される物流施設「プロロジス東太田川プロジェクト」

画像提供:プロロジス

物流単機能からの脱皮を

 ところで、都心部では用途を複合させる形での大型ビル開発が以前から盛んに行われている。これと同じように、物流施設にも物流以外の用途を積極的に複合させるべきタイミングが到来しつつあると考えている。
 たとえばオフィスとの複合についてはどうか。従来の物流施設にもバックオフィス機能としての事務スペースは置かれていた。しかしながら、物流施設を事業の戦略拠点として位置付ける企業が登場しはじめている。
 ファーストリテイリングは東京・有明の物流施設に本部を構え、撮影スタジオやWEB制作部門専用ワークスペース、カスタマーセンターなどを備えている。また海外ではスペイン・アルテイショにあるインディテックス(ZARAの親会社)の本社が工場と配送センターの機能も備えている。とくにECに注力する企業にとって、物流施設とオフィスは相性のよい組み合わせと言える。
 ちなみに自治体が産業振興を図るうえでも、物流施設は大いに活用しうる。自治体が床を一部借り上げるか賃料補助を行う形で、ベンチャー・スタートアップのEC企業を誘致する取り組みがあってもよさそうだ。そのほか、ECと競合関係あるとされてきた商業施設との複合も有望ではないか。具体的には既存の商業施設をネットスーパー用の配送センターに一部もしくは1棟丸ごと改装する形が考えうる。
 このように物流施設の展開手法は、まちづくり要素の取り入れにせよ他のアセットタイプとの複合にせよ、大きな変革の時代に突入しようとしている。それは物流施設自体への認知度が著しく低かった20年前と比べると隔世の感がある。デベロッパーをはじめ各不動産プレーヤーにおかれては、物流施設の付加価値をより高める柔軟なアイディアの創出に今後も期待したい。
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2021年9月号

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