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温浴施設の計画・デザイン・プランニングにおける具体的な考え方

中村敏之 ㈲アクアプランニング 代表取締役

運営効率に配慮した適正規模・ゾーニングの算定手法

運営を踏まえた施設計画

 施設全体計画をする際に考えなければならないことの一つとして、その施設を運営する会社には「どんな特徴があるのか」「得手不得手があるのか」などを考慮して計画を進める。たとえばオーナーが飲食店営業の経験者であったり、他の事業もやっていてそこからの人材確保や、運営面で連携をとることで相乗効果を狙える会社であったり、また、計画地周辺にすでに自社で運営している温浴施設があり、そことのドミナント効果を考えている会社であるなどである。
 そうした運営会社の企業理念や考えを考慮して全体像を組み立てていくことが重要で、それによって必要アイテム、ゾーニング比率や顧客動線、スタッフ動線など、すべてが変わってくる。
 極論をいうと、画一化されたパッケージ型の店舗では他店との差別化はむずかしく、どんな施設も運営する会社と運営方法が決まらないと施設計画はできないといえる。

配置計画

 施設の方向性と規模がある程度定まってくると、次に路面店の場合は配置計画を考えるが、そこで主に考慮すべきことは、道路からの建物の見せ方、車の進入路や駐車場配置計画など、通常の商業施設計画の際必要な要素はいうまでもないが、温浴施設に限ってはそれだけではなく、温泉や井戸、上水などのタンク設置スペースの確保が必要となる。
 ただしこれは、インフラ状況、利用者数によって大きさが決まり、一つひとつがかなりの大きさになるので基本計画といえどもはじめの計画は綿密に行なう必要がある。
 それ以外には機械室などのメンテナンス車両の動線、必要に応じてリネンクリーニングを外注とした場合(リネンサプライ)や、炭酸泉ボンベ業者の搬入動線なども考慮して配置計画をしなければならない。けっして建物と駐車場を敷地いっぱいに・・・とはいかないのが温浴施設の配置計画のむずかしいところである。また、敷地の奥側に建物配置をする場合、エントランス近くのスペースに足湯や待合ベンチ、ふれあいゾーンのようなものを設けることで、はじめて利用する人にとっては気軽で入りやすい施設と印象づけることもできるので、敷地に余裕があれば考慮したい。

基本計画(ゾーニングの考え方)

 次に考えるのは最大収容人員である。これは延べ床面積に対して、1人当たりの専有面積を除して算出する。
 この専有面積は、業態、施設規模、客単価、によって都度変えて計算をする。以下に一般的な専有面積の考え方を明記する。


◦施設規模=中規模、業態=スーパー銭湯(岩盤浴がない、あっても複数の部屋がない施設)→1.5坪/人
◦施設規模=中規模、業態=スーパー銭湯(複数の岩盤浴を備えた施設)→1.6~1.7坪/人
◦施設規模=大規模、業態=大型スーパー銭湯→1.8~2.0坪/人
◦面積に限らず高客単価の施設=1.8~2.0坪/人もしくはそれ以上の専有面積


 以上は、あくまでもゾーニング計画の際の目安となる一般的な専有面積をお伝えした。ここでいえるのは、客単価が高くなればなるほど顧客満足度を得るために比例して専有面積もふえていくということである。
 次に考えるのは、施設内にどんなアイテムが必要で、それぞれのゾーン割合はどうするかを検証し、大まかなゾーニングに割り振っていく作業に入る。
 具体的には、館内滞在者がそれぞれのゾーンに何人が滞在するのかを想定して作業を進める。以前は、「浴室:レストラン:休憩ゾーン」の滞在者比率は、それぞれざっくり3分の1ずつになるという考えもあったが、いまでは岩盤浴や休憩ゾーン、マッサージなどのトリートメントアイテム数など、施設によって考え方がまちまちで、業態ごとに詳細に検討する必要がある。

<中略>

安全性と規模効率を備えた浴室・諸室計画の考え方

脱衣室、脱衣ロッカー数

 これを決めるには施設オペレーション(リネンオペレーション)が大きくかかわってくる。
 たとえば、その施設が高客単価低回転タイプの施設で、来場者ほとんどに館内着を提供するような施設の場合、ほとんどの利用者は浴室を出て館内を利用する際自分の衣服は脱衣ロッカーに残ったままになるので、当然「脱衣ロッカー数=最大収容人員と同数」もしくはそれ以上のロッカー数が必要となる。
 反対に館内着の提供がない場合、その場合は浴室を利用する人のみが脱衣ロッカーを使用するため、浴室および露天風呂の収容人員に合わせたロッカー数でよいということになる。
 これらは面積配分表より算定するが、どちらの場合も実際はロスを考え5~10%程度多めにとることが理想的である。

