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荒木淳伸[PwCコンサルティング合同会社 リアルエステ―ト&ホスピタリティ マネージャー]

DXが切り拓くホテル業界の新たな可能性

VIEWPOINT

はじめに

 3年強にわたる新型コロナウイルス感染症(COVID‒19/以下コロナ)危機において、ホテル業界各社は人々の旅行や仕事に対する行動変容に対応するため、デジタルトランスフォーメーション(DX)を進めざるを得ない状況となり、さまざまなテクノロジーの利活用を急ピッチで進めてきた。
 具体的な取組みとしては、顧客と従業員の安全確保のための接触削減テクノロジー(モバイルアプリやウェブサイトを通じたオンライン予約、デジタルチェックイン、無人受付機など)の導入や、新たな顧客体験のための仮想ツアー、AR(拡張現実)を活用したサービスの提供などが挙げられる。
 現在、ホテル業界では、コロナ危機から回復しつつあるなか、急増する宿泊需要に対する人材不足が深刻な課題となっている。その理由の1つが、「デジタル化の遅れ」だと考えられる。現場の負担を軽減するための有効な手段として真っ先に思いつくのが「デジタル化」だが、日本のホテル業界で十分に進展しているとは言えないのではないだろうか。本稿ではDXの取組みの現状と今後の展望に焦点を当て、ホテル業界の未来を探ってみたい。

ホテル業界におけるDXの現状

 日本の宿泊業界は他国の同業界と比較しても特に労働生産性が低く、米国の50%*程度であると言われている。生産性の向上ならびにその先の収益最大化を目指すうえでは、「コスト削減」と「売上増加」の両面でのIT・デジタル化は急務と言えるだろう。
 
 国内オペレーターの状況を見ると、見込み顧客の一元管理やメールの一斉送信を実現するマーケティングオートメーション等、新規顧客獲得や既存顧客リピートに資するシステムや、フロント業務の省人化につながるセルフチェックイン機等の導入率は比較的高いことがわかる。しかしながら、ホテルの運営全般を見渡した場合に、いまだ紙ベースの予約作業や、会社独自の作業、非効率な経理作業、不必要な報告事項が厳然と存在しており、改善が進んでいないケースも多く見受けられる。
 
 また、単に技術活用による課題解決にとどまらず、ビジネスモデルやバリューチェーンそのものを変革し、新たな価値を提供する取組みにより全社的なDXを推進するというような、他の先進業界に見られる動きは日本のホテル業界ではなかなか見られない。省人化やローコストオペレーションによる生産性の向上は、ある意味その気になれば最も取り組みやすい施策であり、第一に取り組むべきと思われる[別図]。
 
 コロナ危機を経てDXに対する関心が高まり、さまざまな施策が実行されてきたが、現状として他の業界に比べてまだまだ遅れを取っていることは否めない。たとえば、経済産業省が選定した「DX銘柄2023」および「DX注目企業2023」では、ホテル事業者からの選定はなく、不動産事業者から東急不動産ホールディングス㈱と三菱地所㈱が選定されたのみであった。今後は、ホテル業界各社が全社的かつ長期的な取組みとして、DXを加速させていくことが期待される。

最新DX活用事例

 DXは、企業の差別化と競争優位性の確立において有効かつ重要な手段であり、持続可能な経営を実現するためのドライバーとなる。ここでは、オペレーションおよび顧客体験(カスタマーエクスペリエンス/以下CX)の2つの観点から、DXを活用している事例を紹介する。

●オペレーションの効率化・高度化
 多くのホテルでは、予約、客室、顧客、売上げなどを一元管理するPMS(プロパティ・マネジメント・システム)を導入し、これを中心に多くの社内システムや社外サービスが連携している。近年ではスタートアップを中心にSaaS(SoftwareasaService)のサービスも増加しており、小回りが利くSaaSの活用も重要性を増している。PMSを中心に社内外のシステムやサービスを適材適所で組み合わせてエコシステムを形成することが、オペレーションの効率化やシステムコストの削減につながる。
 
 また、オペレーションの高度化には、大量に生成・蓄積されるデータの利活用が不可欠となる。データの利活用により、データドリブン(データ駆動)の意思決定が可能となり、正確な予測や効果的で柔軟な戦略策定、経営判断の精度向上が実現されることになる。このデータドリブンアプローチは、業務だけでなく経営の高度化や収益の最大化にもつながるものだ。
 
 ルートインジャパン㈱は、現場や施設状況の可視化を目指し、現場レベルでのDXを推進している。清掃やレストラン内における食品の衛生管理、設備点検、客室清掃の報告などの紙ベースでの業務が多い管理業務を中心に、クラウドサービスを活用したペーパーレス化を掲げ、アナログからデジタルへの変革を進めている。また、㈱倉敷アイビースクエアでは、AIを用いたオペレーション高度化に挑戦している。
 
 ダイナミックプライシングの自動化・高度化を目指し、過去の販売実績や現在の予約状況、競合他社の価格、周辺のイベント情報などをAIに分析させることで、価格設定の改善に取り組んでいる。

●CXの向上・提供
 顧客にとって、モバイルアプリやデジタルチェックイン・チェックアウト、オンラインサービスなどの利便性の高いタッチポイント(接点)を設定することは、快適な滞在体験を提供し、CXを向上させるうえで不可欠である。同時に、先進的なサービスやテクノロジーの導入は、モダンなイメージを構築し、顧客にとって魅力的な選択肢となるため、ブランド価値の向上にもポジティブな影響を与えることになる。
 
 ㈱ジェイアール西日本ホテル開発では、顧客体験プラットフォーム「talkappi」を導入し、顧客からの質問に即時回答したり、宿泊提案をしたりするAIチャットボットを活用することで、顧客満足度の向上を実現している。また、東急不動産㈱では、スキー場のアーリーエントリー権や地元店舗の予約権利をNFT(Non-FungibleToken)化し、スキーNFT「ニセコパウダートークン」として販売。これにより、スキー場の訪問者の一連の利用体験をNFT化し、新たなCXを創出している。

<続きは本誌にて>
*内閣府「国民経済計算」(2019年度)、日本生産性本部「主要産業の労働生産性水準」(2019年)、U.S.Bureau of Economic Analysis「GDP by industry」(2021年)、U.S.Bureau of Labor Statistics「Current Employment Statistics survey」(2019年)

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