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――多幾宏平[マーケティングリアルティ]

どんな不動産にもバリューアップ余地

【第3回】マーケティング視点の不動産投資講座

商品価値は常に更新される

 どのような不動産にも、時代や技術の進化、そして最も重要なユーザーニーズの変化に伴い、「必ず」バリューアップの余地が存在します。これは、市場で長年愛される定番商品が、ユーザーの声を反映させ、技術の普及とともに改善を続ける姿と共通しています。
 具体例を挙げると、コクヨの「キャンパスノート」は1975年の発売以来、表紙は守りつつ中身は学生の声と技術で「別物」へ進化しています。美しく書けるドット入り罫線や背クロスの強度向上、筆記具の変化に合わせた紙質の調整など、徹底した改善が支持され続けています。
 不動産でも、既存物件のポテンシャルを最大限に引き出すためには、供給側の論理から脱し、ユーザー視点で価値を見直す姿勢が不可欠です。

シェアオフィスにおける
コンセプト転換での収益最大化

 過去に私が手掛けた案件に、築30年で売りの出されていたシェアオフィスがあります。コロナ禍を経て稼働率が回復し坪単価もそれなりの水準でしたが、「有人受付、会議室、個室」という30年前から変わらない構成は、利用者のニーズや市場トレンドからかけ離れていました。彼らが本当に求めていたのは単なる執務室ではなく、「センスの良いカフェレストランのようなラウンジ」、「オンとオフを切り替えられるリラックス空間」、「オンライン会議への対応」、「こだわりを感じられる本物思考」でした。
 そこで構造上の壁以外を一度スケルトンに戻し、抜本的なレイアウトの最適化を実施。デッドスペースを解消し、ターゲット層に合わせたブランドとオペレーションに刷新しました。結果、賃料は倍以上に高騰し、極めて高いリターンを実現しました。この事例は、表層的な内装改修に留まらず、物件のコンセプトを根本から転換し、ターゲットを再定義することで成功したバリューアップの好例と言えます。

 
シェアオフィスのビフォー

シェアオフィスのビフォー。画像提供:JA三井リース建物

アパートメントホテル
市場の隙間と空間効率の追求

 単身者向けのビジネスホテルから、家族・グループが滞在できる4~6名用のアパートメントホテルに大幅リノベーションし、収益性を劇的に高めた事例もあります。旅行ニーズの約20~30%を「家族・親族での旅行」が占める一方、多人数で宿泊できるホテルは少ないという需給ギャップを捉えたものです。ユーザー目線での「一人あたり宿泊費の割安感」は大きな訴求ポイントとして機能するでしょう。
 投資目線でみると、トイレ・バスなどの共用化による空間効率の向上が高リターンの源泉です。バンクベッドを活用した坪あたりの宿泊単価向上や、空間効率化を通じた団欒スペースの捻出で、収益性はより飛躍的に高まります。
 現在、アパートメントホテルは各社が供給を続けていますが、この商品カテゴリーもまた、常にバリューアップの余地を内包しています。「家族・親族での旅行」という大きなボリュームを占める属性グループが、皆同じ価値観、所得、滞在ニーズであるはずはないからです。

「これでいいか」「これがいい!」
両者のギャップを見つける

シェアオフィスのアフター

シェアオフィスのアフター。画像提供:JA三井リース建物

 多くの物件は、競合他社の単価や一般的な設備を参考にしがちで、ユーザーが「これでいいか」と妥協している状況が散見されます。真のバリューアップの余地は、ターゲットにしたい層が「これでいいか」と思うものと、「これがいい!」と欲しがっているものとのギャップです。
 このギャップを見つけるためには、「ターゲットと潜在ニーズの分析」「競合分析とベンチマーク設定」「投資コスト(リスク)とリターンのバランス」を徹底的に行い、物件の提供価値を尖らせる必要があります。上記のシェアオフィスやホテルが売却に出た時点では、その物件の持つ潜在的なポテンシャルがまだ十分に引き出されていない、つまり、さらなるバリューアップの余地を多分に残していたと見るべきです。

市場に投入してからが
価値向上のスタート

 不動産業界では、往々にして工事が完了し、施設がオープンした時点をもってプロジェクトの終着点とみなされがちです。しかし、一般の消費財と同様に、不動産の商品価値における本当の分かれ目は市場に投入されてからです。市場にどう受け入れられたのか、想定通りの反応か、さらなる改善点はないのか。絶え間ない市場やニーズの変化を捉え、ユーザー視点で物件の価値を見直し続けることこそが、収益性と資産価値を継続的に向上させ、高い投資リターンを提供するうえで不可欠でしょう。


本連載「マーケティング視点の不動産投資講座」
過去の記事は以下からご覧いただけます。

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