── さくらホールのペット葬[群馬県高崎市]/櫻井式典
[特集]葬祭業の強みを活かす「ペット葬」|ケーススタディ
1984年7月に創業した櫻井式典㈲(本社群馬県高崎市、社長櫻井怜氏)は現在、高崎市内に4会館を展開し、年間200件程度の葬儀を施行している。ペット葬事業は2024年10月から開始し、さくらホール本館敷地内にペット火葬ができる移動火葬車、さらにお別れ・待合いルーム、合葬墓を開設した。24年2月に社長就任した櫻井怜氏に、ペット葬の事業内容や今後の展開などについて伺った。
櫻井式典は、創業当時高崎市内でも特に宅地化が進み人口が急増していたJR信越本線群馬八幡駅周辺のエリアを地盤として葬祭事業を軌道に乗せた。1999年には同駅から徒歩5分の場所に1号店「さくらホール本館」を開設し、自宅葬から会館葬へとシフト。2005年には本館向かいに、小規模葬や法事に特化した「さくらホール別館」をオープンさせた。その後、家族葬や遺体安置のニーズの高まりを受け、11年には市営火葬場「はるなくらぶち聖苑」(炉数2基)近くに家族葬専用式場/安置施設「はるなさくら邸」を、14年には民家をリフォームした同様の「やわたさくら邸」を開設。16年には生花を内製化しサービスの拡充を図っている。
代表取締役の櫻井怜氏は、24年2月に勇退した母親の跡を継ぐ形で就任したばかり。時を同じくして取締役に就任した夫・賢太郎氏とともに、「世代交代を機に、新しい視点で櫻井式典の葬儀のサービス領域を広げていきたい」と考えていたという。その新しい視点にもとづいた方策の1つが、同社のペット葬サービス「さくらホールのペット葬」というわけだ。「フューネラルビジネスフェアでの展示を見ても、ペット葬関連の商品展示やサービスがふえ、来場者も高い関心を示していることから、ペット葬の需要が高まっていると感じます。実は私の家でもペットを飼っており、実際にペット火葬のサービスを利用してみて、ニーズを実感したのがきっかけです」と櫻井社長は語る。
近隣住民や同社の会員(「さくら倶楽部」、会員数3,156人)にペットを飼っている人、しかも多頭飼いやゴールデン・レトリバーなどの大型犬の飼い主が多くいたこと、さらにエリアで競合する葬儀社にペット葬に対応する会社がなかったことも決断を後押しした。「最初からペット葬事業を独立させて新規事業にというよりは、当社のお客様に向けたサービスという視点ではじめました。ペット葬を通じて、さくらホールのファンになってもらい、葬儀受注にもつなげたい。会員の方はもちろん、会員でない方も取り込んでいければと考えていました」と櫻井社長は言う。
移動火葬車を発注した際には、火葬車メーカーが「最も売れているモデル」とする20kgまで(小動物から中型犬)対応のものではなく、小動物から大型犬(40㎏)まで対応のさらに大きい火葬炉を搭載したものとした。地域に多い大型犬の火葬にも対応できるようにするためだ。また、当初は移動火葬車のみを準備してペット火葬サービスを展開していく構想だったが、社内で検討した結果、「お別れの場、火葬時の待合室が必要ではないか」「焼骨を埋葬できる墓所が必要ではないか」という意見が出たため、「さくらホール本館」の敷地内にお別れ・待合いルーム「さくらテラス」、ペット専用合同墓地「さくらメモリアル」を設けることとなった。こうして24年10月にスタートした「さくらホールのペット葬」は、1年足らずの間に約70件のペット葬を施行するまでになった。
(左)火葬炉を搭載した移動火葬車。大型犬の火葬にも対応できる火葬炉を搭載
(中)お別れ・待合いルーム「さくらテラス」
(右)さくらテラスの室内
「さくらホールのペット葬」の提供するサービスは、以下のとおり、4つのプランからなる。
①お任せ供養プラン
ペットの亡骸を預かり、個別火葬してさくらメモリアルに埋葬する。亡骸のサイズにより8,800(税込、以下同)~4万9,500円。
②火葬立会プラン(収骨なし)
お別れセレモニー(祭壇を設置し30分ほどの式典を実施)後に個別火葬し、スタッフが収骨・返骨する(1万6,500~5万6,100円)。
