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三菱UFJ銀行/みずほ銀行/三井住友銀行

大手都市銀行に聞く融資スタンス
収益向上の蓋然性に注目

【試し読み】

円安や安定した利回りを背景に、国内外の投資家から日本の不動産市場への関心が高まっている。一方、金利の先行き不透明感や物件価格の上昇によって資金調達環境が変化するなか、主要メガバンクの融資スタンスはどうか。
本特集では、最前線で不動産融資を担う大手都市銀行(三菱UFJ銀行、みずほ銀行、三井住友銀行)に不動産ファイナンスへの姿勢を個別に聞いた。市況の捉え方や注力分野、リスク管理の考え方など、それぞれの戦略の違いを「抜粋版」でお届けする。

三菱UFJ銀行

三菱UFJ銀行の宮崎裕和氏
三菱UFJ銀行の宮崎裕和氏

ソリューションプロダクツ部 部長(不動産ファイナンス担当)の宮崎裕和氏

融資残高は大幅増加
バリューアッド型の組成活発

 三菱UFJ銀行の不動産向けノンリコースローンの残高は、2025年3月末で2兆9,000億円。融資姿勢は積極的で、前年同期の2兆3,000億円から大幅に積み増した。アセットタイプ別では、物流施設が40%で、次いでオフィスが30%、住宅が20%、ホテル、その他(商業施設など)が10%となる。
 
 レンダー間の貸出戦争は激しさを増しており、スプレッド勝負のみで収益性を確保することは困難になりつつある。「そのため当行では、他行が手がけていない分野に注力し、新たな収益機会の開拓を図っている」(宮崎氏)。具体的には、冷凍冷蔵倉庫やデスティネーション型ホテルなど、新規アセットタイプへの融資にも積極的に取り組む方針だという。
 投資家の顔ぶれは、国内の機関投資家が中心。インフレ、金利上昇局面のいま、コア型の資金は一時的に姿を潜め、バリューアッド型の資金が主役となっている。
 
 融資ニーズは依然旺盛だ。トランプ政権による関税政策や地政学リスクの高まりなど、不透明な要因はあるが、日本の政治・経済の安定性に加え、利上げ観測があるなかでもインフレによる賃料成長期待が投資家から高く評価されている。「こうした背景から、日本特化型ファンドを組成する国内外AM会社の動きも顕著」(宮崎氏)だという。同行が把握する範囲でも、本邦市場にはブラインドプール型のバリューアッドファンドが少なくとも6~7本準備段階にあるという。各ファンドのエクイティ規模は平均300億円程度で、不動産価格ベースでは総額1兆円規模の投資に達する見込みだ。
 
 なおバリューアッド型ファンドでは、テナントの入れ替えや改修・コンバージョンなどの手法で、いかに物件価値を高められるかが鍵となる。「そのため、AM会社の実行力やプロジェクト推進力が、これまで以上に厳しく評価される局面に入っている」(宮崎氏)。

みずほ銀行

みずほ銀行の栗原裕幸氏
みずほ銀行の栗原裕幸氏

不動産ファイナンス営業部長の栗原裕幸氏

世界一関心集まる日本・東京
拡大続く不動産ST市場にも融資

 みずほ銀行は2024年度に1兆円を超えるノンリコースローンを実行。25年度以降も引き続き前向きに不動産ファイナンスを継続する構えだ。
「基本的に従前と同じ融資スタンスを取っている。政策金利の動向には確かに注意を要するが、諸外国ほどの水準までは上がらないだろう」と栗原氏。
 
 日本に対する投資家の目線が国内外問わず熱い。JLLの調査によれば、2025年第1四半期における日本の不動産投資額は2兆円超で過去最高を記録。また都市別の投資額ランキングでも東京が2位以下を大きく引き離しトップであった。背景には、利上げ後も大きなイールドギャップ、制度・政治の安定性、富裕層による中国リスク回避の動きなどがある。
 プレーヤーでは外資系ファンドはもちろんのこと、不動産事業の強化を図る国内事業者、不動産STを組成する国内AM会社に注目。そのなかでも不動産STは、私募ファンド/REIT、J-REITに続く新たな不動産証券化商品として、市場規模および流動性の拡大に寄与するものと期待する。「当行はいくつか不動産STの案件に融資しており、クレジットカードのポイントを元本に充当できるものや、保育園併設の住宅を投資対象とする社会性の強いものなど、斬新で個性的な商品設計の案件にもファイナンスを提供している」(栗原氏)。
 
 投資家はレバレッジに対する要求を強めており、メザニンレンダーとして地方銀行やネット銀行などが目立つようになった。みずほ銀行が関わった大型案件では、80%超のLTVを実現するために6層におよびトランシェを構築したケースもあるなど、工夫しながらファイナンスパッケージを組成し、投資家のニーズに対応している。

三井住友銀行

三井住友銀行の山内一也氏、田村公幸氏、春日典良氏
三井住友銀行の山内一也氏、田村公幸氏、春日典良氏

不動産ファイナンス営業部 副部長の山内一也氏(左)、田村公幸氏(中)、春日典良氏(右)

アジア系ファミリーオフィス活発
REITは収益改善重視の運用を

 三井住友銀行の2024年度におけるノンリコースローン実行額は、過去最高水準であった2023年度と同水準であり、ノンリコースローン融資残高は前期比増加。順調に規模を拡大している。
「融資スタンスは大きく変えていない。昨年と比べ長短期金利とともに上昇しているが、キャップレートの大きな変化はみられない。一般的に金利が上昇するとキャップレートも上昇(不動産価格は下落)すると言われるが、国内外問わず新規投資家が増えており、物件の取得意欲が旺盛なことが市場を底上げしている」と説明するのは田村氏。
 
 投資家(特に外資勢)の動きが活発なのは、日本がプラスのイールドスプレッドを維持しており、アジア太平洋でポートフォリオを構築する際に投資先の筆頭候補に上がるため。直近では欧米の大手ファンドに加え、アジア系のファミリーオフィスも参入しており、来日がとても増えているという。ファミリーオフィスのなかには、AMを介さずに直接案件を開拓し、取得を決定してしまうところもあるそうだ。
 
 国内勢については事業法人の動きが堅調。一方でJ-REITは投資口価格が低迷、私募REITは投資家の間で選別が進み、思うように資金調達ができない銘柄が増えている。保有物件の賃料は上昇しているが、借入金利やPMフィーなどの運営コストも上がっており、内部成長が果たせていないことも背景にあるとみている。
「REIT市場の活性化には、保有物件売却などを通した含み益の還元に加えて、これまでのような稼働重視ではなく、稼働をいくらか犠牲にしてでも、賃料を引き上げる施策があってもよいと思われる。あるいは時価LTVに着目した借入の活用による物件取得や、築古物件のバリューアップ戦略も検討の余地があるのではないか」(春日氏)。

(各行のアセットタイプごとの融資姿勢と検討ポイントは本誌で)

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