The Apartment Hotel by stylio(東急)
【試し読み】
「The Apartment Hotel by stylio(ザ・アパートメントホテル・バイ・スタイリオ)」は、東急が展開する都市型アパートメントホテル(AH)事業。同社が外部の賃貸住宅を取得、空室を改修したうえで民泊運営事業のUnitoに賃貸しAHとマンスリーマンションの両面で運用する。2025年3~4月に初弾として渋谷区に4棟が開業した。
プロジェクトは、外部資産を取得し、バリューアップのうえ売却する「資産回転型事業」の一環。資本効率の向上やキャッシュフローの安定化を図るためで、過去には外部オフィスビルの再生を複数件手がけた。
東急にとってAHは新規参入となる分野だが、同社は2022年頃から渋谷圏はじめ都市部でのインバウンドの長期滞在やワーケーションなど、多様な生活・滞在ニーズに着目してきた。一方で建築費・地価高騰や宿泊業の人材不足といった課題から、新築ではなく既存物件を活用する手法に事業機会を見出だした形だ。
都市開発本部の小池和希氏は、今回の参入について「2018年の住宅宿泊事業法施行以降、業界全体で民泊運営実績が蓄積されてきた。インバウンド隆盛を受けて新たに参入する中小オペレーターも増加するなか、当社のように大手の上場不動産会社が参入することで、業界全体のガバナンス強化も図れるのではないか」と意義を話している。
The Apartment Hotel by stylioは、観光客の宿泊ニーズに応える都心立地かつ、個人店が多く地場の雰囲気が残るエリアを選定し展開する。事業の足掛かりとして、初弾物件は東急の“顔”である渋谷圏で選定した。
開業したのは[図表]の4棟・41室。各物件は1棟あたり10~20億円で取得した。間取りは1LDKが中心。AH開業にあたり、内装の刷新や間仕切り変更、キッチン・ランドリーの整備などを実施した。ADRはAHでは約2万円/泊から、マンスリーでは約23万円/月からの設定。
物件名 | 概要 |
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The Apartment Hotel by stylio 渋谷1 |
戸数13室(AHは4室)、専有面積37.41~41.94㎡の規模。3月27日運用開始 |
The Apartment Hotel by stylio 渋谷2 |
戸数26室(AHは17室)、専有面積31.83~48.81㎡の規模。4月8日運用開始 |
The Apartment Hotel by stylio 代々木1 |
戸数18室(AHは5室)、専有面積28.97~69.53㎡の規模。3月27日運用開始 |
The Apartment Hotel by stylio 恵比寿1 |
戸数14室(AHは3室)、専有面積20.72~40.54㎡の規模。4月8日運用開始 |
開業以降の稼働率は9割超(4棟平均)。利用者層は、AHではアジア系を中心としたインバウンド、マンスリーでは国内の法人契約が多いそうだ。
その結果、売り上げは従前の賃料収入の約1.5倍に増加。「単価は競合物件よりやや割高で設定しているが、内装のデザインで差別化できている」(小池氏)。
なお、運用については、東急が自社開発したオンライン予約・チェックインシステムを導入。AHとマンスリーそれぞれの空室情報を連携しながら予約を受けることができ、オペレーションの省人化につながっている。
東急は「渋谷2」を除く3棟について、2027年を目処に売却する予定。出口戦略は未定だが、「収益力向上によって利回りを高め、適正な価格で売却したい」(小池氏)。
The Apartment Hotel by stylio の第2弾以降については目下、都内で数棟(計100室規模)の開業を控える。その後は都心5区を中心に、東急の沿線や地方・郊外エリアに進出予定。年間100~200室の供給体制を維持する方針だ。取得対象物件は1棟あたり20~80億円程度、戸数は数十~数百戸(専有面積25~40㎡)、築年数は35年程度までが目安。建築費などコスト環境が改善すれば、新規開発も検討したいとする。開発に合わせて運営業務のグループ内製化も進める。
また2025年3月、民泊プラットフォームAirbnbの日本法人と包括連携協定を締結。今後、同社と共同でThe Apartment Hotel by stylioの利用者に対する実態調査を実施。一般消費者のAHへのイメージ改善や沿線の空き家対策・価値向上に活かしていきたいとした。
国内ではJ-REITや不動産ファンドが民泊・AHの取得を積極化し、開発案件も加速度的に増加している。東急では今後4、5年のAH需要は底堅いものと捉えており、小池氏も「順調に棟数を増やしていき、バルクにまとめてAHファンドを組成するのも面白い」と展望を語った。