③火葬立会プラン(収骨あり)
お別れセレモニー後に個別火葬し、家族が収骨にも立ち会う(3万8,500~7万3,700円)。
④お寺さん供養プラン
お別れセレモニー時に僧侶による読経を行なう(5万5,000~9万0,200円)。
①を除く②~④にはオプションでさくらメモリアルへの納骨が付く。状況により、高齢者のいる家族の送迎や、亡骸を自宅まで迎えに行き火葬後に返骨するなどのサービスも展開。地域に根ざした軽快なフットワークが、同社の大きな強みとなっている。いまのところ「お寺さん供養プラン」の実績はないが、利用者の多くはお別れセレモニー付きのプランを選択するという。 さくらテラスではお別れ時、いったんスタッフは退室する。飼い主・家族が花を手向け、家族だけでゆっくりとお別れの時間を過ごしてもらうためだ。多頭飼いの飼い主の場合、ほかのペットと一緒にお別れをする人も多い。実は、出張火葬への対応を明示しているにもかかわらず、移動火葬車で自宅まで出向き、自宅周辺で火葬を行なったことは一度もない。その要因としては、もちろん「自宅付近で火葬すると近隣の目が気になる」ということもあるだろうが、ゆっくりとお別れの時間が過ごせるさくらテラスの存在が大きいといえる。
(左)ペット専用合同墓地「さくらメモリアル」
(右)利用者の納骨は全体の2割程度
手向ける花も同社の強みの1つだ。電話受付の時点で、どのような種類の花を手向けたいかを必ず確認し、飼い主の好みやそのペットのイメージカラーといった多様なニーズに応える。ペットが亡くなった即日の火葬を希望する飼い主も一定数いるが、突然の注文でも同社には生花部があるため、迅速に対応することができる。「ペット火葬の専業者は、火葬して収骨するだけのところが多いのではないでしょうか。当社の場合はヒトと同じようにお花を手向けてお別れができる。そのようなサービスを提供できる点が、お客様に喜ばれています」と、櫻井社長は分析する。
火葬後、合同墓地「さくらメモリアル」に納骨する人は全体の2割程度だが、「周辺地域に住む方では合同墓地を利用される方が圧倒的に多い」(櫻井社長)という。利用者のなかには、毎日の散歩コースに合葬墓を組み込むなど頻繁にお参りをする人も少なくなく、常に花が供えられ、お盆や彼岸の時期には花瓶が足りないほどになるようだ。
専門葬儀社ならではのクオリティ、軽いフットワークが高い顧客満足度を支えていることは、反響の大きさでもわかる。同社では利用者のアンケート調査を実施しているが、「さくらホールのペット葬」のアンケートの返信率はヒトの葬儀よりも非常に高く、約8割にのぼる。自由記述の欄には、同社へのお褒めの言葉と亡くしたペットへの想いが書き尽くされている。
「ペットとのお別れはどのご家族もとても悲しみが深く、ヒトの葬儀でのお別れよりも最後のお別れに時間がかかることも多い」と櫻井社長。その深い悲しみを表出するお別れについて、同社では「移動火葬車だけでは時間に限りがあり、ゆっくりお別れができない」と、お別れの場としてさくらテラスを設けた。同社では今後も専門葬儀社としての知識・ノウ
ハウを活かし、より家族に寄り添ったサービスをしていきたいと考えている。来たる11月22日(ワンワンニャンニャンの日)には、合同供養祭を初開催する予定だ。
今後の展望について櫻井社長は、「当社のペット葬が浸透していけば」と断りつつ、将来的には固定式火葬炉を設置したいとする。固定式火葬炉を備えた常設のペット斎場であれば、利用者にいま以上に安心できるお別れの場・時間を提供できるという考え方だ。現状、同社ではペット葬のPR・広告は、会員DMや動物病院へのチラシ設置を除くとほとんど行なっていない。今後は広告訴求にも注力して認知度を向上させ、(ペット葬の)施行件数をふやしていくことで「固定式火葬炉を備えた常設のペット斎場」という未来を描いていく。
月刊フューネラルビジネス11月号「特集|葬祭業の強みを活かす『ペット葬』」では、櫻井式典のほか、計8社に取材を実施。各社の取組みを豊富な写真とともにレポートする。