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【2022年のKEYWORD】ハイエンドマーケット
コロナ禍でも際立つ安定したニーズ
国内文化への回帰の流れを定着させる新たな仕掛けと備えを

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  • マーケットレポート
  • 富裕層
<この記事のポイント>
・国内富裕層のニーズに、2022年もビジネスチャンスあり
・「免疫力」の向上や「予防」に対するサービスの開発に大きな可能性
・パーソナル化の徹底が、顧客の信頼獲得と売上増につながる
・日本国内で埋もれていた遊びやレジャー、伝統文化にニーズ回帰の動きも

コロナ禍でも潜在してきた安定的な富裕層ニーズを満たせ

 コロナ禍における、レジャー分野の消費で注目されたのが、ハイエンドマーケット、すなわち「富裕層」だ。
 基本的に不要不急の外出が抑制され、海外旅行はもとより国内での旅行やレジャー活動が制限されたなかで、人口のボリュームゾーンであるミドル層がけん引していたいわゆるマス(大衆)レジャーは市場縮小を余儀なくされた。それは行動制限の結果だけによるものではない。飲食業はじめ各種サービス業種において、休業や営業時間短縮が求められたことから、多くの雇止めが発生。拡大する非正規従業員などを中心に、収入面の不安から「不要不急のレジャー」に対する消費は大きく縮減を迫られたためである。レジャー分野において、いわば供給と需要の両面でブレーキがかかったのがこのコロナ禍による最大の打撃だった。
 その一方で、比較的可処分所得に余裕のある中間層から富裕層に至るまで、いわゆるアッパー層に関しては、どうだったのか。当然、中〜高年期の年齢層が主体となるため、感染症に対する警戒心は一般以上であったのは事実だ。とはいえ、収入に対する不安が少ないだけに、レジャーに対してやみくもに自粛する動機は乏しく、安全・安心を担保されたサービスや商品との条件のもとで、積極的に模索、享受する動きがみられた。
 2022年においてもコロナの完全収束が見通せず大量集客を前提とするマスレジャーの回復が立ち遅れるなか、またインバウンドの復活も先になるとすると、こうした国内アッパー層の消費性向を把握したうえで的確なサービス提供を行なうことは、ビジネスチャンスにつながるものといえよう。

ヘルスケア支援や安全・安心の旅行商品の開発へ

 このマーケットを知るうえで有用なのが、竃村総合研究所が継続的に富裕層対象に行なう「NRI富裕層アンケート調査」だ。同調査では預貯金、株、債券など世帯として保有する金融資産の合計から負債を差し引いた「純金融資産保有額」で1億円以上5億円未満を「富裕層」、5億円以上を「超富裕層」としており、20年12月に発表された最新結果によれば、わが国の両層合計の世帯数は132.7万世帯[図表1]。05年以降、最多だった17年の126.7万世帯からさらに6万世帯増加をみせている。
 その資産総額も13年以降、一貫して拡大傾向にあり、17年との対比では299兆円から333兆円へと1割以上増加している。
 そうしたなか、この層における今回のコロナ禍による消費や生活の変化についての質問に対して、「健康や体力増進に関する意識が強まった」との回答が65%とトップであった[図表2]。未曾有の感染症の拡大状況を考えれば、健康面の意識向上は当然といえるが、レジャー事業者の側からみれば、たとえば「免疫力」の向上や「予防」に対する新たなサービスの開発・創造に大きな可能性を示唆するものといえる。
 さらに「ソーシャルディスタンスを意識した旅行をするようになった」との回答が47%と第3位にあることに注目したい。コロナによって一律に旅行そのものを自粛するのではなく、密を回避するなど安全性の担保という条件を満たせば従来通り旅行に対するニーズが根強いことが明らかだ。実際、宿泊の現場でも、グランピングのように不特定多数ではなく家族など少人数で利用が完結できるような空間やサービスに対する需要はこの間、拡大傾向にある。
 こうした意識変化は富裕層に限ることではないが、留意すべきは、サービスのパーソナル化はコストアップに直結するものの、富裕層をターゲットに想定した場合、そこに質の向上が伴えば客単価のアップにもつなぐことができる点だ。よって、大衆向けとは異なるパーソナル化を徹底した高品質のサービスによって、顧客の信頼獲得と売上増の可能性がリンクすることになろう。

国内の身近な文化資源に再着目。リゾートでも回復後への整備を

 富裕層向けのマーケティングに専門特化する潟求[ト・アンド・パートナーズの増渕達也社長は、富裕層においてはコロナ禍によって、自宅というプライベート空間での楽しみの1つとして「アート」に対する関心・需要が高まったと指摘する。現代アートなどの気に入った作品を購入、収集するというインドア型の「安全」な趣味活動であると同時に、「将来的な作品価値の向上による値上がりも期待でき、いわば投資的な意味合いも富裕層の歓心を得ました」。ネットオークションの普及によって海外作家の作品も容易に売買可能な環境がそれを後押しする。「富裕層のお金の動きでは従来の海外での豪遊など消費経済から、資産購入など投資経済へのシフトがあったとみてとることもできます」。
 一方で、海外旅行などが制約されるなか、「国内で銘店といわれる穴場レストランを探し訪れるなど、『食』への楽しみを追求する動きも高まりました」。マイクロツーリズム的な足元の価値の再発見は広範な層でみられたが、富裕層においてはいわゆる銘店を、特に人の少ない平日を狙って訪れる楽しみなどが新たな「レジャー」となったとみる。さらに近場に限らず遠方への旅においても、「食」が一番の目的になったというのは注目すべき変化だという。
 また旅先での楽しみ方にも富裕層ならでは特徴と変化がみられるという。「夜のお座敷での芸妓遊びなども制約されるなか、昼間に温泉街周辺の名所旧跡などを芸妓さんのガイドで連れだって巡る新サービスにも注目が集まりました」。1人2万〜3万円の料金設定ながら、「仕事が激減し経済面でも苦しい芸妓文化への支援、貢献という視点から関心をもって臨む富裕層の方々も目立ちます」という。
 また観光においても、宮大工による神社仏閣の修復作業現場を訪ね、匠の技を間近で見学できるツアーなど、一歩踏み込み知的好奇心を満たす企画も富裕層に人気が高い。
 「コロナを契機に、いままで海外に向いていた目線が日本国内で埋もれていた遊びやレジャー、さらに伝統文化に対してあらためて回帰していることがうかがえます」。そこで事業者側としては発想を少しだけ転換し、地域資源を活かし従来とは異なる角度からのもてなし方を提案することによって、富裕層のニーズを刺激することは十分可能とする。
 実際、コロナ禍にあって高級リゾートでのコンドミニアム販売や高級会員制リゾートクラブなどに対するニーズも動きをみせるなど、マスレジャーの回復が遅れるのと対照的に、リゾート市場においても富裕層などアッパークラスの経済活動は安定感が際立つ。
 「数年後には復活が見込まれるインバウンドもフライトの値段が上がっているため、アッパークラスから先に戻ることが想定されます。リゾートでもプライベートヴィラのような個別性の高いハードとソフトをハイレベルで提供できる態勢構築が選ばれるうえで重要になる」との見方を示している。
<そのほかのKEYWORD、「2025年日本国際博覧会」「ウェルビーイング」「MaaS」については本誌にて>
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