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【CASESTUDY】ザ ロイヤルパーク キャンバス札幌大通公園
/国内初の高層ハイブリッド木造ホテル

国内最大規模の木材使用量。CO2削減を訴求

三菱地所グループの㈱ロイヤルパークホテルズアンドリゾーツ(以下、ロイヤルパークホテルズ)および三菱地所㈱は、2021年10月1日、札幌市中央区に、北海道産木材を中心に使用した国内初の高層ハイブリッド木造ホテルを標榜する「ザ ロイヤルパーク キャンバス札幌大通公園」をオープンした。全国に20ホテルを展開(22年8月現在)するロイヤルパークホテルズとして、北海道第1号店となるもの。
立地は、札幌市営地下鉄「大通」駅23番出入口からすぐ、JR「札幌」駅からも徒歩約15分の場所で、札幌市の中心部にある「大通公園」のシンボル、「さっぽろテレビ塔」の目の前に位置する。
同社グループではこれまでも、賃貸マンションやオフィス、空港ターミナルビルなどの建築において、建物構造部や外装部に木材を活用(木造化・木質化)しており、そのなかで蓄積してきた知見を集約したプロジェクト。ハイブリッド木造とは木造と他の工法(鉄筋コンクリート造や鉄骨造など)を組み合わせる工法で、地上11階建ての同ホテルでは低中層部(1~7階)が鉄筋コンクリート造、中層部(8階)1層が鉄筋コンクリート・木造のハイブリッド造、高層部(9~11部)を純木造としている。

構造躯体における木材使用量は約1,060㎡(外装材等も含めると約1,200㎡)と国内最大規模となり、建物全体を鉄筋コンクリート造とした場合と比べCO2排出量を約1,380トン抑制し、地球温暖化対策に寄与するとしている。また、使用する木材のうち8割強がトドマツ・カラマツ・タモといった北海道産木材で、北海道における林業振興への寄与、地域活性への貢献にもつなげるものとする。
なお同物件は、国土交通省の「サステナブル建築物等先導事業(木造先導型)」の採択を受けている。

9~11階の純木造フロアは壁面で荷重を支える壁式工法を採用

ホテル全体を「北海道を体感」する場に

その開発経緯を振り返ると、計画地はオフィスビル解体後、02年より時間貸し駐車場としていた案件。三菱地所では同地での事業化を検討するなかで、大通公園に面した好立地であり札幌の観光需要の高まりを踏まえ、ホテルアセットでの開発を決定。その際に周辺ホテルとの差別化を図るべく、同ホテルならではのユニークな特性を模索、「一般的な宿泊特化型ではなく、滞在に付随する多様な体験価値を提供する場をどうつくるか考えた結果、この方向と親和性が高い『CANVAS』(キャンバス)ブランドでの開発に至りました」(三菱地所北海道支店コマーシャル不動産事業ユニット平野晋作氏)という。

2階ラウンジは道産木材を加工した家具などで構成。「北海道を体感する」を訴求するマルシェなど各種イベントを開催

ロイヤルパークホテルズでは、フルサービス型ホテルに加え、プレミアム宿泊主体型ホテルとして「THE シリーズ」を国内17か所にて展開する。さらに同シリーズのなかでも、ミレニアル世代をターゲットとしたライフスタイル型ホテルのブランドラインとなるの が「CANVAS」で、それまでに全国5都市に展開してきた。
その共通のコンセプトは「MAKE IT HAPPEN(そこに集う、何かが生まれる)」、タッグラインは「Fun, Local, Connected」。すなわち「楽しむ、地元に根差す、つながる」とのフィロソフィだ。ホテルを単に「泊まる場所」ではなく「人が集う場所」と捉え、人が出会い、新しい都市文化や価値を発信する基地と位置づける点が同ブランドの特徴といえる。

全客室にアナログプレイヤーを設置しレコードの貸出しも。スピーカー(写真右)はホテル外装の端材を活用したオリジナル

このザロイヤルパーク キャンバス 札幌大通公園でもラウンジやルーフトップなど、各種イベントが開催できる機能を充実させ、宿泊ゲストや地域の人々、スタッフなどが一緒に体験を楽しむ場づくりが目指された。
これと併せて、同ホテル独自に設定されたのが「北海道を体感する」というコンセプト。宿泊客に北海道を体感してもらう、オール北海道でもてなす――そうした枠組みのなかで導き出されたのが、「北海道産木材による木造ホテル」というアイデアだった。もとより三菱地所では前述したように木造や木質化建築を多数手がけてきたことに加え、ここでは木をふんだんに使うホテルとすることで地域性も体現できると判断し、北海道産木材を多用した建築計画がスタートしたわけだ。
なお木造以外の部分でも、利用者に「北海道を体感」してもらううえで、ホテル内のインテリアや館内アートをはじめ、バーやレストランのメニューなどにも積極的に「Madein北海道」アイテムを導入。また、ルーフトップでは北海道らしいアウトドアライフスタイルにマッチしたBBQやグランピング体験などのコンテンツを用意、発信している。