ロッカー配置と通路幅の考え方

 基本は下足ロッカーの際の考え方と同じで、脱衣ロッカーの場合通常は既製品ロッカー1本(通常は幅90cm)当たりの人数でその配置と通路幅を決定する。
 これは施設コンセプトや客単価からどのタイプにするかを決めるのだが、一般的に客単価が高い施設になればなるほど同じロッカー幅が90cmでも1人当たりの有効容積を多くとるため、扉の数は少なく選定することになる(たとえば幅90cmで3人用とするなど。2人用のものもあるが温浴施設の場合はあまり見かけない)。
 次に同じく90cm 幅で、4人用、6人用、7人用、8人用、とバリエーションは広がる(8人用は主に宿泊者用などの場合に用いることが多い)。
 これらを効率よく並べていくのだが、その際に注意しなければならないことはここでもできるだけ回遊性をもたせることである。それによって繁忙期のカオス状態を少しでも緩和することができる。
 次にロッカー間の通路幅の考え方だが、ここで注意しなければならないのは扉の寸法である。

 たとえば幅90cmで3人用、もしくは上下6人用(上3人、下3人)ロッカーの場合は、その扉はおおむね30cm となり、これが両側に並んだ場合、向かい合う扉が同時に開くと約60cm のスペースを取ることになる(右図 脱衣ロッカー通路幅)
 つまり通路幅を1.5mとした場合、扉寸法を差し引くと実際の有効通路は1.5m-60㎝=90㎝となり、同時に向かい合わせで着替えたり、客同士がすれ違うには厳しい数字となる。また、連続して並ぶロッカー台数によってその通路幅を広げる必要があることは下足ロッカーの配置の際と同じである。
 もう一つロッカー配置を考える際注意しなければならないことは、ロッカー同士のコーナー(入隅)の考え方である。これは下足ロッカーの並びにも共通することだか、コーナー部分ではその隣り合ったロッカーの扉同士がぶつかってしまい、実際には使いづらい。その場合はどちらかに余分なスペースを設け、もう片方のロッカーをずらすように計画する。その際できた「余分なスペース」を収納とするのも一考である。

浴室(浴槽、洗い場、その他配置計画)

 浴室を計画するうえで重要なポイントは、浴槽の位置およびその大きさ、洗い場の数とそのレイアウトおよび位置であることはいうまでもない。
 また、浴室内の収容人員と面積については面積配分表からある程度の大きさは算定できるが、最初の施設基本計画でざっくりとした面積を算出する際は、浴室面積(サウナ室やあかすり面積含む)に対して「坪当たり1人」+「露天風呂収容人員」と考えて進めるのがよいであろう(露天風呂の収容人の考え方は後述する)。
 ただし基本設計に進む際は、そのままでは不具合が生じることもあり微調整しながら進めていかなければならないので注意願いたい。また当然浴室内にも動線計画があり、利用者がどのように移動していくかを想定しながら配置計画を行なうのは他のゾーン計画と同じである。
 洗い場カランの数はどのように決めるかということだが、これは次のような考え方で決めるとよい。一般的な浴室内の収容人員は、浴室面積に対して坪当たり1人で計算することは先述したとおりである。仮にそれが50人であった場合、1カランに対して1人当たりの平均利用時間をおおむね以下に想定して検証する。男性=約10分~12分、女性=15分 浴室滞在時間が1時間として、カラン1個当たりの処理人数は男性5~6人、女性4人となる。よってこの場合の必要カラン数は、男性10個、女性12~13個となる。実際はこれにある程度余裕をもたせて数量を決めていく。

浴槽の位置および大きさ

 洗い場の位置がおおむね決まったところで、次は浴槽の位置と適正な大きさを考えなければならないがこれについては以下のような考えで進める。
 まず浴槽の配置は、景観など窓の有無や浴室形状(長方形か、正方形に近い形かなど)や大きさによって変わってくる。通常は窓面に沿って計画をする、もしくは壁面に沿って計画することが多い。
 ただ、大きな浴室や正方形に近い浴室の場合、もしくは銭湯のような小規模施設の場合、浴室の真ん中に設けることも少なくない。また、銭湯の場合はこの浴槽の周りに洗い場を設けることが多いが、これは敢えて洗い場エリアをつくり、その中の通路を洗い場利用者だけが利用するということが面積的にむずかしいというところからきている。
 つまり浴槽周りの通路と、洗い場周りの通路を重複させて少しでも面積を削減するということから必然的にそのような計画になることが多い。

