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第1回 M&Aとは何か? 葬祭業界で増加する背景と基礎知識

【連載】台頭するM&Aの基礎知識と葬祭業界

執筆者

竹澤勇真

たけざわゆうま●法政大学卒業後、長瀬産業㈱に入社。中堅・中小企業から大企業まで、多岐にわたる業界の顧客を担当し、合成樹脂等の化学品を中心に営業活動に従事する。数多くの経営陣とやり取りするなかで、日本国内における事業承継問題の深刻さやM&Aの必要性を痛感し、M&A業界への転身を決意。M&A総合研究所では葬祭業、製造業、卸売業、運送業、化学品関連業を中心に幅広く担当。

はじめに

 現代の葬祭業界は、少子高齢化による需要の構造変化、一日葬や直葬といった葬儀形式の多様化、そして人手不足と後継者問題という深刻化する社会課題に直面しています。こうした環境下で、葬儀社のM&Aは会社を存続させるという意味合いだけでなく、地域社会のインフラサービスとしての葬祭業の維持と、さらなる発展のためにも有効な選択肢です。本連載では全8回にわたり、葬祭業界におけるM&Aの基礎知識とリアルな実態について解説します。

葬祭業界が直面する課題と
M&A増加の背景

1.後継者問題:「親族や従業員への承継」が最善ではない時代
 現在、日本の中・小規模事業者は全国に約350万社存在し、そのうち約6割はオーナー経営者の年齢が60歳代以上だといわれています。市場環境が厳しさを増し、人材獲得や育成がむずかしい昨今では、仮に後継者候補が存在していても、「経営能力」の観点から任せることに不安があったり、そもそも後継者本人が承継を望んでいないケースが少なくありません。

 このように、従業員や親族への承継がベストな選択だと考えられず、適切な後継者を見つけられない経営者が増加しています。そこに株式や連帯保証の取扱いなどの問題が重なることで、承継について悩みを抱える方が多いのです。保証の取扱いなどの問題が重なることで、承継について悩みを抱える方が多いのです。

 そうしたなかで、大切に育て上げてきた会社を単純に存続させるだけでなく、さらに成長させるための手段としてM&Aを選択するオーナー経営者がふえています。

2.競争激化: 自社単独での成長戦略の限界と規模の経済
 日本の死亡数は2040年頃まで増加傾向にあると予測されていますが、一方で周知のとおり家族葬・一日葬・直葬といった簡素化された葬儀形式が主流になっており、1施行当たりの売上高の維持・拡大がますます困難になっています。また、2010年頃からネット仲介会社の参入がふえたことで、葬祭業界全体の価格が透明化し、顧客がより安価な葬儀社を選択するようになったという環境の変化も起きています。

 このような環境下で安定した利益を確保し、自社の成長を続けるには、会館の出店数をふやすなどして規模の拡大を目指し、仕入れコストや固定費の削減を図るとともに、出店エリアにおいて地域住民に認知されるためのアナログとデジタルを駆使した広告宣伝・営業活動が必要です。しかし、現実には資金や人材面の問題から、そうした戦略を短期的に実現することは容易ではありません。

 このような課題をもつ企業が、M&Aによって優良な企業とパートナーシップを組むことで、会館の出店加速、消耗品の共同購買、優秀な人材の積極採用、効果的なマーケティングの導入などが可能になり、会社の成長を実現する有効な手段になります。

3.人手不足: 人材の確保・育成と従業員幸福度の向上
 日本では人手不足が深刻化しており、葬祭業界も例外ではありません。特に、24時間365日の対応が求められる葬祭業界では、優秀な葬祭ディレクターの確保や育成は経営上の最重要課題です。人材紹介会社への登録をはじめ、あらゆる方法で人材確保を試みるものの、簡単に採用することはできません。また、従業員の高齢化が進む葬儀社も多く、本来であれば次世代の育成に取り組まないといけない状況であっても、一人前になる前に離職されてしまうケースが少なくありません。

 そうしたなかで、M&Aを選択するオーナー経営者は、譲受企業に対して人材採用・育成の面で期待し、実際に連携するケースが多くみられます。一方、会社を譲り受ける側は、もともと採用が好調であったり、すでに優秀な人材が多く定着しています。それでも、M&Aで組織規模が大きくなれば、従業員の業務負担が軽減され、福利厚生を含めた働き方改革の基盤をつくることが可能になります。結果として、従業員幸福度の向上にもつながり、さらには個人のキャリアステップにも寄与するというメリットもあります。

そもそもM&Aとは何か?
M&Aの手法とは?

