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【Trend Reports】
テーマパークの新たな見取り図と戦略のイノベーション

TDLの登場とテーマパーク概念の定着

 横浜市の旭区と瀬谷区にまたがる上瀬谷通信施設跡地(242ha)に、三菱地所㈱が”世界に誇るジャパンコンテンツとジャパンテクノロジーを活用したワールドクラスの次世代型テーマパーク”を建設すると発表された。敷地面積は「東京ディズニーランド(TDL)」とほぼ同規模の51万4000㎡に及ぶ。オープンは2031年ごろを予定し、当初は年間1200万人の集客を見込む。
 
 1983年4月15日、千葉県浦安市舞浜に建設されていたTDLがオープンを迎えた。約1800億円を投じた大規模なこのレジャー施設は、日本に「テーマパーク」という耳慣れない概念と、”ストーリー性””テーマ性”といった施設づくりのキーファクターを広めた。
 
 テーマパークとは、簡単に述べれば、レジャー施設に明確なテーマを設定し、そのテーマに沿ってハード・ソフトを徹底的につくり上げ、演出することによって、現実世界から切り離された別世界の体験を提供する場。アトラクションだけでなく、物販や飲食、あるいはエンターテインメントを組み合わせてテーマにストーリーを与え、リアリティを生み出し、その世界観に引きずり込む。
 
 さらにTDLでは、パークを舞台と位置づけ、来場者を「ゲスト」、従業員を「キャスト」と呼び、ともにオンステージ感覚を楽しみながら高度な人的サービスを提供した。TDLは開業初年度から多くのリピーターをつかみ、年間1000万人以上の集客を実現してみせた。そしてテーマパークという概念も瞬く間に広く知れわたり、レジャー施設にとどまらず、さまざまな施設がテーマパークを研究し、施設開発にその要素を取り入れるようになった。

狭義のテーマパークと広義のテーマパーク

 最近オープンした話題の施設「ジブリパーク」「ワーナーブラザーススタジオツアー東京-メイキング・オブハリー・ポッター」が、テーマパークと一線を画す姿勢をみせているのは興味深い。両者はいずれも著名なコンテンツを題材にしており、前者はジブリの世界観を再現した空間を「公園」のなかにつくったものと述べ、後者は撮影スタジオを忠実に再現した「スタジオツアー」だという。
 
 この2施設は、ライド系のアトラクションがなく、来場者はそれぞれのIP(知的財産)の世界観への深い没入体験を期待していることが共通点といえる。一方で、「○○のテーマパーク」という言い回しを使ってアピールする施設はいまも少なくない。その謳い文句をすべて真に受ける必要はないが、先に示したような40年前に輸入された定義に則った施設だけをテーマパークとみなす態度でよいのだろうか。

 テーマパーク的施設は「広義のテーマパーク」としても捉えられ、そのときどきの時流によって姿・形を変えて生まれてくる。図表1は一例として、〈情緒/鑑賞〉-〈身体/体験〉軸と、〈インドア〉-〈アウトドア〉軸でつくられる4象限に、現在「広義のテーマパーク」として見立てられる業種・業態を落とし込んだものである。「狭義のテーマパーク」は先述の定義に当てはまる施設を指し、「東京ディズニーリゾート(TDR)」の2つのテーマパーク、「ユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)」が典型例である。
 
 デジタルを活用した体験施設は不思議な世界が待ち受け、IP展示施設同様、没入感の高い施設である。ときには体験者たちの心を強く揺さぶる。「チームラボボタニカルガーデン大阪」は、既存植物園にデジタルを活用した作品を展示。夜間の開館時間を迎えると、昼間とは異なる独特の雰囲気を醸し出す。

 
 デジタルアートが〈情緒/鑑賞〉の典型とすれば、新たなアスレチック系の体験施設は冒険心を満たし、身体的な爽快感が味わえる〈身体/体験〉の典型だ。これらはデジタルやアスレチックという仕掛け自体がテーマであり、進化した仕掛けを介してそれまでにできなかったことを体験させてくれる。また「FUJIGATEWAY」は、自然を満喫できるアクティビティを用意したアウトドアアクティビティの拠点として既存パークを包含して開設された。
 
 社会的環境や消費者ニーズの変化などの外的要因が既存業種の変容を促し、テーマパークに近づくケースもみられる。たとえば動物園や水族館は、飼育動物の福祉向上のための環境エンリッチメントという考え方が浸透し、その一環として生息環境を再現した生態展示や行動展示が普及した。もともと動物園や水族館は〝生き物〞をテーマにした飼育展示施設だが、展示の工夫で動物たちのいきいきとした姿を見られるようになり、新たな発見をする楽しみを与えられる場となった。

 また以前の企業ミュージアムは、企業活動や創業者の想いなどについて展示を中心に紹介するケースが多かったが、近年は参加体験型のプログラムが充実してきている。順路に沿って製造工程を見学した後、お土産をもらうのが楽しみだった工場見学にも、やはりそこでしか味わえない”体験”が用意され、それを目当てに多くの人が訪れている。”FarmtoBar”の過程を学べる「ロイズカカオ&チョコレートタウン」は、従業員と工場見学者のアクセスを確保するため、地元の自治体との連名でJR札沼線に新駅の設置を求めた。
 
TDLの登場によりレジャーは受容型から参加型へ大きくシフトしたが、その流れが展示や見学を主体とする施設にも流れ込んだ。さらに体験を通じて顧客と交流し、企業ブランドの価値向上を目指すこともこれら施設の役割となっている。図表2に、21年以降にオープンした主な「広義のテーマパーク」をまとめた。
<続きは本誌にて>

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