――キクヤ[兵庫県丹波篠山市]
[特集]独自路線による市場開拓|CASESTUDY
兵庫県中東部に位置する丹波篠山市を本拠とするキクヤ㈱(社長遠山雅治氏)は、ギフト事業から葬祭業に発展した事業者だ。いまでは、EC事業や法人事業、ふるさと納税支援事業を手がけ、さらにはオリジナルのスイーツブランドの開発と、地域に根ざした事業を展開している。ギフトと葬儀それぞれの事業内容とシナジー、今後の展望について話を聞いた。
キクヤ㈱の創業は1974(昭和49)年。現社長の遠山雅治氏の父である遠山満氏(現会長)が脱サラしてはじめたゴルフショップがそのルーツだ。車で顧客先を回る販売手法が思うように伸びないなか、「ゴルフコンペの景品を手配できないか」という顧客からの声を受け、満氏は79 年からギフトの仕事を手がけるようになる。これが現在の同社ギフト事業部のはじまりだった。ギフトというマーケットに気づかされた満氏はすぐにゴルフショップをやめ、商号も遠山家の家号である「キクヤ」としてギフトショップをスタート。以降、ギフトを中心に事業を展開していった。
現在のギフト事業部はギフト・贈答品の販売および企画提案を主業務としており、百貨店やゴルフ場・土産物店への販売のほか、隣接する丹波市に直営ギフトショップ「キクヤ氷上店」を構えている。同社が葬祭事業に参入したのは約25年前のこと。そのきっかけは、「将来的に結婚などお祝いへのお返しがどんどん減っていくだろう。ギフト1本では右肩上がりは望めないので、もう1 つ事業の柱がほしい」という満氏の考えからだった。すでにギフト事業で葬儀・法事の返礼品を扱っており、親和性が高いとみたからだ。
参入当初は自宅葬が中心だったが、2005年に周辺地域で2番目となる葬祭会館「たんばセレモニーホールネムールの森」(現家族葬のキクヤ かいばらホール、以下かいばらホール)をオープン、会館葬にも対応できるようになった。現在の同社葬祭部は、かいばらホールと丹波篠山市にある「家族葬のキクヤ ささやまホール」(08 年開業、以下ささやまホール)の2会館体制で、年間施行件数は300件弱にのぼる。
そうしたなか、ギフト・贈答品の販売を全国に広げようと、EC 事業部を立ち上げたのは十数年前のことだ。現在、EC事業部で運営するオンラインショップ「ギフトのデリバリーディライト」は、楽天市場やYahooショッピングなどのEC サイトに出店し、出産祝いや結婚祝い、香典返し、お中元・お歳暮、引っ越しの挨拶などあらゆる用途に応じたギフト商材を中心に販売している。ギフト事業のノウハウを活かし、受注から梱包・出荷までを一貫して自社で行なう体制を構築していることで、ユーザーからは高評価を得ており、同社全体の売上げの約4割を占めるまでに成長した。
次に立ち上げたのは、法人事業部だ。4年ほど前、M&Aで地元特産の「丹波黒」(大豆)などの取扱いをしている企業から、黒大豆等加工品の企画・販売部門の事業を譲受したことにはじまる。現在、法人事業部では、「丹波黒」や「丹波大納言小豆」など、素材を活かした商品を取り揃えるオリジナルブランド「はべ黒庵」を展開。自社で企画・開発し、製
造をパートナー工場へ委託する形で、大豆だけでなく、栗や小豆、麺類など幅広い商品を、全国の百貨店・ギフトショップ・専門店などへ卸販売している。
2年前にはじまった同社オリジナルスイーツブランド「つばめと風」も、法人事業部が企画・開発に携わった。同ブランドは丹波篠山の市鳥でもある「つばめ」が「丹波篠山の素材にこだわったスイーツを爽やかな風に乗って全国に届ける」をコンセプトに掲げている。丹波栗のタルトは、丹波篠山市産の「黒大豆」と、丹波地方の「丹波栗」の2つの地産品を活かしたスイーツで、ひとくちで丹波地方の恵みが味わえる。タルトのほかにもブールドネージュなど多彩なラインナップがあり、ネット販売だけではなく、市内に直営のリアル店舗を構えている。同ブランドのスイーツは、ギフト商品の仕入れ・販売を主としてきた同社にとってはじめての自社製品といえ、葬祭部が寺院に挨拶に伺うときの手土産としても重宝しているという。
「はべ黒庵」や「つばめと風」ブランドの話でもわかるように、同社のどの事業においても、その根本には創業の地であり会長・社長の生まれ育った地でもある地域への貢献という意識がある。同社の地域密着・地域貢献のあり方がよく表われているのが、ふるさと納税支援事業部の存在だろう。
自治体が寄付(納税)を受け、寄付者に返礼品を返すという仕組みのふるさと納税制度は、地元企業や農家への返礼品の出品要請や企画・開発、価格交渉、寄付者への対応、返礼品の発送手配といった一連の業務を、自治体が民間事業者に委託するケースは多い。丹波篠山市もその例に漏れず、同社のふるさと納税支援事業部は 23年より市から業務を受託している。その背景には、「EC事業部で培ったノウハウを活かしたい」「地域の特産品を活かして全国に届けたい」という思いがある。
以前は全国展開する大手事業者が受託していたが、地元企業や農家とのきめ細かなやり取りが評価され、同社の受託が決定したという。ギフト業・葬祭業での地元とのつながりも大きかったに違いない。現在、ふるさと納税支援事業部では丹波篠山市と丹波市の2市から業務を受託。丹波篠山市では丹波黒などの農産物、丹波市ではゴルフボールなど工業製品を中心に、およそ 1,000種の返礼品を取り扱っている。全国でふるさと納税を行なっているのは、納税者のうち2割程度であることから、まだまだ伸びしろのある市場だと同社ではみている。
「当社は企業理念として『顧客感動の追求』、お客様に感動と喜びを提供することを掲げています。ゆりかごから墓場までのさまざまな局面において、たとえば生まれたときにはお祝いの品を贈る、結婚式を営む、亡くなったときには葬儀をとり行なう、といった冠婚葬祭・人生儀礼を通して地域密着を目指してきたというのが当社のいちばんの強みでしょう」と、同社葬祭部課長の小谷哲也氏は語る。
その葬祭事業だが、やはりコロナ禍の影響は大きかった。会葬者は大幅に減少し、規模を縮小して施行するケースが大半だったという。「地域の横のつながりが強い土地柄で、もともと参列するのが当たり前の文化がありました。その横のつながりはコロナ後も残ったのですが、いまは葬儀に参列するのではなく、家に直接弔問に行く文化に変わってきたように思います」と言う小谷課長は、同時に葬儀社側の努力不足も感じているようだ。
たとえば、コロナ禍後に同社が立ち上げたお別れ葬「縁(えにし)」というプランは、午前中を一般の参列時間とし、昼からの葬儀・告別式は親族を中心とした家族葬とするいわば「一般葬+家族葬」プランであり、同社では会葬者が戻るきっかけになると期待した。しかし、一定の成果はあったものの会葬者が回復するには至らなかった。そのため、同社ではブランド強化と会館リニューアルを実施し、「件数を取りにいき、単価を上げる」に打って出て、売上げ確保を図った。
(続きは本誌で)