――㈱すみごころ 角田奈々恵
【連載】クレームをどう活かす?その構造と対処法
すみだななえ●2007年、大手葬祭会社に入社後、現場スタッフを経て会館長に就任。その後、営業職として個人総合成績1位を獲得。これまで担当やスタッフとして関わった葬儀は3,000件以上、社葬・お別れ会・合同葬は500件以上にのぼる。22年に退職後、一般企業で社長室人事教育担当室長やオンライン配信部担当部長、経営コンサルティング部担当部長などを歴任。24年に㈱すみごころを設立し、葬儀社のコンサルティング、社員研修や新卒教育などに携わる。人気講座は「接遇マナー」「ビジネススキル」「式場所作」「司会・納棺」など。企業理念「すみごころは、葬儀業界の人がより幸せに働けるように支援します」
皆様、はじめまして。㈱すみごころの角田奈々恵(すみだななえ)と申します。私は学生時代にアルバイトで葬祭業界に入り、その後、新卒で大手葬儀社に入社して15年間の現場経験を積みました。現在は、現場での教育研修や業務改善、業績アップのご支援を中心に、葬祭業界専門のコンサルタントとして活動しています。今回、『月刊フューネラルビジネス』様からお声がけいただき、現場で役立つ“クレーム対応のヒント”について、実例を交えながらお伝えする機会をいただきました。しばらく、おつきあいいただければ幸いです。
クレームとは英語で「主張や要求」を意味しますが、本連載では不当・過剰な要求ではなく、ごく当たり前にお客様が感じた“不満”や“訴え”についての対応のお話をさせていただきます。お客様からのクレームは突然やってきます。しかも、葬儀という止めることのできない現場では、施行の段取りを進めながら、同時にクレーム対応を求められることもあります。現場スタッフにとって、精神的負担はとても大きいものがあります。
さて、クレーム対応の結果は、大きく2つに分かれます。
①適切に対応し、これまで以上の信頼関係を築き、ファンになってもらう(リピーター獲得)
②対応が悪く、火に油を注いでしまった結果、さらなるクレームを呼ぶ(受注キャンセルになることも……)
多かれ少なかれ、皆様も経験したことがあるのではないでしょうか。
前述の②のように、正しい対応ができず、さらに悪化してしまう現象を「クレームのクレーム」と呼びます。この現象は、これまでの経験や勘だけで対応し、適切な対応ができなかったことが原因となって起こってしまうものです。
たとえば、よくあるケースが「謝ったら非を認めることになるから、絶対謝らないようにしよう……」という考え。誤った認識のもとでお客様に対応してしまい、反省も謝罪も見えない態度にさらなる怒りを買ってしまうというパターンです。しかも、たまたまそれで場が収まったという経験をもつ先輩は、後輩にも「謝ったらダメだよ」と教えてしまいます。
このように、現場での対応は、正しい知識や対応方法を知らないまま、個人の感覚に任せていることがほとんどです。その結果、円満解決度が低下し、社内でも人によって対応の差、ひいてはサービス品質の差が生じてしまいます。場を収めることが得意な人もいれば、初動対応でつまづき、意に沿わない値引きが発生するなどでさらなる損失を呼んでしまう人もいます。皆様の会社も個人の能力に頼り切っていることが多くありませんか。個々人の感覚に任せるのではなく、正しい対応を理解し、社員に教育することがクレーム対応の第一歩になるのです。
ある調査によると、私たちのもとに届くクレームは、不満をもっているお客様全体の約4%(顕在不満)だといわれています。残る96% の方は、不満をもっていても言わない(潜在不満)のです。つまり、クレームが1件入ったら、同じ不満をもっているお客様は20 人以上いると考えられるのです。クレームを言わないお客様は、不満を内に秘めてそのままフェードアウト……。二度と利用してくれません。最近ではネット上のクチコミで後から叩かれることも多くなってきました。
一方で、クレームをいただいた4%のお客様は、適切に対応すると、そのほとんどが「また利用しよう(リピーター)」「クチコミや友だちにもオススメしよう」とする傾向があります。クレームの内容にもよりますが、ここで起きる信頼回復は、何のトラブルもなく終わるお客様との信頼関係を超えるともいわれています。
ちなみに、クレームを言ったのに適切に対応してもらえなかった場合、悪いクチコミは、オススメのクチコミより何倍もの人に拡散されるというデータがあります。悪いクチコミはよいクチコミの数倍の速さで広まるのです。
このように、表に出てくる不満はほんのわずかであること、ここで適切な対応ができない場合、どんどん顧客を逃がしてしまうことを、私たちは認識しておく必要があります。
これから数回にわけてクレーム対応についての基礎知識をお伝えしていきますが、ぜひリーダーや管理職の方に率先して読んでいただきたいと思います。教育や研修の現場にいると、よくベテラン社員の方が「自分たちはもういいから、若手にたくさん学んでほしい」という言葉を耳にします。しかし、それだとなかなか社内全体に知識やスキルは浸透しません。なぜなら、若手社員が新しい対応を実践しても、正しい知識をもたない先輩社員に「うちのやり方はこうだよ」と言われ、もとに戻されてしまうからです。私の講座でも「もし社員全員の受講がむずかしい場合は、ベテランさんや影響力のある方になるべく参加してもらってください」とお願いしています。
クレーム対応は、個人のスキルよりも組織全体の姿勢が問われるテーマです。現場のスタッフに「しっかりしろ!」という前に、リーダー自身が「クレームとは何か」を正しく理解しておくこと。それが、現場を守り、社員を守り、お客様の信頼をつくるいちばんの近道だと思います。
「【連載】クレームをどう活かす?その構造と対処法」は、月刊フューネラルビジネス2026年1月号より掲載しています。