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飯田一之氏[日本政策投資銀行 北陸支店 企画調査課長]

北陸3県が一体となって、新たな観光文化創造の契機に

PROJECT-1|北陸新幹線 敦賀開業

初の新幹線開業で交流人口が増加する福井県

――まずは新幹線の金沢・敦賀間の開業(敦賀開業)[図表1]に伴う経済波及効果をどうみていますか。

飯田 弊行では、2015年の金沢開業時に次いで、今回も福井県と石川県のそれぞれで首都圏および関西圏からの入込み(ビジネス、観光)と消費額がどの程度ふえるかを算出しています。福井県についての入込みですが、首都圏からの来訪はビジネスで約35万9000人/年、観光では約35万5000人/年がふえ、関西圏からはビジネス3万2000人/年、観光は3万9000人/年がふえると推計しています[図表2]。
 
 東京駅から福井駅まで最短で2時間51分と現状より約30分短縮されるため首都圏からはビジネス・観光合計で約71万3000人/年の増加、一方、関西圏からの時短効果は限定的なので同約7万2000人/年で、計約78万5000人/年の増加とみています。これに消費単価をかけていくと、直接効果がビジネス約91億円/年、観光約100億円/年の計約191億円/年。間接的な一次効果・二次効果を含めると約309億円/年と算出しています。

 北陸で強い誘客力をもち今回「第2の開業」となる「金沢」駅を擁する石川県の方は、首都圏からがビジネス約6万1000人/年、観光約25万8000人/年の計約31万8000人/年、関西圏からはビジネス約5万1000人/年、観光約33万7000人/年の計約38万8000人/年がふえ、経済波及効果は約279億円/年と推計しています[図表3]。

 福井県の場合、ビジネスと観光客のふえ方がほぼ同じなのに比べ、石川県では観光客が大きく上回り、特に関西圏からの観光客が首都圏から以上に大きく伸びるのが特徴です。
 観光だけの入込みで見ると、福井県に首都圏からは35万5000人/年、石川県に関西圏からは33万7000人/年と、ほぼ同水準となります。これは定量的モデルで時短効果のみを勘案して算出した金額なので、実際には観光地やレジャーを楽しむ場の新たな魅力創出やPR効果があれば、さらにプラスになるでしょう。

――いずれにしても、大きな効果が見込まれることになりますね。

飯田 はい。福井県などは新幹線開通を「100年に1度の好機」と捉えています。新幹線を望んでも実現できない地域が日本各地に多々あるなかで、福井県は今回初の開業に加え、ルート的にも首都圏・関西圏の双方を結ぶ形になるためその効果は非常に大きなものといえます。この結果、北陸におけるヒト、モノ、カネなどの流動が変化します。さらに日本全体での北陸に対する心象も大きく変化するはずで、こうした目に見えない効果も非常に楽しみです。
――15年の金沢開業時の経済波及効果と比較するとどうでしょうか。

飯田 開業後の16年の調査によれば、全都道府県からの来訪者にインバウンドなども含め、その経済波及効果は約678億円でした[図表4]。今回の敦賀開業ではこれを超えるところまではいかないと思いますが、それでも数百億円単位のプラス、特に初の開業となる福井県にとっては金沢開業時に次ぐような大きなインパクトがあると考えます。

伝統プラス新しさで温泉文化のリブランディングを

――観光への影響はどうみていますか。たとえば、北陸には温泉という大きな観光資源がありますが。

飯田 今回、「加賀温泉」駅(石川県)と「芦原温泉」駅(福井県)の2つの「温泉駅」が並び、また既存の富山県内にも「黒部宇奈月温泉」駅があるため、沿線に3つの温泉駅が3県それぞれ1駅ずつあるという興味深い状況になります[図表5]。たとえば22年9月に長崎まで開業した西九州新幹線の場合、「武雄温泉」駅(佐賀県)と「嬉野温泉」駅(同)とがありますが、新幹線開業の際に、既存の地域資源を掘り起こして再提示したり、外からサウナやアートなどを持ちこみ、温泉のリブランディングを上手く実現したという事例があります。

 加賀温泉郷などは、金沢開業時、首都圏から金沢まで新幹線で来て特急に乗り換え訪れる人が当初ふえたのですが、新幹線の利用客数自体は横ばいで推移したのにも関わらず、その後徐々に減ってしまいました。さらにコロナ禍を経ての今回の開業というタイミングなので、前回の轍を踏まないよう、どう魅力を打ち出してリピーターや口コミによる訪問客を獲得するかが重要な課題とみています[図表6]。
 温泉の利用形態も、昔の団体旅行、特に男性客が多い旅行中心から、家族や個人、女子旅などと変化してきているので、敦賀開業のタイミングでこうしたニーズに的確に対応することが重要です。同地にはすでに立派な箱物も多くあり、それらを今日のニーズにどう合わせ活かしていけるかがポイントでしょう。
――そのために必要となるのは。
飯田 温泉は、そこで長く時間を過ごし、その土地の衣食住のすべてを経験する場なので、その地域がもつ魅力、すなわち従来知られていない「本物の北陸ならではの魅力」を新幹線で遠隔地から訪れた来訪者にしっかり伝えることが1つは考えられます。さきほどの九州の温泉地などでは、チームラボによるアートとサウナの融合のような新しい文化創造や、嬉野では地域名産のお茶を活かしたティーツーリズムなど、うまくリブランディングしているケースがみられます。

 いま、アンラーニングという言葉もよく耳にしますが、温泉地も1度、いままでの文脈から離れ、新しい概念を取り入れ、新しい見せ方、楽しませ方を提示することに期待します。
 加賀温泉郷のエリアには山中、山代、片山津、粟津と伝統ある温泉が多くありますが、サウナーなどを含め新しい温泉の楽しみ方を望む層にも訴求していけるといいでしょう。泉質自体が大変良質ですから、プラスして新たな伸び代を創造していく契機になればと思います。
――歴史や伝統をベースに、より新しい魅力をつくっていくチャンスだと。
飯田 もちろん既存の伝統を深掘りしてみせていくことも付加価値の高いレジャー、観光になりますが、そこに新たな魅力を上手く取り入れたら、それに反応する新たな客層も取り込めるはずです。北陸は、歴史や優れた伝統文化の蓄積があるのですが、それがうまく伝わりきれていないところもあります。私も東京からの転勤族ですが、東京にいると北陸の本当の魅力というのはなかなかわからない。沖縄や北海道、あるいは海外など多くの選択肢があるなかで、北陸が選ばれるためには何が必要か、この開業を機に地域全体で考えることが大事だと思います[図表7、8]。
<続きは本誌にて>

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