――ウォーバーグ・ピンカス
【試し読み】
ウォーバーグ・ピンカスは、世界でもっとも古い歴史を擁するプライベートエクイティ(PE)投資会社である。1966年に米国で創業以来、成長性への投資をスローガンに全世界で事業展開、欧州では40年以上、アジアパシフィックでは中国を皮切りに30年以上、インドでは30年弱の投資実績がある。
アジア不動産市場は長らくシンガポールオフィスがカバーしていたが、2025年に東京拠点の設立準備に着手し、不動産およびプライベートエクイティ双方で日本市場への戦略投資を強化しはじめている。
同社の投資戦略は、成長性への投資(バリューアッド)とともに、高い専門性に裏打ちされたテーマ型投資で、グローバルな視点に基づくセクター横断的な投資機会の獲得が特徴。具体的な投資分野はファイナンシャルサービス、テクノロジー、インダストリアル、ヘルスケア・コンシューマー、不動産にいたるまで幅広い。
投資プラットフォーム別にみると、PEが最も規模が大きく主力の位置づけ。これに不動産、キャピタル・ソリューションズなどのハイブリッド戦略が続く。不動産はアジアパシフィックのみでの展開となっており、中国のほか東南アジア、豪州、韓国、日本が含まれている。
不動産セクターで代表的な投資先には、アジアで物流施設やデータセンターを展開するESR、日本を含むアジアで賃貸住宅プラットフォームを展開するWeave Living(ウィーブ・リビング)、デジタルインフラ分野に特化したPrinceton Digital Group(PDG)などがある。これら投資先企業が抱えるプロジェクトを含め、AUMは2,100億ドルの規模となり、PEとして有数の不動産投資家に位置づけられる。
日本ではこれまでに、ライフサイエンス・R&D施設、シェアハウスのポートフォリオ、物流施設に投資を実行している。オフィスや住宅など既存アセットクラスが半ば“コモディティ化”、十分なリターン確保が困難となるなかで、この先拡大するニーズを掴む有望成長資産、「いわゆる“ニューエコノミー”の領域に着目している」と話すのは、マネージングディレクター アジア不動産部門共同責任者で日本代表の村田貴士氏。同氏はゴールドマン・サックス東京オフィスでキャリアを積み、アジア太平洋プライベート投資共同責任者兼不動産部門グローバル共同責任者を務めたのち、ウォーバーグ・ピンカスに加わった。
具体的に日本での投資事例をみると、2025年3月にEGWアセットマネジメントと共同で「品川シーサイドウエストタワー」(東京都品川区)をグローバル・ワン不動産と明治安田生命保険から取得した。同じEGWアセットマネジメントとのファンドでは、別の売り主から店舗ビルの「YOTSUBAKO」(2024年3月、横浜市都筑区)や、オフィスビルの「テクノウェイブ100」(2023年11月、横浜市神奈川区)をそれぞれ取得。ウォーバーグ・ピンカスとEGWアセットマネジメントは、日本の主要都市で賃貸型ライフサイエンス・R&D施設ブランド「GRC」を展開、これらビルについて同ブランドの施設として改修・運用していく。
続く2025年4月には、東京圏に所在する「TOKYO β(ベータ)」ブランドのシェアハウス1,195棟(1万6,000室超)をローンスターのファンドから取得。TOKYO βは、ローンスターが2022年までに取得しリブランドしたシェアハウスシリーズで、現在はさらなる価値向上を目的に運用が進められている。
「東京での新しい生活をめざす若者や外国人は数多い。インフレで生活コストが高まるなか、キッチンやバスルームなどの共有スペースを備えたアフォーダブルな住宅へのニーズは一層高まっていくとみている。取得後はオペレーションを均一化・効率化するなど、さらなるバリューアップを図っていく」(村田氏)。
さらに7月から9月にかけては「アイミッションズパーク印西」(千葉県印西市)と「LOGITRES佐野」(栃木県佐野市)の物流施設2棟を、三井不動産ロジスティクスパークから合計353億5,000万円で取得する。
(今後の投資戦略や注目資産は本誌で)