四釡宏吏の世界REIT紀行[欧州編]ブルガリア編
東欧ブルガリアの首都「ソフィア」、第2の都市「プロヴディフ」、その間にあるトラキア平原の農地を訪ねた。
ブルガリアのREIT 市場は、時価総額(約400 億円)では欧州の中で最も小さい。
しかし、ブルガリア証券市場では大きな存在感 (全上場株式81 社中12 社がREIT、代表株価指数SOFIX 指数[15 社構成]に
REIT 2 社が採用)を示しており、農地特化型REITは農業セクターでも大きな役割を果たしている。
ブルガリアの広大な農地や立派なオフィスビルを確認し、ベールに包まれていたブルガリアREITの謎がついに解けた。
2004 年にREIT 法が施行され、上場・会社型REIT制度が誕生した。同年初めに初のREITが誕生、2005 年から2006 年にかけ多くのREITが上場した。しかし、2008年のリーマンショクで市場規模は大幅に縮小した。
REIT指数(当初100)は、リーマンショックにより2009年3月末には史上最低の37.65まで下落した。2010年6月に2番底をつけ、2012年以降REIT指数は回復していった。その後2016年2月末には100を超え、2019 年11月末時点で130に達している[図表1]。
ブルガリア証券取引所では全上場株式81社中12社がREITである。代表株価指数であるSOFIX指数(15社構成)に2社のREITが採用され、証券市場におけるREITの存在感は大きい[図表2]。
上位銘柄4社で全体の3/4を占めている。2番目に大きいソファマ・プロパティーズは、ソファマ・ビジネスタワーを保有している。4番手のブルガリア・リアル・エステート・ファンド(BREF)は、ビジネス・パーク・ソフィアとカンバナイト・グリーン・オフィスを保有している。またフェアプレー・プロパティーズはヒルホテルを保有している(写真)。
農地REITとして最大手のアドバンス・テラファンド(2005年上場)とブランド・インベストメンツ(2006年上場)の2社が存在している。現在世界のREIT市場において米国、豪州、ブルガリアの3か国で農地REITが存在している。基本的に3か国とも農地を農家に貸し賃貸収益を計上している。
しかし、ブルガリアの農地REITのビジネスモデルは、主にキャピタルゲイン狙いであることが異なっている。つまり、ブルガリアでは、分散所有されている農地を集積し、大規模化を図ることにより、土地の価値を高め、究極的に農地売却によるキャピタルゲインを主眼にしている訳である。ブルガリアでは、長年にわたり多くの個人事業主により農地が分散的に保有されていた。農地の取引市場は存在せず、農地自体の流動性もほとんどなかった。しかし農地REITが2005年に上場したことにより、REITによる農地の集積が進み、農地が流通するようになった。農地が投資資産化した訳である。ブルガリアの農業セクターにおいて、ブルガリア農地REITが重要な役割を果たしたこととなる。
財務諸表の視点から説明するとブルガリアの農地REITの特性が一目瞭然となる。アドバンス・テラファンドの貸借対照表(BS)では、農地は投資不動産として計上されている。また損益計算書 (PL)では、①賃貸収益、②売却益、③投資不動産評価損益がそれぞれ計上されている。
ちなみに、2005年以降ブルガリアにおける土地の価格は約5.6倍上昇している。土地の平均価格 (1ヘクタールあたり) は、2005年の€864から2018 年には€4,860に上昇した (ブルガリア統計局公表データ)。
「英、独に先駆け東欧ブルガリアでREITが誕生!?」世界のREIT市場のハンドブック(不動産証券化協会編)の作成を始めた2005年3月末のことであった。その後、ブルガリア証券取引所の上場銘柄数は29社(2007年3月末) ⇨ 49 (2008年3月末) ⇨ 62 社(2009年3月末)と、あれよあれよという間に増え続けた。
「ブルガリアで一体何が起こっているのか?」筆者にとって、まさにスピンクスの謎かけのようであった。
その後2012年4月に「小型銘柄をオルタナティブ市場に移管し、上場銘柄を14社に変更する」旨がブルガリア証券取引所から公表された。「SPCのようななんちゃってREITが整理され、市場があるべき姿に整備されたのだろう」と自分なりに解釈したものの、正直その実態はベールに包まれたままであった。そして今、ブルガリアを実際に訪れ、広大な農地や立派なオフィスビル等を保有するREITが存在すること、証券市場でREITが大きな存在感を示していることなど、ブルガリアREITの実態を確認でき、長年の呪縛からやっと解放された。
「ブルガリアにREITが存在しなければ、遥々ブルガリアに来ることはなかっただろう。いや、今回の欧州視察自体を計画する事はなかったかもしれない」そんな想いで、古代トラキア人が駆け抜けたトラキア平原の大地を感慨深く眺めた。
最後に、ブルガリアヨーグルトの起源は、紀元前に古代トラキア人が作り始めた酸乳とのこと。本場のヨーグルトはクリームチーズのように濃厚で美味しく、その味は今なお忘れられない。