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――日本都市ファンド

“マーケット連動の賃料改定”で
インフレ経済の大波に乗る

【試し読み】

 日本都市ファンド(JMF)は、159物件・1兆3,307億円(9月3日時点)のポートフォリオを抱える三大都市圏・都市型商業施設を中心とした国内最大の総合型J-REITである。
 JMFは「ポートフォリオ全体のNOIを3~4年で10%向上させる」目標のもと、新たに賃貸借契約に「オフィスマーケット連動の賃料改定条項」の導入を開始した。

着実な内部成長

 JMFでは、第46期(2025年2月期)に契約更改を実施したテナントの賃料が更改前比+7.8%を記録した。アセットタイプごとの内訳は商業+9.6%、オフィス+2.4%、住宅+3.6 %。第47期(25年8月期)も同様の内部成長を見込んでいる。
 
「他社も同様だろうが、REITは草創期からデフレの時代が続いていたこともあり、ほとんどのメンバーがインフレ経済での運用を経験していない。具体的な数値目標を掲げることで、どれくらい賃料を上げればいいかの目安が立てられ動きやすくなる」。こう説明するのは、運用会社のKJRマネジメント 執行役員 都市事業本部長の町田拓也氏だ。
 そのうえで同氏は「直近導入したオフィスマーケット連動の賃料改定条項(後述)は、現場の交渉力向上に先んじて、仕組みとして確実に賃料増額できるようにするための工夫」と話す。

業界初のマーケット連動賃料
CPIを確実にアウトパフォーム

 JMFの賃料重視の姿勢は、直近の取得事例にも色濃く表れている。それが9月3日にIT ベンダーの富士ソフトとその子会社サイバーコムから計686億円で取得したオフィス14物件である。JMFのスポンサーであるKKRが富士ソフトを買収し、富士ソフトの成長資金捻出を目的にセールアンドリースバックの形で、JMFを受け皿として自社ビルを流動化した。
 JMFがこれら物件で富士ソフトと賃貸借契約を結ぶにあたり導入したのが、「オフィスマーケット連動の賃料改定条項」である。これは外部のマーケットレポートに記載された、対象物件周辺エリアのオフィス賃料指数の変化割合と同じだけ賃料を変動させる取り決めのこと。賃料は契約開始後3年おきに改定、指数が上昇した分だけ上がる一方、指数が下落しても契約開始時点の金額を下回らないようにしている[図表]

[図表]賃料改定のイメージ
[図表]賃料改定のイメージ
富士ソフト本社ビル

 このような賃料形態を採用した背景には、オフィス賃料指数が消費者物価指数(CPI)より高い伸び率を期待できる点がある。「アセットタイプごとにCPI連動よりもベターなベンチマークがあるはず」(町田氏)。
 
 KKRグループ同士での契約だからという事情もある。「利益相反が大きくならない公平な形で、JMFのオフィス収益向上と富士ソフトのオフィス継続使用を両立する狙い」と同氏は明かす。そのほか対象物件が元々自社ビルであり、従前の賃貸借契約が存在しなかった点も新たな試みをはじめやすかった理由の一つだろう。
 
 オフィスに関しては条項導入以外での賃料増額も積極的に狙う構え。マルチテナント型の「富士ソフト大宮ビル」(さいたま市大宮区)では、富士ソフトとの10年間の定期賃貸借契約の賃料が当初マーケットと比べ下回っていることから3年目に上昇(以降3年ごとにマーケット連動で賃料上昇)する形にしており、同社以外のテナントも定借であることから賃料のアップサイド余地を見込む。「富士ソフト本社ビル」(横浜市中区)では、賃料が低廉にとどまる低層階の店舗テナントにアップサイド余地を見出している。
 
(写真:「富士ソフト本社ビル」。取得価格177億8,000万円、2004年竣工、地下2階地上21階建て、延床面積2万6,829.91㎡)

商業の高い賃料上昇ポテンシャル

富士ソフト汐留ビル

 ポートフォリオのなかで一番高いウエイトを占める商業でも、積極的な賃料増額に務めている。なかでも主力の都市型商業は、賃貸借契約の92%が定借かつ残存期間が3.1年と短いため増賃交渉の機会が多いほか、テナント件数に占める歩合賃料の設定割合が60%におよぶ(いずれも第46期末時点)。
 
 2026から27年にかけては、コロナ禍の時期に低い賃料を設定したテナントの契約更改が集中しており、「テナントによっては20~30%の大幅な賃料上昇も見込める大きな収益機会」(町田氏)と捉えている。テナントの出店意欲は物件タイプを問わず高いものがあり、なかには「ビットに近い状況」(同氏)で交渉を進められている物件もあるなど、オーナー有利の市場環境となっているようだ。
 
 タイプ別にみると、ハイストリートの都市型商業はマーケット賃料とのギャップが大きく、賃料上昇幅も大きくなる傾向。生活密着型施設の都市型商業は歩合賃料がCPIに近い上昇幅を示している。郊外型商業は優良区画であればハイストリート並の賃料を設定できている。
 
(写真:「富士ソフト汐留ビル」。取得価格250 億6,000万円、2024年竣工、地下1階地上9階建て、延床面積1万9,341.09㎡)

 ここまでは賃料上昇による収益アップに焦点を当てたが、コストダウンについてはどうか。JMFは資産規模に由来するスケールメリットを活かし、修繕やCAPEXの工事、電力調達などを一括発注することで有利な価格交渉を進めているという。

外部成長に総合型らしい柔軟性

 最後に外部成長戦略について見ていきたい。JMFはインプライド・キャップレートを上回るNOI利回り4%半ば以上を目安に、賃料上昇余地のある物件を取得していく。その際、ポートフォリオ全体におけるアセットタイプの割合について数値的な基準は設けない方針。「総合型REITのメリットはマーケット局面に応じて最も有利なアセットタイプを選択できること。固定的な基準に縛られて柔軟性を失うのは避けたい」と町田氏は話す。
 
 これまで投資経験のないアセットタイプにも関心を示している。2026年2月に取得予定の商業と住宅からなる複合型物件「(仮称)JMFビル沖縄国際通り01」(沖縄県那覇市)では、住宅部分の
一部を民泊運用する方針。また「富士ソフト汐留ビル」(東京都港区)や「富士ソフト本社ビル」には、データセンターの機器類設置に対応した天井高や床荷重を備えたフロアが複数あり、貸し方を柔軟に検討することでオフィス水準以上の賃料を狙っていく。
 
(その他ファンド勢のバリューアップアイデア、不動産再生プレーヤーの戦略は本誌で)

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