よりそうところ・Hinode Mortuary/秋川霊園[東京都日の出町]
[特集]遺体安置施設の重要性|ケーススタディ
東京都日の出町にある秋川霊園は、2025年5月、敷地内に2種類の遺体安置施設「よりそうところ」「Hinode Mortuary」を新設した。合わせて、葬祭会館「ありがとうホール」も整備し、「お葬式のかかり」のブランドで葬祭サービスの提供を開始した。秋川霊園が掲げるのは、遺体安置をハブに捉えた独自の葬祭事業モデルである。その狙いと背景、各施設の詳細と提供プランについて、グループ本部 本部長の古川好延氏とマネージャーの田中敬子氏に話を聞いた。
写真手前から、よりそうところ(1)、Hinode Mortuary、よりそうところ(2)、ありがとうホール
秋川霊園は、曹洞宗・寳光寺(ほうこうじ) が1974年に開園した公園型大型霊園。広大な敷地に5,500区画を有するほか、約4年前からは「ガラスのお墓 光り墓®」を採用した樹木葬区画も導入し人気を集めている。
葬祭サービスの提供に着手した最大の理由は、霊園顧客から寄せられる要望に応えるためだ。秋川霊園では現在、区画購入者のほとんどが生前購入(寿陵)となっており、彼らから「お墓を買ったが、どうやってここに入ればいいのか」「葬儀まで一括して任せたい」という多数の声が寄せられていた。「私どもは『お客様の困りごとはすべてサービス化する』ことを基本方針としており、葬儀サービスの提供を求める声に応えるべくスタートしました」と話すのは古川本部長。
“火葬待ち”という地域課題の解決も葬儀参入の背景にある。近隣の広域火葬場では、ひので斎場(炉数4基)で最長1週間、瑞穂斎場(炉数8基)では最長2週間の火葬待ちになるケースもあり、安置施設の整備は地域全体の課題となっていた。「この課題に取り組むのは、地域に根ざす霊園として、私たちが果たすべき役割だと考えています」と古川本部長は続ける。
事業は、葬儀社での勤務経験をもつ田中マネージャーを中心にスタート。式場と安置施設の一部を24年11月にプレオープンし、25年5月に全施設が完成しグランドオープンした。なお、葬儀サービスの施行は4人の専任スタッフ体制で対応している。
整備した施設は、遺体安置施設「よりそうところ」(2棟)と「Hinode Mortuary」、葬祭会館「ありがとうホール」。よりそうところは1棟貸切り型で、1体用保冷庫と、小規模なお別れ会も行なえるリビングスペースという構成。Hinode Mortuaryは複数体用で、8体用の保冷庫と遺体安置スペース、休憩スペースから構成される。2種類の遺体安置施設は新築で、施設内の家具や装飾はすべてシンプルなデザインで統一。日用品ブランドの法人向けコーディネートサービスを利用し、木のぬくもりを感じられる空間に仕上げた。保冷庫には、特殊な電場によって体内の水分を微振動させ、肌のうるおいを保つことで遺体の変化を緩やかにする画期的な製品を導入した。ありがとうホールは、既存の管理事務所を改装したもの。既存のロビーと法要式場を、最大50人規模の葬儀式場に変えた。
よりそうところ(左)では、棺側のお別れスペースと手前のダイニングスペースをラックで緩やかに区切った。Hinode Mortuary(右)では納棺式なども行なえる
お葬式のかかりで提供するプランは「火葬式」(35万8,000円)、「一日葬」(55万8,000円)、「二日葬」(65万8,000円)、「直葬+合葬墓納骨」(18万8,000円)の4種類。いずれも供花や料理、返礼品などの変動費を除き、葬儀に必要な内容がすべて含まれており、遺体安置に日数制限がなく追加料金がかからない明瞭な料金体系が特徴だ。火葬式、一日葬、二日葬プランは、いずれも火葬の前日朝までHinode Mortuaryで安置し、その後はよりそうところへ移動し、夜伽の時間を過ごす。一日葬、二日葬プランには、ありがとうホー
ルの利用料も含まれる。直葬+合葬墓納骨プランは、Hinode Mortuaryでの安置と秋川霊園内の合葬墓への納骨をセットにしたものである。
遺体安置施設は、いずれも24時間いつでも面会可能。よりそうところでは、入口のカードキーを事前に遺族へ渡し、自宅のように自由に利用してもらう。Hinode Mortuaryでは入口のカードキーのほか、保冷庫の鍵も事前に渡す。LINE経由で30分単位の面会予約が可能で、遺族は予約時間に合わせて入室し、保冷庫から遺体用トレーを引き出して対面する。
現在、火葬式など簡素な葬儀の増加に伴い、故人の顔を見てゆっくりとお別れをする時間が確保できないまま出棺を迎えるケースがふえている。特に葬儀そのものを行なわない場合は、形式的な対面だけで終わることも多く、遺族が十分な時間を取れない現状に、秋川霊園では違和感を覚えていたという。さらに、一般的な安置施設では、故人に対面するには葬儀社への事前連絡が必要で、対面時間も日中に限られるなど、遺族の都合に合わせにくいことも多い。「人前では故人への感謝の気持ちを伝えられないが、本当は最後にしっかりとお別れがしたい、という想いをもつ人は多い。そのような人たちにとっては、誰にも見られず静かに故人と向き合い、感謝を伝えられる場所が必要だと考えました」と古川本部長。こうしたコンセプトを形にしようと秋川霊園がたどり着いたのが、「葬儀」以上に「遺体安置」に重きを置いた葬祭サービスの提供である。貸切り型安置室を組み込んだプラン設計と24時間対面可能な施設運用で、遺族に最後のお別れの空間と時間を提供する仕組みになっている。
この発想は、従来の葬祭事業者が展開する遺体安置施設とは大きく異なる。一般的に、葬祭事業者の安置施設は、葬儀受注を見据えた施設として設けられており、葬儀そのものを起点とした設計が多い。一方、秋川霊園の安置施設は、「遺体安置」を出発点に、従来型の葬儀だけを前提にするのではなく、遺族の希望に応じて近親者だけでのお別れ会、出棺前に供養読経だけを依頼したお別れ会、あるいは火葬当日に納骨する、など複数の選択肢を用意している点に特徴がある。儀式の有無や規模にかかわらず、誰もがゆっくりと最後の時間を過ごせる、霊園主体の事業者が提供する葬祭サービスならではといえるだろう。
本誌では、販促面での工夫や、プレオープン後の利用動向なども詳解しています。