 次に浴槽の大きさだが、これは浴室内の利用者(収容人数)がさまざまなゾーンに何人いるかということを検証しながら進める。
 たとえば、先の50人収容の浴室の場合、仮にサウナ室に10人、あかすり2人、洗い場10~13人とした場合、合計で22~25人となり残りは28~25人となる。
 この人数を浴槽に入ることができるように考えるのだが、その場合浴槽の必要面積は1人当たり約1.0㎡にて計算することで算出する。この浴室の場合、22~25人=22~25㎡の浴槽が必要ということになる。
 これを浴槽アイテムによって分けていくのだが、これはあくまでも目安であり、実際は浴槽形状(奥行きや幅、深さ)により変わってくるので、最終的にはそのあたりの調整をしながら基本設計を進めていく。
 ちなみに浴槽形状は、同じトン数(湯量)、同じ面積でも形状により実際の収容人員は大きく変わる。たとえば湯量が豊富で、丸いもしくは正方形の浴槽を計画した場合、一般的に利用者は浴槽の真ん中には行こうとせず、ほとんどが浴槽縁にもたれて利用する。そのためせっかく湯量豊富な浴槽をつくっても、結果的に少人数しか利用しない浴槽となってしまう。
 ただし、高級感のある施設などで敢えて大きな浴槽をつくることで満足度を高める目的などの場合はこの限りではないのと、浴槽の真ん中にもたれることができる手すりや岩などを配置することで、収容人員をふやすことができることは参考までにお伝えしておく。

 施設側としてはできる限り湯量は少なく、収容人員の多い浴槽を計画したいと思うのが大半かと思う。その場合に必要となるのが最小寸法の考え方である。たとえば2m×2mの浴槽(表面積4㎡)で、深さ60cm浴槽の場合、使用する湯量は2.4トンとなり、収容人員は恐らくこの奥行きでは片側の縁にもたれて利用することになり3人が限度であろう。
 これを、足を伸ばしてその先にある程度人が通ることを想定した場合に必要な寸法を考慮して、浴槽奥行きを1.5~1.6mとして計画した場合、浴槽の幅は2.6~2.5m(表面積3.9~4.0㎡、湯量2.34~2.4トン)となり、この場合の収容人員は4人となり、2m角の浴槽より1人多く収容することができる。
 また、深さが深くなれば(立湯のように)当然1人当たりの専有面積も変わるので同じ表面積と比べて多くの人数を収容する浴槽をつくることができる。
 このように浴槽計画には表面積だけにとらわれず、その奥行き、間口、深さなどを考慮して計画を進めることが重要となる。

 座って使う浴槽深さを考える場合、通常は60cmとすることが多いが、実際には男性60cmとし、女性の場合若干浅くする(たとえば55cm)ことで、女性にとって使いやすい浴槽となり、そのぶん湯量削減にもつながることになるので実施設計の際に考慮するとよい。
 浴槽深さについては、座って利用する場合60cmとすることが多いと先述したが、その場合必ず浴槽内にはステップが必要となる。通常これは高さを30cmとし浴槽内に1段確保することが多いが、ここで注意したいのは浴槽の外側にもステップがある場合、浴槽内のステップの天端はそれと同じもしくはそれに近いレベルで設けるほうがよいということである。これは、浴槽内に足を踏み入れた際、高さが違うと足を踏み外して倒れこんでしまうことを防止するための考えである(右図 浴槽ステップ)
 また、浴槽内の深さを変える場合、泉質によっては底面が見えない場合もある。その場合は必ず降りるところを限定して、その場所に手すりを設けるようにする必要がある。仮に透明なお湯で浴槽底面が見える場合でも、深さの違う浴槽底面の素材の色を変えるもしくは段鼻の色を変えるなどして段差をわかりやすくすることをお勧めする。

オーバーフロー

 浴槽の水質を維持するうえにおいて大切な機能として、オーバーフロー(お湯が湯船から溢れ出ること)がある。これは人が浴槽に入った際お湯が溢れる場合と、浴槽水表面の汚れを洗い流すためお湯を補給することで強制的かつ定期的にお湯をオーバーフローさせる場合の二通りがある。
 ではこの場合どこからお湯を溢れさせるのか。浴槽の縁全面から溢れさせることもよいが、それでは新しく入れた(補給した)お湯までそのまま流れ出ていってしまう恐れがある。そこで実際には浴槽縁の一部を他の縁より30~50㎜程度低くすることで、そこから溢れさせるようにする。このオーバーフロー位置は、吐水口とは反対もしくは対角線上に設置することで、新しいお湯がそのまま溢れ出てしまうことを防ぐことができるので、それを考慮しながら位置を決めていきたい。

(つづきは本書で)

温浴施設開発&管理・運営計画資料集

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●A4判/縦型/114頁
●定価99,000円(本体90,000円)
●2024年1月31日発刊

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