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――深田建築デザイン研究所[岡山市北区]

施主・現場・設計家の3者で整備する
葬祭会館という「ハレの場」の空間設計

[特集]設計会社発 会館の理想像|CASE STUDY

本稿では、同社が設計を担当した、互助会・ラックの家族葬専用会館「INORIA」を題材に、社会に必要とされる理想の会館づくりや空間設計について、ビジュアル&図面で解説する。


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 当社は、「社会に必要とされる魅力ある空間スタイルを、研究・創造し提案すること」を企業哲学に、ブライダル施設や商業施設、歯科クリニックから一般住宅まで、多岐にわたる設計・デザインに携わってきました。さて、葬祭業界においては「ハレの場」のデザイン、いわばその世界観を今後の会館の設計・デザインに採り入れることが大切だと考えます。これから喪主になる人は、さまざまな情報をもっています。それゆえ、従来のような「厳かな」「落ち着きのある」といった空間設計に固執するのではなく、たとえば「明るく送り出してあげたい」というニーズに応える空間設計が必要になってくるはずだからです。

 空間づくりにおいては、外観・内観のみならず、外周部にも気を遣う必要があるでしょう。外周等にグリーンを施せば、それが目隠しとなる一方で、ガラスを多用した「明るく開放的な」空間づくりが可能です。また、諸室の壁の色も、落ち着いた赤や緑といった色をアクセントとして使うなど、カラーリングも重視すべきです。

 式場については、地域によって会葬規模が異なるため言及しかねますが、無宗教葬や生花祭壇のニーズの高まりとともに、場合によっては従来の祭壇を撤去することもあるでしょうから、それらを収容するバックヤードの位置にも工夫が必要です。こうしたバックヤードがあれば、式場レイアウトのアレンジも容易になるため、より使い勝手のよい空間が確保できることになります。

 空間設計において重要なことは、利用者(葬家)の立場にどこまで立てるかだと思います。家族葬会館がふえている理由は、まさにそのプライベート性にあるはずです。気兼ねなく、ゆっくり過ごすことができる。そのシーンを提供するのが葬祭会館であるとすれば、先ほど申し上げたように、カラーリングにも気を遣う必要があることがおわかりでしょう。

 これから、新たに新設会館を検討されているのであれば、少なくとも「どのような会館をイメージしているのか」、ここを明確にしていただければと思います。また、その地域の葬儀慣習などもお知らせくださればより具体的なイメージにつながります。

 いちばん理想的なのは、「施主(経営陣)」「現場の声」そして「設計会社」がプロジェクトチームとして動ける環境を整備することです。もちろん、3者からあがってくる声をすべて反映させるのはむずかしいのですが、新設会館にかける思いは皆、同じはずです。その擦り合わせができてこそ、3者が自信をもってお客様にお勧めできる葬祭会館となるはずです。また、家具や什器備品についても、できれば3者間で協議・共有しながら選んでいくのが理想です。

 新設する会館のポジショニングも大切になります。たとえば、自社の基幹店というのであれば、本部機能を担う広めの事務スペースも必要ですし、式場もある程度の規模が必要になる。一方で、すでに基幹店に付随するサテライト店という位置づけであれば、最低限の事務スペースを確保し、余剰スペースを遺族控室や共有スペースなどに充てればいいのです。

 繰り返しになりますが、大切なのは、その会館を建てる意味と、どのような葬儀をしたいのかが(お客様に)伝わる会館づくりを目指すことなのです。


以降では、㈱ラック(本社福岡市博多区、社長松井秀二氏)の協力のもと、家族葬専用会館「INORIA」ブランドの設計・デザインの多様性について、3事例をもとに解説する。

「INORIA井尻ホール」(福岡市南区、2024年8月竣工)

福岡市の市街地に建つ小規模会館。家族葬の新しいスタイルを提案した内外装を目指し、モダンで温かみのあるイメージを出すため、ナチュラルな格子を外装デザインに採用。内装は式場とリビングが一体となったスタイリッシュで明るいデザインとし、式場内にはアクセントとしてシャンデリアを取り付けている。

「INORIA田村ホール」(福岡市早良区、2024年12月竣工)

福岡市早良区の郊外に建つ小規模会館。商業店舗からのコンバージョンで、外観は落ち着いたグレー色とし、外周部にはグリーンを配している。内装は、プライベートな空間でゆっくりくつろげるレイアウトとした。

「INORIA周船寺ホール」(福岡市西区、2025年9月竣工)

福岡市西区に建つ小規模会館でINORIAブランドとしては11か所目。この会館は、施主・現場スタッフ・設計がそれぞれの意見を積極的に出し合い、真の意味でのプロジェクトチームとして開業までに至った施設。詳細については以降で解説する。


「INORIA周船寺ホール」最終案決定までのプロセス

 前述した INORIAブランド3施設の外観が異なっていることに、気が付かれた方はいるだろうか。同一ブランドを多店舗展開する場合、基本的に同じフォルムやカラーリングでその統一を図るケースが多い。しかし、施主から求められたのはブランドの深化だった。そのため、外見は黒基調からグレー、そして木目調へと大きく変化している。イラストは、周船寺ホール提案時の外観3案で、最終的に選ばれたのがこれまでのINORIAとは異なる「木目調」(外装イメージC)だった。外周部は最終CGパースで完成をみている。また、内装も、当初案(内装イメージA)から大きく変化し、式場内に曲面型の LEDビジョンを設けるとの方針により、内装イメージBのように、式場空間を円形に変更している。

提案時の外観3案と最終パース

内装案

竣工後の外観・内装

これまでは、西日本典礼・大分典礼といった屋号を入れていた立て看板も、INORIAブランド名のみとし、かつ、高級店を思わせる黒基調のものに変更(夜景シーンでは特に目立つ)。施主からの要望で、一見しただけでは葬祭会館とは思えない佇まいとし、「興味をもたせる」動機付けを高めた

(左)曲面型のLEDビジョンを導入することで、式場空間も円形ベースのデザインに変更。床面と天井を円形にすることで、式場とロビーの境界線を明確にした(右)ゆったりとした時間を提供する雰囲気づくりとして、遺族控室にバーカウンターを設けた。すべては、館内に長時間滞在する遺族のためという施主の意向を反映したもの

グリーン(植栽)を上手く活用すれば、外部からの目隠しになるほか、落ち着きある空間演出を行なえる


月刊フューネラルビジネス5月号「特集|設計会社発 会館の理想像」では、では、本稿で紹介した会館について、より多くの写真や図面を掲載しています。そのほかにも、設計会社5社が考える理想の会館像について解説しています。

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