――阪神特殊自動車㈱[兵庫県伊丹市]
[特集]霊柩搬送事業の動向と新潮流|CASE STUDY
兵庫県内で年間1万7,000件超の搬送を担う阪神特殊自動車㈱(本社兵庫県伊丹市、社長足立和宏氏)。コロナ禍以降、葬儀社の夜間業務代行サービスをはじめたほか、遺体安置施設やお別れ室の提供を開始。霊柩搬送会社の枠を超え、葬儀社の経営を包括的に支えるパートナーへの変革を加速させている。その狙いや将来像について話を聞いた。
阪神特殊自動車㈱のルーツは、昭和20年代に創業した葬祭事業者、尼交典礼社にまで遡る。同社内の運輸部が分離されたことが実質的なはじまりであり、1962(昭和37)年には葬祭部門と霊柩部門がさらに分離。霊柩部門が阪神特殊自動車の社名で独立し設立、現在の体制となった。
同社の年間搬送件数は2007年以降、右肩上がりで推移しており、近年は1万7,000~1万8,000件となっている。兵庫県内の25年における年間死亡数は6万7,956人であり、1人当たりの搬送機会を2回と仮定した場合、県内には年間13 万5,912回の需要が存在する。これにもとづくと同社のシェアは10%前後となる。
件数増加の要因の1つは、積極的な営業エリアの拡大である。本社のある県東部から、これまで西部に拠点をふやしてきた。直近では23 年に姫路市へ営業所を開設し、現在は伊丹本社、明石、神戸北、神戸、篠山、小野、姫路の計7 か所の拠点で県内全域をカバーしている。メイン商圏は県内および隣接する大阪府だが、近畿全体を営業区域として運行することで、受注件数の増加を図っている。
エリアの拡大に伴い、車両数も順次増加させている。現在の保有車両は計42台で、内訳は寝台車23台、霊柩車(バン型)5台、霊柩車(洋型)13台、宮型1台。搬送における霊柩車と寝台車の稼動割合をみると、2011年の35:65に対し、現在は25:75と寝台車が増加。これに合わせ、同社では寝台車の台数をふやして対応している。
事業規模の拡大と並行して、同社が注力しているのが働き方改革への対応である。24 年4月から適用された時間外労働の規制厳格化を見据え、同社では20年頃から新たな運用と仕組みを構築してきた。長距離搬送を受注した際、以前であれば自社で目的地まで搬送していたが、現在は同業他社と協力して「中継ぎ運行」体制を整え、搬送業務を効率化している。たとえば、九州までの依頼があれば、広島や岡山までは自社で運び、そこから先は現地の協力会社に依頼する。東京方面であれば、名古屋で現地の会社に引き継ぐといった形だ。逆に、関東圏からの搬送を関西で引き継ぐケースもある。
(左)黒檀製の宮を架装した「黒宮型」。阪神特殊自動車が現在保有している唯一の宮型霊柩車で、開業当時から宮を引き継いでいる
(右)寝台車(エスクファイア)。近年は、一般乗用車のようなブロンズメタリックカラーが好評
搬送業務の効率化を進める一方で、同社が現在注力しているのが周辺事業の拡充である。それが21年に着手した葬儀社の夜間業務代行サービスだ。背景にあるのは、市場環境の変化と葬祭業界が抱える深刻な人手不足である。コロナ禍を経て直葬が増加し、火葬場までの移動も高価な霊柩車ではなく、安価な寝台車を利用するケースが増加した。これにより、搬送1回当たりの単価が低下するという課題が生じている。一方で、葬祭業界では人手不足が深刻化しており、依頼を受ける葬儀社から「搬送以外の業務も手伝ってほしい」と相談を受ける機会が増加していた。
「これまで搬送業務を通じて葬儀社様と築いてきた信頼関係があるからこそ、私どもが周辺事業まで少し手を伸ばせばお役に立てることがあるはずです。それをプラスアルファのサービスとして提供することで、単なる搬送会社という枠を超え、葬儀社の経営を包括的に支えるパートナーになりたいと考えました」と代表取締役社長の足立和宏氏は話す。
夜間業務代行サービスは、“21時以降の葬儀社の業務を請け負う” というコンセプトでスタートした。代行する業務範囲は、夜間のコールセンター対応から搬送後の遺体安置、ドライアイスの設置、枕飾りの設営、さらには会館の空き状況の確認・手配、火葬場の仮予約まで多岐にわたる。
サービス契約にあたっては、各社と詳細な業務マニュアルを作成し、必要であれば搬送先となる会館の暗証番号なども共有する。これにより、葬儀社のスタッフが現場に不在であっても、同社スタッフのみで受電~搬送~安置の業務を完了させることが可能となっている。また、すべての業務を一括で引き受けるだけでなく、「特定のエリアのみ」「特定の業務のみ」など一部の業務でも柔軟に対応している。
料金体系は、月額の基本料金に業務発生ベースの変動費を組み合わせる。保有する会館数や施行件数、委託範囲によって変動するため、事前のヒアリングにもとづき、各社にとって導入効果の高い形で提案している。現在、契約社数は15 社。実際に導入した葬儀社からは、「夜間業務がなくなったことで、採用活動もやりやすくなった」「働き方改革につながっている」という声が寄せられているという。当初は“21 時以降の代行” というコンセプトでスタートしたが、実際には「17 時以降の業務をすべて任せたい」との要望もあり、現場のニーズに応じた適応力のある運用が進んでいる。
23年には、事業再構築補助金を活用して営業所に遺体用冷蔵庫と貸しお別れ室を設置。ソフト面だけでなく、ハード面での葬儀社サポートも開始した。これは、今後、独居の高齢者や生活保護受給者の直葬が増加すれば、葬儀社からのニーズがさらに高まることを見越して整備したものだ。そのため、これらの設備は葬儀社経由での利用に限定されている。同社が遺族から直接受注して葬儀を施行することは原則としてなく、あくまで葬儀社の黒子としてサポートに徹する。
遺体用冷蔵庫は、伊丹本社(8体)、明石(6体)、姫路(4体)、篠山(4体)、神戸(2体)の計5拠点に計24体分を設置した。現在、実際に利用されるパターンとしては、想定どおり生活保護受給者の安置が多いという。「自宅には安置できない、自社会館も埋まっている、という場合や、葬儀の失注を防ぐために会館への安置は避けたい、といった場合にご依頼いただくことが多くなっています。そのような場合、当社の冷蔵庫でお預かりして納棺した後、式場までお連れする業務まで担うこともあります」と足立社長。
一方、貸しお別れ室は、本社以外の営業所に整備した。これは宗教者を呼ぶような通夜・葬儀の場ではなく、出棺前のお別れやお花入れの場としての活用を想定したもので、時間単位での貸出しが可能である。「冷蔵庫で故人をお預かりしていると、対面を希望する遺族が訪ねてくることがありましたが、冷蔵庫を設置した当初は場所がないのでお断りしていました。しかし今後、直葬を選ぶ人がふえていくなかで、葬儀をしなくても最後に対面でお別れができる場を提供したいと考え設置を決めました。加えて、自社会館をもたない葬儀社様にも、直葬案件で活用していただければ……」と足立社長は話す。
各営業所に整備した貸しお別れ室
同社はそのほかにも、配車アプリの自社開発に取り組んでいるほか、将来的には湯灌・納棺業務の提供も視野に入れている。詳しくは月刊フューネラルビジネス6月号「特集|霊柩事業の動向と新潮流」で解説しています。