 M&Aとは、Mergers(合併)and Acquisitions(買収)の略称です。広義では、企業の組織再編や経営権の移動を伴う取引全般を指します。M&Aと聞くと、規模の大きな企業間の取引をイメージされるかもしれませんが、後述する株式譲渡などによって第三者に会社の経営権(所有権)を譲渡することにより、後継者問題の解決や会社の成長を加速させるための手段として、国内の中小企業においても頻繁に活用されています。

 具体的なM&Aの手法は多岐にわたりますが、中小企業のM&Aでは「株式譲渡」や「事業譲渡」が多く用いられます。これらは、譲渡するオーナー経営者とその企業、また譲り受ける企業の双方に、それぞれ異なるメリット・デメリットをもたらします。

1.株式譲渡:会社を丸ごと譲渡する手法
 株式譲渡は、中小企業のM&Aで最も多く採用される手法です。この手法では、譲渡する企業のオーナー経営者(株主)が保有する会社の株式の過半数以上を譲受企業に譲渡することで、会社の経営権(所有権)を移動させます。

 株式譲渡は譲渡後も会社の法人格が存続します。商号も含めて事業に関わるすべての権利義務(資産、負債、契約、許認可、従業員の雇用契約など)が包括的に譲受企業に引き継がれます。

 オーナー経営者のなかには、M&Aを実行した場合に、従業員の解雇や社名変更を懸念される方がいらっしゃいます。しかし、譲受企業からすれば、グループに招き入れる企業の従業員が離職すると事業運営に大きな影響が生じる可能性があるため、むしろ雇用関係を継続したいと考えるケースが多いのです。さらに、社名についても顧客や取引先に認知されているブランドとして捉えることが慣例であり、そのまま継続して利用するケースがあります。ただ、一部の譲受企業では戦略的に社名を変更する場合もあります。

 株式譲渡は、許認可や取引先との契約関係、従業員の雇用契約などといった個別の手続きを経ることなくそのまま維持・承継できるため、事業の連続性を重視する葬祭業界には非常に適しており、手続きも比較的スムーズであるのが特徴です。

2.事業譲渡:特定の事業だけを譲渡する手法
 事業譲渡は、会社そのものではなく、特定の事業を個別に譲渡する手法です。たとえば、1つの法人で葬祭業以外にも複数の事業を手がけており、特定の事業を切り離す場合に事業譲渡を選択するケースがあります。

 会社を包括的に譲渡するのではなく、譲渡する事業に紐づく資産負債などを特定したうえで売買契約等を締結し、譲受企業へ対象の事業のみを譲渡します。つまり、事業を譲渡した企業側は法人格が存続し、譲渡対象外の事業や資産・負債は譲渡企業に残ります。葬祭業界の場合、本業とは異なる事業(例:仏壇販売事業など)だけを切り離したい場合や、特定の地域にある葬祭会館だけを譲渡したい場合などに有効です。

 譲受企業の視点では、株式譲渡とは異なり譲り受ける事業を事前にすべて特定して取得するため、簿外債務等の見えないリスクを引き継がなくて済む、というメリットもあります。しかし、株式譲渡と比較すると手続き面で負担が大きくなる傾向があります。たとえば、従業員との雇用契約や取引先との契約は、譲受企業が新たに契約を結び直す必要があること、許認可は原則承継ができないため、譲受企業が新たに取得しなければいけないことなどがあげられます。さらに、資産も個別に売買・移転が必要となり、手続きが煩雑になる傾向があります。株式譲渡と比べて税制上の扱いが異なる点にも注意が必要です。

 これら以外にも、会社分割と呼ばれる手法もあります。オーナー経営者の目的や会社の状況によって適切な手法は異なるため、専門家と相談しながら具体的に検討を進めることが、後悔のない選択につながります。

 次回は、どのようにして実際にM&Aの検討を進めるのか、最初のステップである「検討準備段階」について解説します。


「【連載】台頭するM&Aの基礎知識と葬祭業界」は、月刊フューネラルビジネス2026年1月号より掲載しています。

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