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産学官連携で研究、不動産業の近未来

不動産イノベーション研究センター

  • 産学官連携
  • 不動産イノベーション
  
  

経済、工学、公共政策学が連携、幅広い視点で不動産を考える

ーー柳川範之氏[東京大学 大学院経済学研究科教授]に聞く
東京大学は4月1日、産学官連携の研究機関「不動産イノベーション研究センター」を設立した。グローバル化の進展、テクノロジー進化、働き方や暮らし方の変化など、不動産業を取り巻く環境変化に対応した国の制度、都市機能・インフラ、ビジネスのあり方を幅広い分野から研究する機関である。センター長に就任した柳川範之氏に、具体的な研究内容についてお話をうかがった。
―不動産イノベーション研究センターの設立の背景や目的について教えてください。
柳川 不動産は社会のインフラであり、単に働く・住む・買い物をする、といったことだけではなく非常に幅広い役割を担っています。近年ではスマートシティに代表されるように、IoTやAIなど異なる分野との連携が深まり、人々の暮らしや社会活動のデータを吸収・発信し、新たなサービスの源になる役割を果たすようにもなっています。
 しかし、これまで日本では不動産について考える・研究するというと、不動産鑑定士や建築士のように業という形、あるいはビジネス現場での実務ノウハウの吸収という形が主流となっていました。センターでは、経済学部や工学部、未来ビジョン研究センターなど他分野の部局が連携、総合大学として各分野のノウハウを結集し、より幅広い観点から不動産を捉えていきます。
 具体的には、経済学部は経済・統計的な立場から、工学部は主として技術的な視点から、そして未来ビジョン研究センターは法律や行政学の観点からアプローチしていきます。異業種からの参入で業界の垣根がなくなってきていることを考えれば、これは当然の取組みでしょう。
     

柳川範之 氏

都市力向上からIoT、AIとの関連まで独自の指数開発も

―研究テーマについて教えてください。
柳川 大きく4つの分野を設定しています。第一が「東京など大都市の都市力向上に必要な制度改善のあり方」です。築古ビルや木造建物など老朽化した建物の再生・改修、それを実現するための制度設計などについて考えるとともに、都市力向上のあり方についても研究を行います。二つ目が「エリア価値増進方策のあり方」です。不動産に関連する新たなビジネスモデルや社会実装への方策を探っていきます。
 これに関連して、「IoTやAIなどの新技術が不動産に与える影響」が第三のテーマとなります。コロナショックを機に、テレワークが爆発的に普及しオフィスニーズは大きく変化しています。あるいはEコマースやデリバリー・サービスの利用拡大がリアルな商業施設の存在意義をも揺るがしています。こうした社会活動や生活スタイルの変化が不動産に与える影響をつぶさに捉えていきます。 最後が「不動産に関する各種データをもとにした研究・分析体制の構築」です。これまで不動産データといえば、各事業者やシンクタンクなどが独自に収集した空室率や成約賃料などがもっぱらでした。 センターではこれに加え、不動産取引データなど官民が保有する各種データを活用し、さらに厚みのある評価・分析手法を開発していきます。その成果として独自の指数なども公表していきたいと考えています。

行政や民間企業とも幅広く連携、実用性ある研究・政策提言を担う

―研究で得られた成果はどのように活かしていきますか。
柳川 学内でのノウハウ共有はもちろんのこと、国内外の大学・研究機関、あるいはニーズがあれば、個別のテーマに基づき民間企業と連携した実証実験も行う方針です。そこで得られた成果を官民はもとより、シンポジウムなどを通じて広く共有していきます。 大学機関が手がける学際的な研究ではありますが、現実の社会・ビジネス活動に沿った内容であることが重要であると考えています。日々変化する情勢をしっかりと踏まえながら、実用性ある研究、そして政策提言を進めていきます。 センターは2020年度から5年間の時限設置となっています。しかしこれはあくまで大学内の手続きの話であって、はなから有限性を想定しているわけではありません。まずは最初の5年で、4つのテーマについてしっかりと土台を固め、将来にわたってその研究を深めていけるインフラを構築していきます。
―不動産マーケットの将来性についてどのようにみていますか。
柳川 不動産は社会のインフラであり、IoTやAIの拡大・発展でその将来性はさらに大きなものになっていると感じています。とはいえ、不動産業界ならではの商習慣やビジネス様式を否定するつもりは毛頭ありません。情報の非対称性は収益の源泉であり、これからもそうした余地は残されるべきでしょう。 こうしたオーソドックスな取り組みに加えて、ビッグデータの収集、それをもとにした利用実態の把握、需要予測など新たな取り組みを進めていけば、さらに不動産の収益性は高まるとみています。異業種から不動産分野への” 越境”は脅威ではなく、さらに市場の幅・奥行を広げることにつながるでしょう。―ありがとうございました。
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