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アートビオトープ那須
「サステナブル」という価値を集客にどう結び付けるか

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二期倶楽部以来追求する、アートと自然からの学びの場

 わが国において先駆的にリゾート事業を手掛けた二期倶楽部を継承する形で2015年に設立、ホテル事業はじめホスピタリティ教育・文化事業などを展開する潟jキシモ。同社が現在、中心事業拠点として位置づけるカルチャーリゾート「アートビオトープ那須」(栃木県那須町)が昨年10月にグランドオープンした。
 注目されるのは、そのリゾートのあり方への視点と提案だ。これからの時代のリゾートには、都市での日常生活を離れ、学びや静かな内省の時間のなかで真の豊かさについて考える場としての役割も求められてくるとの視点に立ち、「豊かな人間性を磨くためのもう1つの学びの場としてのカルチャーリゾート」という提案がなされた。
 二期倶楽部時代の08年から多様な人々が学びを通じて豊かな時間を過ごすオープンカレッジ「山のシューレ」を同地で主宰し、カルチャーリゾートのコンセプトを具現化、実践してきた知見をもとに、アートや自然からの学びにより人々に新しい価値や常識を提案し、人間性を深めていく場としてのリゾートの姿を描き続けてきた同社にとって、このアートビオトープは1つの足掛かりとなるものといえよう。

地域の自然と暮らしの記憶を表現する ランドアート「水庭」

 アートをテーマに人々が集い、交感し合いコロニーを形成していく苗床となることを念頭にネーミングされた「アートビオトープ」。その施設内容をみてみよう。二期倶楽部時代から継承するガラス、陶芸体験を行なえる「スタジオ」、長期滞在も可能な「レジデンス」(客室)などに加え、18年に敷地内に新設されたのがランドアート「水庭」(みずにわ)。20年10月には、「スイートヴィラ」、「レストランμ(ミュー)」が加わり、現在のアートビオトープを構成する。

 なかでも樹木と水と緑で複雑な景観を描く水庭(みずにわ)は、同施設のシンボルともいえる存在。気鋭の若手建築家・石上純也氏を起用し、明治以来、笹や雑木の生い茂る荒れ地を開墾し、水利を図り水田へと転換、その後牧草地へという歴史をたどってきた同地の記憶を踏まえ、樹木と池、苔などをモザイクのように重ね合せ表現したこの水庭は、単に美しいデザインの庭園ではなく“ランドアート”と位置づけられている。「この地の暮らしや自然、歴史長年取り組んできたカルチャーリゾートの集大成へサステナブルという価値を集客にどう結び付けるかアートビオトープ那須CASESTUDYを重層的に表現することで、人間と自然との関係性にあらためて思いを巡らし、自分自身の生活やあり方について考え、内面へと向き合うための『作品』だからです」と同社代表取締役北山実優氏はその意図を語る。実際に足を踏み入れると微妙な勾配や樹木の香り、水の音などが五感を繊細に刺激する。

 昨年完成した宿泊施設「スイートヴィラ」と「レストランμ」。前者は完全独立型の14棟15室の宿泊施設で各居室には奥行き3mに及ぶテラスが設けられ、ガラス窓が全面的に開放できる構造とも相まって、目の前に広がる自然との一体感が売り物だ。その設計を手掛けた坂茂氏は、建築家として豊かさや人間の尊厳について問い続け、難民の人々への住居をデザインするなどのサポート活動への評価から、マザーテレサ社会正義賞などの受賞歴も有す。こうした坂氏の活動に対し「これからのリゾートには、単に物質面でのラグジュアリーなどではなく、地球環境全体とそこに住むすべての生物に対して寛容であり、サステナブル(持続的)かつエシカル(倫理的)なあり方が求められる」との思想をもつ北山氏が共感したことから起用に至ったという。
  
 ハードだけでなくソフトにもその思想が具現化される。レストランμでは、自家菜園の食材を中心にした地産地消の取組みのほか、40q圏内で生産された食材を活用する「25マイルフード」の考え方をもとにメニューを構成。従来の世界各国の美食を堪能する飽食の時代を経た現代に、その土地の歴史や風土に根差した種から、栽培、調理まで、一貫した食や生活のあり方を料理を通じて考える場としている。

滞在という体験そのものの価値を求め訪れる

 このようにアートビオトープでは、人工的な豪華さや、逆に手付かずの自然そのものだけを価値とする既存のリゾートのあり方とは異なる方向性を選択している。その方向性とは前出の北山氏の言葉にある「サステナブルでエシカル」に象徴される、昨今のSDGsの考え方ともリンクするものといえよう。しかしその思想は、近年標榜されたものでなく、1986年の二期倶楽部の創業時から受け継がれたもので、その意味では、「ようやく時代の方が追い付いてきた」といえるかもしれない。

 今回の一連の開発において共同事業者として名乗りを挙げたのがマンションなどの不動産総合デベロッパー、潟^カラレーベンというのも象徴的だ。「幸せを考える。幸せをつくる。」との企業ビジョンの下に、人々の豊かな時間の創造や新しいライフスタイルの提案を掲げる同社では、創業50周年事業のCSR活動の一環としてこの計画に取り組む。こうしたリゾートのあり方に携わることが企業価値の向上にもつながることを見越してのことだろう。

 実際の利用状況については、東京都内をはじめ関東圏からの来場が中心で、年齢層は20歳代~70歳代と幅広い。アートやデザインに惹かれる若い世代から、長期滞在をしながら創作活動に勤しむリタイアしたシニア層まで多様だが、共通するのは観光や宿泊、食事だけではなく、滞在そのものを1つの体験として楽しむゲストが中心であること。アーティストに対しては施設内での滞在制作支援活動を行なう一方、ゲストとのアートを通じた交流機会の創出も図るなど柔軟な運営を行なう。
 事業的には全体オープンから日が浅く、時期的にもコロナ禍に見舞われたことから、まだ十分な認知が広まっていない。しかし、密になる環境が少ない開放的な構造などから、逆に滞在先として選ばれるケースも。またアーティストだけでなくIT関連の技術者などがテレワークプレイスとして滞在利用するニーズもあるという。類似施設がないため価格面での訴求などもむずかしい業態だが、利用者からのSNSを使っての情報拡散による新規客の獲得も多い。現在のスイートヴィラの平均客単価は8万5,000円、レジデンスは同2万円。

 「世界的にSDGsやCSR、エシカルということが注目される流れは、これからの時代の主流になると思われます。そうしたなかで、ホテルやリゾートのあり方もかつてとは異なった価値、目的が求められるようになるでしょう。私たちが30年以上にわたって追求し、実践してきた、都会を離れ、現代的な生活を見直し、新しい時代へのまなざしを獲得するための場所=カルチャーリゾートというスタイルは、今後ますます求められるようになっていくと思われます」と北山氏は今後の展開に自信を深めている。
(そのほかの先進事例研究は本誌にて)
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