執筆|阿部博秀 H.A.アドバイザーズ㈱ 代表取締役
マネジメント契約やフランチャイズ契約などのパートナーシップ締結を目的に交渉を行なう場合、オペレーターの企業組織について理解しておく必要がある。
外資系5メジャーオペレーターについては、交渉相手となるホテル開発責任者・担当がエリアまたはカントリーオフィスがある日本に在籍しており、日本語で交渉することができる。さらに、開発に関わる主要な担当者(法務担当、テクニカル・デザインサービス、オペレーション責任者、エリア責任者)が日本に在籍している、または日本語で対応できる体制がある。
一方で、日本未出店または出店していても日本にカントリーオフィスがない、あってもセールスがメインの機能であるオペレーターもいる。その場合、開発担当は香港やシンガポール、ニューヨークなどに在籍していて、日本語で対応できないケースがほとんどである。
つまり、交渉のコミュニケーションという点ではメジャーオペレーターにメリットがある。近年は日本未進出のラグジュアリーホテルオペレーターを誘致するために、海外の開発担当と英語で直接交渉するケースも増えている。海外にいる開発担当やオペレーション、テクニカル・デザインサービス担当のなかには、日本語ができなくても日本でのビジネス慣行を理解し、フレキシブルに対応できるケースもある。
したがって、オペレーター選定をホテルアドバイザリー会社に依頼する方法もある。メリットの一つは、各オペレーターの海外人材についてもある程度理解をしており、英語でのコミュニケーションをサポートしてもらえる点である。一方でオペレーター選定を自社で行なう場合、日本未出店のオペレーターを候補に考えるのであれば、ヒアリングを通して開発担当や主要な担当者について理解しておくことが重要である。
ホテル開発担当は、オペレーター選定の交渉を行なううえで最も重要な相手である。
優秀なホテル開発担当は、開発における基本的な知識(法務、財務、オペレーション)、コミュニケーション(英語力含む)、交渉力に加え、社内ステークホルダー(法務、オペレーション、テクニカル・デザインサービス担当)との調整能力をもっている。そのバックグラウンドは、ホテルオペレーション、フィジビリティ、コンサルティング、デベロッパー、オーナー、ファイナンスなどさまざまである。ホテル開発経験を経るなかで自らの実績がない分野についても知識を習得し、補っていくケースも多い。
オーナーにとって最も頼りになるホテル開発担当とは、最終的に開発部門責任者や、ときにCEOを説得できるだけの力量をもっている人材である。オーナーとの条件交渉ではさまざまな困難を伴うため、月1回の本社開発委員会での説明と承認が必要となるからである。
ホテル開発担当の右腕として重要なポジションがフィジビリティスタディ担当である。
対象ホテルのマーケットや競合ホテルを分析し、収支予測(Proforma)を作成する。通常、フィジビリティスタディ担当は開発部に所属するのではなく、財務部門などに属している。これは収支予測を独立して客観的に行なうためにあえて開発部の影響下に置かないという考え方で、特に上場会社の場合はコンプライアンス上必須でもある。
開発担当がオーナーとの窓口になるため、通常フィジビリティスタディ担当はオーナーと直接やりとりしない。ただ、フィジビリティスタディ担当が対象ホテルのマーケットをよく理解し、競合ホテルのパフォーマンス情報をSTRやHotStats以外からも独自のネットワークで入手できるかは重要である。
オーナーはホテルアドバイザリー会社から入手したマーケット分析・収支予測をもとに、オペレーターが提出する収支予測を分析する。オペレーターの収支予測がデータに基づいた適切なものであるか、質問に適切に答えられるかはオーナーからの信頼度に影響する。
法務担当(Corporate Counsel)は、マネジメント契約のレビューを依頼する弁護士事務所と確認を行ないながら、オーナーとの条件交渉をしていく。
メジャーオペレーターであれば、日本人の法務担当がいて日本語でコミュニケーションできるケースも多い。法務担当が海外にいる場合は、日本にある弁護士事務所に依頼するので言語的な問題はない。基本合意書やマネジメント契約の交渉は開発担当が窓口になるため、法務担当や弁護士事務所の担当弁護士がオーナーとの交渉場面に出てくることは通常ほとんどない。
法務担当はオペレーターのブランドの保全、利益の最大化、リスク低減を図るのが役割であるため、当然タフな条件交渉となることが想定される。開発担当はオーナーからのリクエストに対し、ときには法務担当を説得しなければならない。法務担当も過去の交渉経験から、日本のホテルオーナーのプライオリティを理解しているケースもある。
テクニカル・デザインサービスは、オーナーが作成するホテルの建築プラン、図面、フロアプランをブランドスタンダードの観点からレビュー、コメントし、必要な変更をリクエストする業務を行なう。
テクニカルサービス契約の締結前にオーナーとのコミュニケーションは原則行なわないが、開発担当がオーナーから契約前に入手するフロアプラン、設計図などの書類に対し、早い段階でコメントを開発担当に渡し、RFP(Request for Proposal)交渉で有利になるようにサポートすることもある。
オーナーにとっても、消防、安全基準(Fire and Life Safety)に関する点やゲスト・従業員用のエレベータの数、バックオフィスやキッチンの面積などは、早い段階で指摘されたほうがプロジェクトマネジメントの観点からも望ましい。
テクニカル・デザインサービス担当は、インテリアデザイン事務所、設備会社、プロジェクトマネジメント会社、ホテルオペレーションなどバックグラウンドは多様であり、大学で建築を専攻した人もいる。日本人あるいは日本語がある程度理解できる外国人、アジアオフィスから英語でコメントするケースなどさまざまである。日本でのプロジェクト実績があったほうが望ましいが、そうでなくても建築、インテリアに関する知識、経験、高いコミュニケーション能力で、プロジェクトをスムーズに推進する人材もいる。
オペレーション担当も通常はオペレーター選定の段階でオーナーとの交渉には入らない。
ただし、RFPでオーナーがオペレーションに関して詳細な質問をする(例えば、婚礼関連施設、レストランコンセプト、売上や費用の詳細など)場合も多い。その場合に、開発担当はエリアのオペレーション責任者や料飲責任者にインプットをもらい確認していく。そのインプットがオーナーからの信頼を得るサポートとなるケースも多い。
通常、開発責任者・担当はアジア地区もしくは本社の開発責任者に対してダイレクトにレポートし、日本のエリア・カントリーヘッドにはレポートしない、もしくは二次的なレポートというケースも多い。
一方で、オーナーはエリア・カントリーヘッドとのコミュニケーションを大切に考える。最終的には、対象ホテルの開業前から開業後のサポートはエリア・カントリーヘッドの責任範囲になると考えるからである。そのため、開発担当もエリア・カントリーヘッドからのサポートの重要性を認識し、開発案件に巻き込んでいくケースも多い。
メジャーオペレーターのエリア・カントリーヘッドは外国人と日本人の両方のケースがあるが、日本人オーナーとの関係性構築は非常に重要視している。
(つづきは本書で)