キーワード検索

サイト内検索を閉じる

稲場圭信氏 大阪大学大学院教授 人間科学研究科 共生学

いまこそ、強固な災害時協力に業界あげて取り組むべき

近年、寺院および神社など宗教施設と自治体の災害時協力の輪が広がっている。2011年に発生した東日本大震災を教訓に、首都直下型地震、東海地震、南海トラフ大地震、各地で頻発する地震や豪雨災害などに備えた「自助」「共助」「公助」の仕組みづくりが進むなか、宗教施設、宗教団体と行政との連携が生まれている。その背景には、東日本大震災の際、自治体が指定した避難所が被災して使えず、100か所以上の寺社等宗教施設が緊急避難所となり、多いところでは400人ほどが避難生活を送ったことなどがある。被災地で宗教施設は地域資源として一定の力を発揮したことが明らかになった。その後、熊本地震や西日本豪雨などの被災地でも宗教施設が避難所となっている。
葬祭事業者に注目してみると、実際に東日本大震災のとき、各事業者は亡くなられた方々とご遺族のために奔走し、献身的な活動をした。一方で、全国の個々の保有施設はどうか。47都道府県に1万か所ほどの葬祭会館があるという。いくつかの会館は自治体と協定を締結して、災害時の一時滞在施設になっているが、その数はどれほどであろうか。本稿では、宗教界の防災・減災の動向を紹介しつつ、葬祭業界の災害対応として今後の取組みについて、いくつか提言することにする。

奇跡の一本松
奇跡の一本松

避難所不足という実態と
新たな対応

20年4月7日、内閣府は「避難所における新型コロナウイルス感染症への更なる対応について」と題して地方自治法(昭和22年法律第67号)第245条の4第1項の規定に基づく技術的助言を通知した。避難所の収容人数を考慮し、あらかじめ指定した指定避難所以外の避難所を開設するなど、可能な限り多くの避難所の開設を図るとともに、ホテルや旅館等の活用も検討するよう、自治体に通知している。
新型コロナウイルス感染症拡大防止の取組みのさなか、20年9月上旬に台風10号が近づいた九州・山口の8県では、開設された避難所計5,132か所のうち383か所で収容人数を超える避難者が集まった(朝日新聞:20年9月23日付)。全国で避難所が不足しているという実態があり、その後も内閣府は、避難情報の発信や災害時の一時避難所について改善要請をしている。
22年1月には、全国の指定避難所約7万9,000か所の約3割が風水害による浸水想定区域に立地していることが内閣府の発表により明らかになった。私たちが避難する施設、主に小学校や公民館が被災する危険があるのだ。国は、やむを得ず浸水区域内に避難所を指定している自治体に対して安全確認等の対策の徹底を求めたが、浸水区域外の新たな避難所の確保は基本的に自治体の責任である。災害対応における施設の活用では寺社等宗教施設、そして葬祭会館も含まれる。

津波に浸水した高さを示す看板

共助の仕組み「災救マップ」

内閣府では、避難所の混雑状況をインターネットで知らせたりする仕組みを構築するように自治体に通達している。
地域資源を活用した減災・見守りシステムの構築も進めてきた筆者らは、全国の避難所や宗教施設を含めた防災マップ「未来共生災害救援マップ(略称:災救マップ)」を開発し、内閣府が通達する上記の機能を搭載している。
災救マップは、指定避難所、指定緊急避難場所、および寺社などの宗教施設を合わせ約30万件の施設情報をもつ日本最大級の災害救援・防災マップで、(一社)地域情報共創センターと連携して運営している。
なお、事前にアプリをダウンロードする必要はなく、パソコン、タブレット端末、iPhoneおよびAndroidのスマートフォンのブラウザで利用可能だ。しかも、旅先で被災しても使えるように全国版となっている。災害時の施設混雑状況(空き、半分、混雑、満員の4段階)、インフラ稼動状況(電気、水道、ガス、通信)を通知する機能も搭載している。
全国にある約1万か所の葬祭会館を登録し、施設管理権限を発行することも可能であるため、災救マップに興味を抱いた葬祭事業者がおられたら、フューネラルビジネス編集部を通して筆者に連絡いただき、地域の防災・減災に活かしていただければ幸いである。

令和の時代、残念ながら南海トラフや首都直下型巨大地震が発生する可能性はきわめて高い。政府の中央防災会議は19年5月、南海トラフ巨大地震の「防災対策推進基本計画」を修正し、約32万人としていた死者数は、住民意識や耐震化率の向上により約3割減の23万人との推計を示した。備えは少しずつ進んでいる。
今後の課題としては、受入れ可能な施設と市区町村が災害時協定を進めていくことに加えて、個々の施設の耐震化や備蓄品の配備と災害を想定した計画・マニュアルの作成があげられる。備蓄棺提供、遺体の搬送、臨時安置所の確保および提供などの専門職を活かした取組みに加えて、一時避難場所の提供も大変重要である。
そのためには、自主防災組織や自治会等の地域住民、防災士、地域の宗教者と協力した日頃からの取組み、関係づくりも必要だ。たとえば、子どもの見守り、高齢者向けの健康相談会などが考えられる。地域住民のつながりの維持や新しいつながりの創出に取り組んでいる施設が、平常時のみならず非常時においても力を発揮するはずだ。
全国の多くの葬祭会館がそのような場になることを期待している。

月刊フューネラルビジネス
2023年3月号

月刊フューネラルビジネス 2023年3月号

定価:4,070円(本体3,700円)

年間定期購読料

最新号から

定価:46,200円(本体42,000円)[送料込]

関連リンク

ページトップ