EGWアセットマネジメント
【試し読み】オフィス・商業施設をR&Dに
「GRC」は、都心部にあるオフィスや商業施設の一部区画をラボに改修した賃貸型R&D施設。2025年4月までに、東京と神奈川で3棟を展開している。特徴は、既存物件をコンバージョンすることでコストを抑え、展開効率を高めていること。改修後は従前より高い賃料水準で成約し、物件の収益力を向上させている。
事業に取り組むのは、米PEファンドのウォーバーグ・ピンカス(WP)とEGWアセットマネジメント(EGWAM)。EGWAMは、国内外の投資家を顧客に抱えた不動産AM会社だ。2025年1月時点でのAUMは7,000億円を超えている。
両社が都心でのR&D施設に着目する背景は、研究職をはじめ人材の強い都心志向を受けた企業のアセットライト化にある。企業が有する研究施設は地方・郊外の基幹工場に併設されるケースが多く、人材採用難が懸念されている。そのため都心に研究施設を移転し、かつ自社開発・保有ではなく賃借することで研究予算を確保する企業が増加しているのだ。オープンイノベーションの拡大も、複数テナントが入居する賃貸型R&D施設の需要を底上げしている。
EGWAMは過去10年間にわたり、横浜市に立地する賃貸型R&D施設「ジャーマンインダストリーパーク」(GIP)を運用してきた経験をもつ。物件は常に安定的に稼働し、需要の底堅さを確信したという。米国のライフサイエンスブームを受けて日本でも同分野の投資機会を探っていたWPと協業し、合弁でGRCの立ち上げに至った。
事業のスキームは、WPとEGWAMが出資するファンド(資産規模3億USドル以上)を通してオフィスや商業施設を取得、一部区画をラボに改修したうえでGRCブランドを付与するもの。以下に、これまでの事例を紹介する。
2023年10月、米不動産ファンドから取得したオフィスビルとデータセンターの複合施設。1990年竣工、延床面積5万464㎡。
R&D区画は、2024年12月に3区画(いずれも25㎡)を整備。満床で稼働している。テナント業種は半導体やロボットなど。横浜市は都心からのアクセスが良好で、自治体も企業誘致を推進している。また周辺に理系大学が集積し、研究職の雇用確保に利点をもつことも強みになっている。
改修にあたってはR&D区画の新設だけでなく、「ビル近隣に飲食店が少ないことを考慮し、共用部ラウンジの一部にカフェテリアを誘致。ワーカーの利便性を高め、ビル全体の価値向上にも気を配った」(EGWAM ファンドマネジメント部の樋口篤氏)。今後も順次、空き区画を改修し、2027年から本格的な賃貸開始を予定する。
2024年12月、私募REITから取得した商業施設。2011年竣工、延床面積7,341㎡。
飲食テナントの入居を想定した、十分な給排水設備と耐荷重エリアを有する点を評価した。現在、約140~180㎡の4区画を賃貸ラボとしてリーシング中。今後発生する空き区画も順次、ラボに改修する。
「周辺は人口集積地。最寄り駅直結という立地を活かし、消費者を集めたテスティングの場やクライアントへのショールームなどといった活用を想定している。細胞培養を含むメディカル分野や、化粧品などの一般消費財企業と親和性が高いと見ている」(樋口氏)。
2025年3月、J-REITから取得したオフィスビル。2004年竣工、延床面積3万8,958㎡。準工業地域の立地や優れた耐震性能を評価した。
東京湾岸部はオフィス需要が減退するエリアだが、物件は都心立地かつ海上、航空、陸路すべてにアクセス可能。「R&D施設として考えればこの上ない一等地」(樋口氏)。
9月末に全体の約6割を占める空室が発生する予定で、これをラボ区画へ改修する。1フロア最大1,435㎡と大規模なことから、本社機能と一体での入居ニーズを拾い上げ、テナントの事業のPDCAサイクル効率化を支援する考えだ。
ライフサイエンス系や食品系をはじめとした幅広い業種企業をターゲットに、2026年の賃貸開始を予定する。
各物件の賃料は、いずれも改修前の水準を大きく上回る設定だ。リーシングにおいては、GIPの運用で培ったテナントリーシングノウハウやネットワークを活用している。樋口氏は「従前用途と同じ基準で賃料設定しているわけではない」と前置きしつつ、「ラボの自社開発に係るコストを鑑みれば、オフィスより割高の賃料設定でも容認するテナントが多い」と語る。
WPとEGWAMは、今後も首都圏(東京、神奈川)や関西圏(大阪、神戸、京都)で物件の取得と運用を拡大したい方針。物件はラボ転用が容易な天井高や床荷重、給排水設備を有する既存ビルのほか、更地からの開発も投資検討範囲とする。
「トラックレコードの蓄積に合わせて、より幅広いタイプのプロジェクトに取り組んでいきたい」と、樋口氏は意気込みを語った。