── 激戦地で新生・セレモニアを印象づける木造会館
[特集]2025年新設会館の動向|ケーススタディ
アースカラーの色調と独特のフォルムが、オリジナリティを感じさせる外観
神奈川県川崎市を本拠に、半世紀を優に超える歴史を刻む冠婚葬祭互助会㈱セレモニア(社長鈴木康伸氏、施行会社は㈲佐野商店)は、7月3日、市中部の高津区に「セレモニア家族葬会館そうえん溝の口」をオープンした。
東急田園都市線溝の口・JR南武線武蔵溝ノ口駅から、西に徒歩7分の中層マンションや事業所などが連なる一角。1992年に開業した平安会館みぞのくちの北側裏手の南武線沿いに位置し、もともと20台程度の駐車場だった約145坪の土地に新設した。かわさき北部斎苑(炉数16基)へも車で5分の距離(1.2km)にあるため、火葬場の周辺2km内には5会館が集積する。そうした激戦地で月20件程度のトップシェアを保持するにもかかわらず、2014年以来の11か所目を手がけたのは、地域一番店としての同社ならではの迷いや葛藤を抜きには語れない。
川崎市全7区に会館展開し、揺るぎない平安会館ブランドでオーソドックスな一般葬をこれまで安定的に提供してきた。その一方で、独自に市内調査を実施すると「小さな葬儀は依頼できないのでは」という企業イメージが消費者に定着していることがわかった。近年の葬儀ニーズに十分に対応しきれていないのではないか。そこで、自社の従来イメージを打破すべく新ブランド「そうえん」を立ち上げ、「そう」に葬・創・想・送を、「えん」に縁・円(まるいの意)などの意味をもたせ、新生・セレモニアを強く印象づけたのである。
(左)明かり取り窓から自然光が降り注ぐ式場は最大15席
(右)手前の会食室(最大18席)から遺族控室を臨む。傾斜の付いた勾配天井が空間の広がりと開放感をもたらす
建物は木造平屋建てで、延床面積は約67坪。アースカラーに彩られた外壁や間口が5mを超える独特の形状をしたポーチなど、会館らしくない本流から逸脱したプロポーションが特徴である。ポーチをくぐると、湯灌室や遺体安置室、式場などへ通じる出入口を個別に設け、メインエントランスからは風除室を経て式場へ、その奥には会食室・遺族控室が配置される。タテ約10m、ヨコ約30mの横長の土地を活用するためとはいえ、唯一無二といえる平面構成である。
木造での空間づくりも同社初の試み。木がもつ質感や色味、ぬくもりや温かみを活かし、落ち着きのある空間を実現するために木素材を選択したという。鉄路沿いであることから防音・防振に十分な対策を施すとともに、天井高4.5mの勾配天井とし、二重サッシ(防音対策のため)の明かり取り窓を設けて空間の広がりと開放感、良好な採光を実現した。
(左)8畳分の琉球畳を敷いた遺族控室。奥にシャワールームなど
(右)置き畳を敷き、内装を凹凸のある端材風に仕上げた湯灌室
開業から約25日間での施行実績は9件とまずまず。今後はそうえんで新生面を訴えつつも、平安会館みぞのくちとの2館体制で会員らの一般葬・家族葬ニーズに応えていく。画一的な葬祭会館がふえるなか、横長の土地形状、鉄路沿いという不利な条件を逆手にとって記憶に残る会館づくりを実践したといえるだろう。
[名称]セレモニア家族葬会館そうえん 溝の口
[所在地]川崎市高津区下作延4-1-41
[オープン]2025年7月3日
[事業主体]㈱セレモニア
[敷地面積]478.65㎡
[延床面積]220.23㎡
[建物構造]木造平屋建て
[建物面積]225.90㎡
[施設構成]
式場(53㎡)、遺族控室(16㎡)、会食室(26㎡)、パントリー(10㎡)、導師控室(7.5㎡)、湯灌室(12㎡)、遺体安置室(20㎡、保冷庫2段×2基=4基)、喫煙室、事務室など
[駐車場]4台
月刊フューネラルビジネス9月号「特集|2025年新設会館の動向」では、「セレモニア家族葬会館そうえん 溝の口」のほか、計9会館のビジュアルレポートを掲載している。