キーワード検索

サイト内検索を閉じる

コロナ禍をイノベーション促進の契機へ
ホテル・観光分野のDXを目指すホテルエンジニアリング

  • レジャー産業
  • 注目企業インタビュー
  • 宿泊・観光
  • DX
林 悦男氏
潟^ップ 代表取締役会長
(一社)宿泊施設関連協会 代表理事 会長

 PMS(宿泊管理システム)を中心に全国の宿泊施設に必要なソフトウェアを供給するソリューションベンダー、潟^ップ。「tapAppli(タップアプリ)」のリリースをはじめ「スマートPMS®」の開発を進める同社代表取締役会長 林悦男氏に、ポストコロナ時代の業界展望についてうかがった。

ポストコロナ時代、DXや合理化・自動化はさらに加速

――宿泊・観光マーケットの現状を、どのように見ていらっしゃいますか。
 一番重要なのは、コロナ禍によりこの業界はかなりの数の従業員を放出してしまったということです。結果的に「不安定な職種」というイメージを生んでしまい、今後は賃金を上げても人材が戻ってくるのはむずかしいでしょう。業界はお客さまが戻ってきても人手が足りないという問題に直面するなかで、DXの推進や自動化でカバーすることが求められます。正確には、「人手不足の補填」というより「新しいサービス形態の創造」を考えざるをえなくなるでしょう。
 私たちは「ホスピタリティサービス工学」という視点から、ホスピタリティにこそ人の労力を注ぎ、これと無関係な作業はロボット等で自動化していくという考え方をとります。いままで漠然と「サービス」とひと括りにしていた業務を「ホスピタリティ接点」と「作業」とに明確に分け、自動化できる作業は自動化していくことが必要です。
 その自動化に際しては、「その作業が機械に可能か」という技術的課題と、「機械化にどの程度コストがかかるか」という価格的課題があります。そこで私たちは技術的課題の解決に向け、沖縄に「ホテルDXラボ」ともいうべき実験ホテル「タップ ホスピタリティ ラボ沖縄」(以下、THL)を建設中で、2022年11月に完成、23年4月から本格稼動の予定です。ここでさまざまなメーカーやホテル関係者の参画を得て実証実験を行ない、そこで得たデータを業界に提供していきます。価格的課題の解決については、自動化技術を開発・提供するメーカーがマーケットの母数をどう見るかにかかっています。私たちはニーズをメーカーに伝えるデータ提供を行なっていく考えです。
 ポストコロナ時代にあっては、DXや合理化・自動化は確実に加速します。誤解を恐れずいえば、コロナ禍はイノベーションの機会となったとも考えています。
DX実験ホテル「タップ ホスピタリティ ラボ沖縄(THL)」で取り組む予定のデジタル技術分野
――会長を務められる(一社)宿泊施設関連協会(JARC)について。
 17年にホテルエンジニアリングの実現のため、宿泊施設関連の知見を結集しようと考えたのが設立のきっかけです。「宿泊施設の海外進出(輸出産業化)」「ラストリゾート(宿泊施設が有事に避難場所や病院となる)」「宿泊業の地位向上(による活性化)」の3つをテーマに、ITシステム関連・料飲関連・健康関連・教育関連など17分野、約170の法人・個人・団体に参加してもらっています。
 施設の感染症対策を山梨県が調査し認証する「やまなしグリーン・ゾーン認証」では、協会が支援し、昨年は飲食店、今年はホテル・旅館へ対象を拡大し、感染症対策をとりながらの稼動継続を実現しました。この取組みのポイントは、自治体の感染症対策を、補助金という消費から、稼動継続への投資へと視点を転換し、実証データをもとに一定の基準を構築できたという点です。今後さらにウェルネスの分野まで発展させ、SDGs施策へという県の歩みにも引き続き貢献していきたいと思います。
 また先に申し上げたTHLでは、協会が厨房機器や食材メーカーなどをマッチングし、トレーサビリティの実証実験を行なう予定です。これは、ハラール食やヴィーガン食、アレルギーに対応できる調理人の確保が今後の課題になることから、調理以外の負担を軽減しながら生産地から実際に人の口に入るまで食の安全確保を実現しようというのが狙いで、レトルトや冷凍食品を活用しながら取り組もうと考えています。

エリアブランドアプリとして進化する「tapAppli」

――これからのホテル・旅館に求められるものは。
 たとえば「tapAppli」は非接触対応型ですが、大切なのは、「非接触」は「非対面」ではないという点です。これからは「非接触」「セルフ」の時代だからこそ、ホテル・旅館側のスタッフは宿泊客に対して「お客さまのそばに寄り添う」という意識が必要です。
 したがってホテル・旅館スタッフには「お客さまが必要なときに必要な距離にいる」といった感性がいままで以上に要求されていきます。「作業」ではない、「ホスピタリティ」という高いスキルの仕事だけが残り、今後宿泊産業は労働集約型産業ではなくなるといってもいいでしょう。その結果、1人当たりの賃金は上がり、経営側では人材育成など、投資を行なう部分が変わってくることになります。
 先に申し上げたTHLではホテル業界の人に宿泊してもらい、最新のテクノロジーを活用したホテル運営を体感しながらホテルや観光のDXについてのセミナーも受講してもらうことで、新しい時代の観光・宿泊産業を支える「ホテルエンジニア」を育成していこうと考えています。
――業界として、また貴社としての今後の展望を
 私たちについては、まず沖縄にできるTHLでの事業に注力していきます。ここで最新テクノロジーを使い実証データを収集し業界に提供していくことは、業界に対する恩返しでもあります。
 「tapAppli」は、エリアブランドアプリとして進化しつつあります。すでに22年3月から、ある温泉地で運用をはじめることが決定しています。アプリ1つでエリア内の宿泊施設予約等の機能はもちろん、宿泊施設以外のレストラン予約や交通案内、決済も完結しますから、エリア全体の観光DXを実現する大きな一歩となるでしょう。
 ホテルは衣食住や習慣・慣習を含めた総合文化事業です。たとえば、私たちのクライアントであるホテル三日月グループさんが、ベトナム・ダナンに進出しています。あのような手ごろな値段で、堅苦しくなく、家族のつながりを育むタイプの大型ホテルは、日本ならではの誇れる文化です。これからの日本の宿泊業界には、日本のホテルの多様性を世界に向け自信をもって語っていく姿勢や、文化を輸出する意思が重要になると思っています。
 この先、社会全体で労働の合理化、労働時間の短縮化が進めば、余暇産業は拡大していきます。そのなかでわが国のホテル・観光産業が世界でも勝てるように、これからも業界をバックアップしていきたいと考えています。
[プロフィール]
林 悦男(はやし えつお)
1971年石川島播磨重工業梶i現IHI)入社。81年コスモ・エイティ設立に参画、87年トーワエンタープライズ鰹務取締役に就任、ホテルシステム創業。89年潟^ップに社名変更し代表取締役社長就任、2008年潟^ップ代表取締役会長に就任。立教大学「ホスピタリティ・マネジメント講座」講師(04〜20年)。(一社)宿泊施設関連協会 代表理事 会長、(公社)日本観光振興協会 観光立国推進協議会委員。
月刊レジャー産業資料
2022年1月号

月刊レジャー産業資料 2022年1月号
定価:6,930円(本体6,300円)

関連リンク

ページトップ