――霞ヶ関ホテルリート
【試し読み】
霞ヶ関キャピタルをスポンサーとするホテル特化型J-REIT「霞ヶ関ホテルリート」が、8月13日に東京証券取引所に上場した。
ポートフォリオの特徴は、インバウンド需要を取り込む多人数向けの自社ブランド物件を組み入れる点である。上場のねらいや差別化戦略、今後の成長方針について、資産運用会社・霞ヶ関リートアドバイザーズの佐藤正弥氏に聞いた。
――REITの新規上場は4年ぶりです。上場の背景と経緯を教えてください。
佐藤 実は当初、われわれは物流施設特化型REITの上場を構想していました。物流施設は長期安定性が特徴。コロナ禍や景気ダウンサイドに対して抵抗力があり回復力も強い一方で、目下の景気上昇局面、インフレ環境で求められる収益のアップサイドシナリオを描きにくい側面があることが懸念されました。
そこで戦略を切り替え、インフレによるアップサイドを最も享受できる資産クラスであるホテルを組み入れた特化型のREITを上場させたということです。
――総合型へ転換するREITが多いなか、「特化型」を選んだ理由は何ですか。
佐藤 あらゆる資産クラスを組み入れる総合型は、REITの資産規模を成長させていくうえでメリットはあります。しかしその一方で、商品的な特徴が失われ、われわれのREITならではの市場優位性が埋もれてしまうきらいがありました。霞ヶ関ホテルリートは、新興のホテル特化型のREITとして、市場で最も優位性のあるホテルタイプに絞った、他にはない「独自性のある投資商品」としてアップサイドを投資家に訴求していきたいと考えたのです。
――ポートフォリオと、運用物件の構成を教えてください。
佐藤 全国15物件、資産規模492億円[図表]で、いずれもスポンサーである霞ヶ関キャピタルが開発した自社ブランド「fav」「FAV LUX」「seven x seven」で構成されています。建物の平均築年数は約2年と新しいことが特徴。運営はグループのfav hospitality groupがマスターリースのうえで担当し、鑑定NOI利回りは5.8%と高水準です。
――ポートフォリオの特性・特徴を教えてください。
佐藤 すべて多人数対応のホテルであることです。このタイプに集中させた理由は、ホテルを取り巻いている需給状態にあります。日本ではインバウンド、国内客問わず家族やグループで滞在できる宿泊施設が圧倒的に不足し、需要がひっ迫しています。REITに組み入れた物件は、1室8人まで宿泊でき、ミニキッチンやランドリーも備えることで、中長期滞在需要をも十分充たせる設計としているのです。
――運営・オペレーション面における差別化ポイントは?
佐藤 大きく2点あります。1つはオペレーションの「省人化」です。具体的には、セルフチェックイン・アウトやQRコードによるルームキー、飲食のモバイルオーダーなどを導入し、最小人数での運営が可能。地方の運用物件ではアルバイト含め3人で運営している物件もあります。市場のトレンドとして、より多人数のスタッフを雇用しホスピタリティを強みとするホテルも見受けられますが、われわれは人材不足がより深刻化するこれからの社会課題に対応しています。
もう1つはグループでの「垂直統合型事業モデル」です。開発・運営・ブランディングまでグループ内で一気通貫できる体制を整え、収益力を最大化しています。fav hospitality groupも含むスポンサーグループでも広告活動やメディア露出を推進することで、ホテルブランドの認知度の向上やさらなる集客、ブランド力向上を進めています。
FAV LUX 鹿児島天文館
鹿児島市電「天文館通」駅より徒歩8分で、鹿児島市中心部の繁華街に立地する。客室は約20~80㎡の11タイプ。
竣工は2024年9月とポートフォリオで最も築年数が浅い。写真は最上階のレストラン
――観光需要とビジネス需要のどちらを重視しますか。重点対象エリアも教えてください。
佐藤 基本的には観光需要に特化します。観光地は地方都市だけでなく、東京・大阪など都市圏も含まれるため全国が対象となります。運用ガイドライン上はビジネス需要中心のホテルの取り込みを3割まで許容していますが、スポンサーの自社ブランドがグループ旅行に対応したものであることも受け、当面は観光型中心で進めていく予定です。
――物件にはデザイン面での強みもあるそうですね。
佐藤 旗艦物件である「seven x seven 石垣」(沖縄県石垣市)では、チーフクリエイティブディレクターとして、ホテルブランドなどの開発で成功を収めてきたデイビッド・ミスキン氏を起用。ラグジュアリーホテル並みの空間デザインを実現しました。ラグジュアリージャパン観光推進機構が主催する「Luxury Japan Award 2025 」では、大手ラグジュアリー
ホテルと並んでの受賞も果たしています。
「fav 広島平和大通り」(広島市中区)では、イギリスのデザイン会社PDP LONDONが内装をデザイン。また、障害をもつ作家の作品を扱うヘラルボニーとタイアップしたアート作品を取り入れるなど、より洗練された空間演出に努めています。
これらの取り組みに対して、投資家から物件の収益力だけでなく、建物自体が「かっこいい」「泊まりたい」と評価いただいたことも大きな自信になりました。
――今後の外部成長について教えてください。
佐藤 この先5年間でAUM3,000億円を目指していきたいと考えています。なおスポンサーからのパイプラインは、現時点で全国36物件・事業規模1,715億円を確保済です(2025年2月末時点、開発予定物件含む)。
――スポンサーとの関係についてはいかがですか。
佐藤 霞ヶ関キャピタルは開発型ファンドを活用することで物件の流動性や資本効率を高めるスタンスなので、築浅で競争力のあるホテルを継続的にREITに供給できる点は大手デベロッパーとの大きな違いであり、本REITの強みといえます。ただしスポンサーの開発物件を「すべて取得する」のではなく、あくまでも収益性や稼働状況を精査したうえで選別します。
また、外部物件も一定程度の組み入れを可能としています。
――ホテル市場の展望と成長への意気込みを教えてください。
佐藤 インバウンドは今後も拡大し、ホテル需要は伸び続けると考えています。なかでも多人数向けホテルブランドは相対的に不足しており、本REITの成長余地は大きいと考えます。
また、本REITは「ホテル特化型」を標榜しています。投資家自身にポートフォリオを組んでいただく前提で、選びやすく、特徴の分かりやすい投資対象として成長できるよう、物件の収益力を高めていきたいです。
――ありがとうございました。
霞ヶ関リートアドバイザーズ 代表取締役社長