木造建材の開発からグループを挙げ取り組む
では、具体的に木造建築の内容をみていこう。
基本計画の段階から、低層部を鉄筋コンクリート造(RC造)で築き、その上層に木造フロアを建築する立面混構造とし、純木造となる9~11階の3フロアについては壁を枠組壁工法、床をCLT(直交集成板、北海道産トドマツ使用)とする構造を採用。

一般に中規模木造オフィスビルは、無柱空間が求められるため、柱梁構造が主流だが、今回壁式工法を採用したのは、フロア内に客室が並び、多くの間仕切り壁が必要となるホテル用途の場合、この間仕切り壁を耐力壁として木造枠組壁に置き換えることで耐力の確保が可能になる、との理由からだ。その意味で、壁で細かく空間を仕切るホテルと、壁式工法は親和性が高いものといえるだろう。またその結果、前述のように構造材として1,000トンを超える、わが国で最も多い木材使用量の実現にもつながっている。
ちなみに同ホテルでは、3~8階を「ギャラリーフロア」、9~11階を「キャビンフロア」と呼称を変えている。「キャビン」とは壁面で荷重を支え、梁形や柱形が客室に飛び出ることがない壁式工法ならではの箱状空間の特徴を伝えるネーミングだ。併せて木質感を活かしたインテリアとし、木に囲まれた山のキャビンで過ごしているかのようなイメージを創出する。さらに「北海道の木でつくられたホテルに泊まる」という体験の印象を一層深くするため、意匠面でもシンプルな空間に仕立て上げられている。
なお、この壁式工法については、地震力の大きな高層階での実現に向け、三菱地所が構造設計の㈱MoNOplan(東京都千代田区)と共同で引張力や圧縮力に対応する高耐力枠組壁を開発、初めて採用した点も特筆される。いわば建材の開発段階からグループとしてチャレンジしたといえ、その本気度が伺える。
また同社では木造のもつメリットとして、RC造などに比べ工期の短縮ができるほか、軽量なことから基礎軽減も可能で、1階の柱に作用する地震力は約20%削減できることなど、足元部分の構造上の負荷が軽減される点も挙げている。

ウッドデッキ上にファイアーピットやソファスペースを設けた屋上を開放。焚き火やグランピングテントの体験も

国産木材のメリットを伝える建築を推進
では、「木造」に対する利用者からの反応などはどうか。
実際ゲストからは「床の上を裸足で歩きたい」「木に包まれる落ち着きを感じる」との声があがるほか、空気が乾燥しがちな北海道の冬でも、木材の調湿効果が奏功し快適に過ごすことができたという評価もあるとのこと。こうしたことから同社では、「木造の価値とは歩行感や感触、木の香りなども含め、滞在空間における五感すべてに訴えることだと実感できた」としている。

ギャラリーフロアの客室。3~6階は北海道産トドマツを使用した木の天井を採用。ちなみにテレビは全室非設置

一方、課題点として、RC造に比べ質量が小さい木材は、重量衝撃音が伝わりやすい点を挙げる。この弱点は床をコンクリートで覆うことで改善することもできるが、今回は天井内に遮音材を敷き詰めるなど、できるだけ木の利点である軽さを損なわない対策を心掛けた。
また、木造階に掛かる負荷を減らすため、設備関係は地下や屋外階段横に配置し、屋上についても設備スペースではなくルーフトップ空間として活用することで、同ホテルならではの価値の創出につなげている。「RC造と比較すると、あまり荷量が掛けられない木造のデメリットを、視点を変えることで新たな価値に変換できた」と同社。

キャビンフロアの客室。梁形や柱形が客室に飛び出ない壁式工法の特徴を活かした箱状の空間を実現

開業後の運営状況をみると、直近の22年7月度の稼動率は80%を超え、ハイシーズンを迎える8月もレジャー利用を中心にオンハンド状況は健闘している模様。ADRについてはコロナ禍によってインバンド需要が見込めず、恒例の「さっぽろ雪まつり」シーズンを含め外国人の利用率が低下、当初の想定からは乖離が生じている。
一方、利用者層はミレニアル世代を中心に露出を強化するとともに、「CANVAS」の共通コンセプト「MAKE IT HAPPEN」を具現化したイベント訴求に注力し、当初想定のミレニアル世代以外にも「Z世代」(直近では関東圏からの需要が目立つ)の「女子旅」やカップルの予約も多く、一定の成果が生まれているとする。
今後の運営については、ハード面での木材利用にとどまらず、「北海道を体感する」というコンセプトと呼応するイベントの実施など、ソフトとの連携を含めた総合的なアピールを引き続き打ち出していき、より顧客層の価値体験に訴求できるような施設を目指したいとする。
またこの先の木を活用した事業展開としては、「木造に限らず内装を木質化する製品の開発を進め、国産木材のよさを伝えられる建築物を開発していきたい」と、同社では積極的な意向を示している。

<そのほかの事例研究は本誌にて>

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