キーワード検索

サイト内検索を閉じる

――多幾宏平[マーケティングリアルティ]

「摩擦」を「プレミアム」に変える

【第10回】マーケティング視点の不動産投資講座

避けられない「多国籍化」という
メガトレンド

今後の不動産市場において、絶対に避けて通れないメガトレンドがあります。それは「人口動態の変化」と、それに伴う「外国人移住者の増加」です。世界を見渡せば、少子高齢化に伴う労働力不足と経済成長の維持というジレンマは、現代の主要国際都市が直面している最大の課題のひとつです。ロンドン、パリ、シドニー、シンガポールといった世界の主要都市は、経済のエンジンとして外国人労働力に依存せざるを得ない一方で、住宅価格の高騰や文化の違いによる「社会的摩擦」に直面し、その対応に苦慮しています。

さらに重要なトレンドとして、単なる人手不足の解消にとどまらず、イノベーションの源泉となる「高度人材」の獲得競争がグローバル規模で激化しています。新しい価値を創造できる高度な教育を受けた人材(AI・IT エンジニア、研究者、起業家など)は、都市に新たな経済成長と税収をもたらすため、各国政府はビザの優遇措置等を設けて熾烈な誘致戦を繰り広げています。

日本、特に東京も例外ではありません。世界で最も急速に少子高齢化が進む中、インフラやサービス業を維持するために、事実上の移民受け入れが急速に進んでいます。同時に、世界基準で活躍する高度人材をいかに惹きつけるかが、グローバル企業と都市間での競争を生き抜く鍵となっています。

AI やロボティクスが進化しているとはいえ、建設、清掃、介護といった「物理的空間での複雑な作業」を必要とするエッセンシャルワークを完全に代替するにはまだ長い時間が必要であり、国の成長、都市の活力、企業のグローバル競争力を向上させるためには国外からの労働力の流入は構造的に避けられない世界的なトレンドで、日本も例外ではないのです。

各国政府のアクセルと
ブレーキの「無限ループ」

しかしながら国際都市を抱える政府は必ずと言っていいほど「ジレンマ」に直面します。経済成長を至上命題とする資本主義において、政府の本音は「活力を維持するために、外国人労働力を最大限利用したい」。しかし、民主主義社会においては、移民の急増がもたらす物理的・文化的な摩擦から発生する国民の不満も無視できません。ロンドンにおける移民増加への反発によるブレグジット、シドニーにおける深刻な住宅価格の高騰やインフラ不足に対する市民の不満など、現地のキャパシティを超えた瞬間に強烈な反動(摩擦)が起きます。結果として、各国の政府は[図表]のような課題感とジレンマの間で揺れ動くことになります。

 

[図表]ビジネスモデルの比較と不動産業界へのヒント

 

この「無限ループ」が存在する限り、主要都市における外国人市場は拡大と定着を続け、不動産市場においても彼らのプレゼンスは高まり続けることになります。

「摩擦のリスク」が生み出す
巨大なブルーオーシャン

不動産業界において、この「外国人の増加」は長らくネガティブな文脈、すなわち「リスク」として語られてきました。「生活習慣や文化の違いから、ゴミ出しや騒音のトラブルが起きるのではないか」「家賃保証や退去時の原状回復で揉めるのではないか」など、多くのデベロッパーやオーナーが、外国人=摩擦が起きるリスク・管理の手間と捉え、消極的な対応に留まっています。

しかし、長期的なトレンドと事業収益の視点から見れば、競合他社が「リスク」だと恐れて参入をためらっている市場こそが、最大のチャンスです。

日本の賃貸市場において外国人が直面している「保証人の壁」や「家具の手配」、「コミュニティからの疎外感」といった強烈な不満を的確に解消するプロダクトを提供できれば、それは価格競争(コモディティ化)とは無縁の、巨大なブルーオーシャンになり得るのです。

市場を細分化し、ターゲットを絞り込む

このブルーオーシャンを開拓するためには、まず「セグメンテーション(市場の細分化)」が重要です。不動産業界では往々にして「外国人向け物件」という大きすぎる主語で一括りにしがちですが、宿泊施設に多様なラインアップがあるのと同様に、外国人向けの住宅も多様化が可能です。例えば、インフラを支える労働者の移住需要なのか、あるいは海外富裕層による高額物件の購入需要なのか。また滞在スパンで見ても、永住を前提とした「移住」か、数年単位の「駐在」か、あるいは数ヶ月の「滞在」か。これらの条件によって求める物件のハードもソフトも全く異なります。

例えば、「家族帯同で日本に駐在する高度ITエンジニア」と、「数ヶ月ごとに世界の都市を行き来するグローバル・デジタルノマド」を比較してみましょう。前者は、家族が安心して暮らせる広さやインターナショナルスクールへのアクセス、本国に近い生活環境を求めるでしょう。一方後者は、スーツケース一つで入居できる高品質な家具家電付きの空間と、すぐに仕事が始められる高速通信インフラ、そして現地の情報交換ができるラウンジ空間を重視するはずです。

「摩擦」から「プレミアム」へ

「どの国の、どんな目的を持った、どのようなライフスタイルの層をターゲットにするのか」。それぞれのターゲットと想定される市場サイズ、潜在ニーズの解像度を高めることが、外国人に「高くてもここに住みたい」と思わせるプレミアム物件を創り出す起点となります。ターゲットを明確に定めることで、彼らが抱える文化・生活習慣の違いによる「摩擦」を、管理会社のマンパワー(多言語の張り紙など)に頼るのではなく、「直感的にわかるハードの設計」と「ルール作り(ソフト)」であらかじめ解決しておく。この逆算のアプローチができれば、その物件は「外国人が多くて管理が大変な物件」から、「多様な国籍のプロフェッショナルが、互いの文化を尊重しながら心地よく暮らせるインターナショナル・レジデンス」へと劇的に変貌し、強固な賃料プレミアムを生み出すのです。

社会の大きなうねりを考察し、そこに生じる「リスクや不満」を分析、ターゲットのセグメンテーションによって「付加価値」へと変換していく。市場環境は常に変化しており、その変化に対応していくことこそが商品設計の本質です。 人口減少や外国人の増加を単なる社会課題として捉えるのではなく、新たな需要が生まれる兆しとして読み解く。そうしたマーケティング視点を持つことで、これまで敬遠されてきた「摩擦」さえも、競争優位を生み出す「プレミアム」へと転換できるのではないでしょうか。


本連載「マーケティング視点の不動産投資講座」
過去の記事は以下からご覧いただけます。

月刊プロパティマネジメント
2026年7月号

月刊プロパティマネジメント 2026年7月号

定価:4,400円(本体4,000円)

年間定期購読料

最新号から

定価:49,500円(本体45,000円)[送料込]

年間定期購読料+PriMe(PDF配信)

最新号から

定価:75,900円(本体69,000円)[送料込]

関連リンク

ページトップ