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空のモビリティの社会実装に向け
多彩なアセットをもつ強みを活かし
バーティポートの開発・運営事業に着手

三井不動産

VIEWPOINT|大手デベロッパーの狙い

「産業デベロッパー」として
新事業領域の開拓目指す

 三井不動産㈱は、2025年6月、空のモビリティの社会実装に向け、離着陸場であるバーティポートの開発および運営事業の立上げに着手したことを発表した。
バーティポート(vertiport)とは、垂直を意味するverticalと、空港のairportの2つの単語を組み合わせたもので、垂直に発着可能な「空飛ぶクルマ」のための離着陸場。国土交通省においても25年1月に「バーティポート施設のあり方検討委員会」を立ち上げ、同年7月には「空飛ぶクルマの離着陸場(バーティポート)のあり方‒機能と分類‒中間とりまとめ」を公表するなど、空飛ぶクルマの社会実装・普及にあたってバーティポートの整備にも目が向けられている。

 大手デベロッパーがこうした領域に参画する理由と事業展開の方向などにつきレポートする。
 まず参画に至る背景では、総合不動産デベロッパーとして、オフィスビル、商業施設、住宅、ホテル、物流、スタジアムなど、多様なアセットを開発・運営する同社グループにあっては、これらに空のモビリティに関する機能、サービスをプラスすることで、新たな付加価値を創造し差別化につなげていくとの戦略を掲げることは十分納得できるところだ。
 一方で、同社グループでは24年4月に策定した長期経営方針「&INNOVATION2030」において、不動産デベロッパーの域を超え「産業デベロッパー」として社会の付加価値の創出に貢献することを掲げている。いわば新たな需要を先取りし産業を創造するプラットフォーマーとしてのあり方を目標とするなか、その有力な1つのテーマと位置づけられるのが「空のモビリティ」というわけだ。「直接的に既存のアセットにポートを開設していくだけのビジネスではなく、さまざまな関連プレイヤーの方々と協議しながら新たな産業として動かしていく、という大きな狙いがあります」と同社イノベーション推進本部ベンチャー共創事業部共創事業グループシニアプリンシパルの信江一輝氏。
 ちなみに同事業の社会実装においては、トヨタ自動車㈱、エアロトヨタ㈱(旧・朝日航洋㈱)、ANAホールディングス㈱を皮切りに、機体メーカー、運航サービス事業者、離着陸場運営事業者など民間各社および国、自治体などとも連携を図っていく。
<中略>

伊勢志摩と築地を皮切りに
時間価値と体験価値を訴求

 では実際、同社ではどのような立地での開設を検討しているのか。
 現在、明らかにされているのは、リゾートでは三重県の伊勢志摩地区、都市部では東京・中央区の築地地区の2か所だ。前者はリゾートホテルやゴルフ場などを擁する「NEMURESORT」を含む。1960年代にヤマハリゾートが開発し、07年に三井不動産グループが取得・運営する、かつての「合歓の郷」だ。後者は築地市場の跡地で約19万㎡の敷地に多目的スタジアムやホテル、オフィス、レジデンス、ホールなどの整備を同社が代表企業となり行ない、2030年代前半に第1期まちびらきを予定するビッグプロジェクト。

 その選定理由について、前者は現状陸路では名古屋からも2時間半など一定の時間を要するため、たとえば名古屋市との間での空のモビリティ航路を想定する。「現在でもセントレアからはヘリコプターの運航がありますが、宿泊者の方々は熊野古道や伊勢神宮などを周遊されるケースも多く時間的な効率を考えると十分ニーズがある」(信江氏)。
 後者についても築地を中心として半径100〜150㎞を想定すると房総や箱根、富士山・裾野などの観光地への日帰りも容易になることでニーズの顕在化が見込まれている。
 こうした観光需要については、当然同社グループが展開するリゾートホテルなど観光拠点とのネットワークが視野に入っているものと思われ、同社としても同事業とリゾートホテルとの親和性の高さを自負する。
 気になる料金設定については、スタート時点では供給規模や安全面を考慮した運航頻度の制約などの条件面からハイエンドの顧客の利用中心のプライシングになることが想定されるが、まずはインバウンドも含めラグジュアリーなホテル利用者が主対象と考えればふさわしいサービスとなろう。一方で、この先普及拡大が進めば、商業施設やビルなどより多様なアセットへの展開とともにコストダウンも考えられるところだ。
 顧客のニーズについて信江氏は2つをあげる。「1つは『時間価値』。一定のお金を費やしても時間の短縮に価値を見出そうとするニーズです。もう1つが『体験価値』。特別な記念日などに空から普段見られない景色を楽しみたいというものです」。

 前者については前述の周遊観光ニーズだけでなく、ビジネスシーンにおいてもたとえば成田空港とのアクセスの向上によりオフィスビルの商品設計などにも反映できる可能性がある。後者のいわゆる体験価値についてはすでにヘリコプターによる遊覧サービスはあるが、音の問題などから離着陸できる場所が限定されるのに対し、こうしたモビリティであれば都市部の商業施設などでも提供のハードルが下がり、新たなサービスとしての定番化が期待されよう。特に「遊覧」については発着が同一のポートと、A地点からB地点への「移動」のような複数の拠点を結ぶネットワークが不要でありシンプルなことからも早期の提供が可能になるメリットはあろう。レジャーという観点からすると、遊覧ニーズに着目したいところだが、需要面では規模的にも時間価値が中心になるものとみられている。
・・・<続きは本誌にて>

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