武蔵屋[山形県南陽市]/むさしメモリアルパーク通町ほか
山形県の置賜地方、南陽市を本拠とし、葬祭事業のほか仏壇・仏具、墓石販売を展開する㈱武蔵屋(社長柘植吉一氏)が樹木葬事業に参入したのは2019年のこと。以降、3か所を立て続けに開園し、現在、4か所を展開する。樹木葬事業参入の背景や、墓所の特色、葬儀とのシナジーについて事業本部部長の高橋健一氏に話を聞いた。
同社のルーツは、1890(明治23)年に現在の南陽市南東部で創業した仏壇・仏具と漆器の塗師業。98年には葬祭事業に、05年には「むさしメモリアルストーン」ブランドで墓石事業に本格参入し、現在は南陽市に仏壇・仏具販売を担う本社のほか葬祭会館3会館と通夜会館1会館、米沢市に家族葬会館3会館の拠点を有する。葬儀の年間施行件数は23年度で約500件となっている。
19年5月、同社は置賜地方最大の都市である米沢市に樹木葬霊園「むさしメモリアルパーク通町」(以下、通町)をオープン。樹木葬ブランド「むさしメモリアルパーク」を開始し、翌20年5月には県都山形市に「むさしメモリアルパーク蔵王」(以下、蔵王)、「むさしメモリアルパーク鉄砲町」(以下、鉄砲町)を同時オープンする。さらに、22年5月に米沢市に「むさしメモリアルパーク龍覚院」(以下、龍覚院)を開設している。4霊園の概要は図表のとおり。
むさしメモリアルストーンブランドで墓石の販売を行なってきた同社は、全国の霊園や墓石業界とのネットワークもあり、「全国的に樹木葬霊園がふえてきている」「樹木葬のニーズが高まっている」という情報を比較的早期に入手していた。「樹木葬がふえる要因は、やはり『せっかくお墓をつくっても跡継ぎがいない』『お墓の継承ができず、つくるときに墓じまいの心配までしなければならない』といった方がふえてきているということでしょう。その傾向は私たちの営業エリアである置賜地方でも変わらないと考えました」と、高橋氏が話すように、現代のライフスタイルに合わせた墓所を提供しようと、置賜地方で樹木葬霊園がまったくなかった時期に同社は樹木葬霊園事業を立ち上げる決断をした。
しかしながら、樹木葬霊園事業は霊園をもつ寺院が事業主体となるため、寺院の協力がなければ成立しない。同社ではまず南陽市内の寺院を回り打診を繰り返したが、賛同してくれる寺院は見つからなかった。そこで、寺院まわりの範囲を米沢市まで広げたところ、賛同を得られたのが同市通町にある天台宗寺院・龍覚院であった。同社の樹木葬霊園第1号となる通町が、当時まったく拠点のなかった米沢市に開設されたのには、こうした事情がある。
拠点のない地域での樹木葬霊園開設となったため、オープン前の告知はテレビCMや見学会チラシの折込み・ポスティングなどを入念に行なったというが、通町がオープンすると早速多くの見学者が訪れ、第1期として販売予定だった区画はわずか数日で予約が埋まってしまうほど幸先のよい滑り出しをみせた。その後、通町では区画の増設を毎年繰り返してきたが、それでも予約でいっぱいとなった。このことが3年後の龍覚院の開設につながっていく。「お墓の継承に悩む人々がふえている」「樹木葬の潜在的なニーズが高まっている」という同社の考えが裏付けられた形だ。
むさしメモリアルパーク4か所の大きな特徴として、契約期間後の遺骨の扱いがある。多くの樹木葬霊園には合祀墓や納骨堂、供養塔などが併設されており、契約期間の過ぎた遺骨は埋葬区画から掘り出され、それらの施設に納骨・供養されることがほとんどだろう。「多くの人は『樹木葬』というと、『里山などの大きな木の根元に埋めてもらい、土に還っていく』というイメージをもっていると思います。私たちはそのイメージを大切にし、『自然に還る』を前提としています」と高橋部長。
むさしメモリアルパークの4か所には、合祀墓や納骨堂、供養塔などが設けられていない。最終納骨の7年後という契約期間の過ぎた遺骨は区画から取り出され、霊園に植えられたシンボルツリーのまわりに埋葬・合祀され、土に還っていくことになる。
では、むさしメモリアルパーク4か所の現況をみてみよう。まず、米沢市に最初に開設した通町は、前述のとおりオープン後すぐに予想を上回る申込みがあり増設を繰り返したが、現在は200超ある区画のうち9割以上が予約済みで、1人用数区画の空きを残すのみだ。それを補完するべくオープンした龍覚院はペットと一緒に埋葬・供養が可能で、24年4月の区画増設後もコンスタントに申込みがきており、2年間で約4割の区画が埋まった。山形市の蔵王、鉄砲町については、先行した競合があったことや永代供養墓などの選択肢が多いこと、また同社の拠点がなく知名度がほぼないことなどから米沢市の2か所よりは申込みが少ないものの、樹木葬ニーズは高く、2か所300区画のうち6割弱の区画が予約済みとなっている。
本業である葬祭事業とのシナジーはどうだろうか。「樹木葬の場合、生前に予約される方が多いですから、そうした方々に葬儀の会員にも入会していただき、万が一ご不幸があったときには武蔵屋でお葬式をあげていただく。樹木葬を契約した方には葬儀から埋葬・供養までのワンストップサービスを提供する流れをつくりたい、という構想は樹木葬霊園事業の計画段階からありました」と高橋部長は言う。
実際、むさしメモリアルパーク4か所では生前に契約(寿陵)している人が大多数を占めており、現在、そうした樹木葬の契約者からの葬儀依頼がふえ続けている。「樹木葬を介して、事前・葬儀・事後と最後までおつきあいできると考えています。お客様は窓口が1つのほうが頼みやすいでしょうし、後の流れもスムーズになります。万が一の際には、武蔵屋に電話をすればあとは流れていくという道筋をつけているので、事後の納骨や供養まで任せられるという安心感を与えることができていると思います」と高橋部長。むさしメモリアルパークの事業は、顧客に死後のワンストップサービスの安心を提供する入口となり、同社の葬祭業に大きなシナジーをもたらしているのだ。
同社の今後の展開としては、樹木葬霊園についてはニーズが依然高く、ふやしていきたい考え。現在、樹木葬事業に協力してくれる寺院を探している状況だという。
そのほか武蔵屋では、樹木葬事業に取り組んだことで仏壇・仏具の売り上げ増加や、葬祭業のエリア拡大などのシナジーも生まれているという。より詳細な内容は、月刊フューネラルビジネス10月号でお読みいただけます。