――小野寺秀友氏
エピローグコンサルティング 代表取締役/一般社団法人人生の未来図代表
[特集]おひとりさま時代の葬儀社の役割|OPINION
生涯未婚率の上昇、単身高齢者世帯の増加・・・・・・。総務省の推計では、65歳以上の1人暮らし世帯は今後もふえ続ける。そして「身元保証人がいない」「何かあったときに頼れる家族がいない」という方もふえている。こうしたなか、葬儀社がどのような役割を果たせるのか。葬儀・終活コンサルタントの小野寺秀友氏に、実際の支援事例をふまえながらお話いただいた。
「おひとりさま」という言葉は、もはや特別な状況を指す言葉ではなくなりつつあります。現場の実感としても、この数年で「身元保証人がいない」「何かあったときに頼れる家族がいない」というご相談は明らかにふえています。
かつては家族が担っていた役割──入院時の保証人、施設入居の手続き、そして最期の見送り――を、誰が代わりに担うのかという問いが、静かに、しかし確実に社会全体に広がっています。私自身、家族を突然の事故で亡くし、死後の手続きを1人で進めなければならなかった経験があります。制度の存在は知っていても、いざというときに何をどう頼ればよいのかわからない──その心細さは、いまも仕事の原点になっています。こうした「おひとりさま」を取り巻く状況下で、葬儀社はどのような役割を果たせるのか。実際の支援事例を交えながら、お伝えしていきたいと思います。
おひとりさまの不安に対して、制度がまったく用意されていないわけではありません。身元保証、死後事務委任、任意後見──こうした仕組みは、法律上すでに存在しています。にもかかわらず、現場で日々ご相談をお受けしていると、これらの制度だけでは支えきれない場面に何度も出合います。
たとえば任意後見契約は、契約時点でご本人の判断能力がしっかりしていることが前提です。しかし実際に支援が必要になるのは、認知機能が低下したり、体調が急変したりした後であることがほとんどです。契約を結んだ時点の「ご本人の意思」と、実際に判断が必要になる場面との間には、時間的にも状況的にも、けっして小さくないズレが生じます。
また、相続人がいない、あるいは長年疎遠になっているご家族しかいないというケースでは、いざというときに「誰が最終的な判断を下すのか」が定まらないまま、時間だけが過ぎていくことも珍しくありません。制度上は手続きの窓口が決まっていても、その窓口に立つべき人がいない、というのが実情です。さらに言えば、契約書や法律が担保できるのは、あくまで「手続きが適法に進むこと」までです。ご本人がどのような最期を望むのか、どこまで納得してその過程を過ごせるのか──こうした生活の質や心の納得感は、契約書の条文には書き込めません。
つまり、制度や法律は「必要な受け皿」ではあっても、「十分な支え」ではないのです。この限界をどう埋めるかを考えたとき、私たちがたどり着いたのが、契約や手続きだけに終わらない、“ 継続的な伴走” という発想でした。
こうした制度と現場のギャップが放置されてきたわけではありません。2024年6月、内閣官房を中心に、法務省、消費者庁、厚生労働省など関係府省庁が連名で「高齢者等終身サポート事業者ガイドライン」を公表しました。身元保証等サービス、死後事務サービス、日常生活支援サービスを行なう事業者を対象に、契約締結時の説明のあり方や、医療・介護関係者との連携、推定相続人への説明などについて、事業者が取り組むべき事項をまとめたものです。
背景には、この分野の事業者数が急速に増加する一方で、消費者からの相談やトラブルがふえているという実態があります。寄付や遺贈をサービス利用の条件にしないことが強調されている点にも、それが表われています。私たちにとってこのガイドラインは、規制として受け止めるものというより、この事業に取り組む以上は当然守るべき最低ラインが社会的に明文化されたものだと捉えています。弊社でもチェックリストにもとづいて自社の契約手順や情報開示のあり方を見直し、対応を進めています。
ただし、ガイドラインが示すのはあくまで事業者としての適正性です。実際に1人ひとりのご本人やご家族と向き合う現場では、この基準だけでは捉えきれない、もっと個別で切実な状況に直面するときが少なくありません。ある事例を通じて、それがどういうことなのかお伝えします。
おひとりさまという言葉を使うとき、私たちはつい、その方がまったくの天涯孤独であるかのように捉えてしまいがちです。しかし、実際の現場でお会いする方の多くは、疎遠であっても、遠方であっても、何らかのつながりがあるご家族やご親族がいらっしゃいます。
おひとりさまとは、身近に頼れる人が“ いない” ということではなく、その人が“ 見えにくくなっている” ことなのだと、私たちは考えています。だからこそ、ご本人だけでなく、その先にいるつながりをきちんと見出し、支えることが欠かせません。
ある単身の高齢男性(ここでは仮にK 様とお呼びします)への支援は、遠方に住むお姉様からの「弟の体調が心配で」というご相談からはじまりました。K様ご本人との関係は、最初から穏やかだったわけではありません。時に厳しい言葉を向けられることもあったといいますが、その裏には強い自立心と、ご家族への遠慮があったように思います。
支援は、買い物代行や通院の付き添いといった日常的なことからはじまり、やがて施設入居の手続き、金銭管理、医療機関との連携へと広がっていきました。印象に残っているのは、K様が最後まで「食べて力をつける」ことへの強い意志を持ち続けていたことです。入れ歯の調整を望み、リハビリにも積極的に取り組む姿からは、生きることへの執着が伝わってきました。体調が厳しくなるなかでも、「海が見たい」というご希望を口にされました。私たちは実現に向けて準備を整えましたが、叶う前に旅立ちの日を迎えることになりま
した。それでも、その願いを聞いたご家族の表情には、確かな喜びがあったといいます。
最後の数日間、疎遠になりがちだったご家族が看病に駆け付けてくださり、K様はご家族に見守られながら旅立たれました。当初は想定されていなかった家族葬という形で、温かく送られることとなりました。
後日、お姉様からいただいたお手紙には、こう綴られていました。「言葉では言い表わせない感謝しかありません」と。このケースで支援を必要としていたのは、K様ご本人だけではありませんでした。遠方に住み、ご自身も体調に不安を抱えながら弟様を案じ続けていたお姉様もまた、「何をどうすればよいかわからない」という不安のなかにいたお1人でした。
制度上、身元保証や死後事務委任の契約は、ご本人と事業者の間で交わされます。しかし実際の現場では、その契約の周辺にいるご家族・ご親族こそが、情報の整理や意思決定の重さに直面し、孤立しがちです。私たちが行なったのは、K 様ご本人への直接的な支援と並行して、遠方のお姉様への定期的な連絡や状況共有、面会の調整を担うことでした。それによって、お姉様は「何も知らされないまま」という不安から解放され、最終的にはご自身の意思で看病に駆け付け、納得のいくお別れを実現することができました。
制度や契約書は、「誰が何をする権限をもつか」までは規定できても、「誰が、その渦中にいるご家族の不安に寄り添うか」までは規定していません。その空白を埋めることこそが、私たちの言う「支援する人を支援する」という仕事の本質だと考えています。
このケースを振り返ってみると、私たちが担った役割の多くは、実は法律行為ではありませんでした。買い物代行、施設や病院との情報共有、ご家族への連絡調整、そして「海が見たい」という願いに向けた段取り──これらはどれも、資格や免許を必要とする業務ではありません。むしろ必要だったのは、日常的にご本人やご家族と接点を持ち続け、状況の変化に応じて柔軟に動ける「伴走者」としての機能でした。
遺言や死後の諸手続きといった法律行為の部分は、司法書士との連携で適切に処理しています。つまり私たちの役割は、法律の専門家が力を発揮できる場面を整えたうえで、それ以外の──より生活に密着した、より継続的な──部分を担うことにあります。では、なぜこの「伴走者」の役割を、士業ではなく葬儀社が担うのが望ましいのでしょうか。
弁護士、司法書士、行政書士──こうした士業の先生方は、手続きの専門家として不可欠な存在です。遺言や相続、任意後見といった法律行為において、その専門性に代わるものはありません。それでも、「終身にわたる伴走」という役割においては、士業という業態には構造的にむずかしい面があるように思います。
第一に、士業への相談は多くの場合「何か問題が起きたとき」の入口になりがちです。日常的に顔を合わせ、体調や暮らしぶりの変化にさりげなく気づく、という関係を築きにくい構造があります。第二に、士業の先生方は、葬儀や納骨といった弔いの場に立ち会うことは通常ありません。手続きの完了と、ご本人・ご家族にとっての「物語の完結」は、必ずしも同じタイミングでは訪れないものですが、その両方に伴走できる立場ではないのです。第三に、法要やお盆、お彼岸といった、節目ごとに継続的な接点をもつ習慣が士業にはありません。
一方、葬儀社という業態は、この3つの点において、むしろ自然な強みをもっています。もともと地域に根ざし、生前からご縁をもつ機会がある。看取りから弔い、そしてその後の生活まで、1つの業態が一気通貫で寄り添うことができる。さらに、法要やお参りといった形で、その後も継続的な接点をもち続けられます。もちろん、法律行為そのものを葬儀社が担う必要はありません。そこは士業の先生方と連携すればよいのです。むしろ大切なのは、ご本人やご家族にとって「最初に相談できる窓口」であり、必要な専門家へと橋渡しできる「ハブ」としての機能を、誰が担うかという視点です。餅は餅屋というように、法律行為は法律の専門家に委ねる。しかし、その手前にある日常的な伴走と、専門家同士をつなぐ役割は、生前から弔いまでを一貫して見届けられる葬儀社にこそふさわしいのではないでしょうか。
月刊フューネラルビジネス8月号「特集|おひとりさま時代の葬儀社の役割」では、地域に根ざした葬儀社による先進的な参入事例や、2024年に策定された国のガイドラインに基づく実務上の注意点についても詳しく解説する。