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【インタビュー】
山崎貴裕氏[居t華堂/鰍、なぎパイ本舗 代表取締役社長]
お菓子メーカーが浜松市内に複数の集客施設を展開
商品開発との両輪で新たな客層にもリーチする

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浜松みやげの“定番”「うなぎパイ」を製造・販売する居t華堂。2005年に浜松市内にオープンした「うなぎパイファクトリー」は、毎年60万∼70万人を動員する人気の工場見学施設となり、14年には同市内にレストランや物販、プレイグラウンドからなる商業施設「nicoe」(ニコエ)を開業。今年4月には、やはり浜松市内の本社敷地内にカフェ&ベーカリーや信用金庫の店舗、コミュニティスペースなどで構成される複合施設「SWEETS BANK」(スイーツバンク)を開業。同社代表取締役社長の山崎貴裕氏に、お菓子メーカーとして複数の集客施設事業を展開する狙いやこだわり、観光活性化の視点などを聞いた。

本社拡張、工場新設等を機に、敷地内に集客施設を新たに開発

――最初に、貴社が集客施設事業に力を入れる目的を教えてください。
山崎  05年に開業した「うなぎパイファクトリー」での成功が大きいですね。当時の「工場見学」といえば、生産ラインを狭い通路から見てもらう、昔ながらの「社会科見学」の延長にあるものでしたが、うなぎパイ工場のラインが手狭になり、その拡張の一環として、シアターやカフェも備え、「見せる」「楽しむ」工場見学施設として整備したことで、毎年多くの方に訪れていただく施設になりました。
 10年には経済産業省主催の「産業観光推進有識者会議」において、産業観光施設のモデルとして紹介いただくなど、集客施設事業を通じて浜松市の観光活性化に寄与できるという成功体験がその後の取組みにもつながっています。
――14年には浜北エリアにニコエを、さらに今年4月には市内中区の本社敷地内にスイーツをテーマにした複合施設・スイーツバンクを開業するなど、スタイルの異なる集客施設を点在させている点もユニークです。
山崎
 集客施設が市内に点在しているのは、あくまで本業の都合で集客施設事業という点において深い意図はありませんでした。ニコエは、浜松市北部(旧浜北市)で和洋菓子の工場を新設するにあたって、周辺に当社の店舗がなかったことから、同工場でつくられた和洋菓子をアウトプットできる場をつくりたいと考えたのが発端です。市内北部は住宅開発が目覚ましく、市内でも屈指の人口増加エリアで、かつ東名高速道路のインターチェンジにも近く、県外からも訪れやすいなど集客施設を展開するうえでも少なくないメリットがあると考えました。
 スイーツバンクに関しても、本社機能の拡張に伴って整備したもので、組織として構造が大きくなっていくタイミングでの開発であり、集客施設が先ということではありません。ただし、県外から多くの観光客が訪れる強力な集客施設の少ない浜松市にあって、結果的に3つの施設が点在することによって浜松を訪れる動機の拡大につながっているのではないかとも考えています。
 施設のスタイルについては、開発当時のトレンドが反映されています。ニコエは市内の学校から当時私が所属していた浜松青年会議所に「地域の産業を子どもたちに教えてほしい」との要請があったことを受け、「食」と「職」の2つの「しょくいく」をベースコンセプトに施設構成を組み立てました。ワークショップやイベントを通じて、食材について学べるほか、生産者の顔がみえるような仕掛けを、また、レストランではそこで働くシェフやパティシエなどの職業に関心をもってもらうなど、体験や楽しみのなかに気づきがある、そんな施設を目指しました。
 一方のスイーツバンクは、近年の“映え”ブームを意識したものです。Google earthで上空からみても外観が机といすに見えるようデザインされていたり、実物の13倍の巨大な家具やショッピングバッグのモニュメントを配すなど、SNS映えするフォトスポットとしても満足していただける、より遊び心に富んだ施設となっています。
――いずれの施設もデザインや設計面などに少なからずこだわりがみえます。
山崎
 もともと私がファッションや建築に興味があったこともあり、うなぎパイファクトリーの開発時からお客さまが通る床材には大理石を使うなど「どう見せるか」にはこだわりをもって臨んでいます。1つの施設で複数人のデザイナーを起用したニコエでは何度も設計変更を重ねるなど、妥協をよしとしないマインドは、当社の本業である製品づくりにも通底するものがあります。主力商品である「うなぎパイ」の包装紙1つとっても質感にこだわっていますし、おなじみの手提げの紙袋も通常の紙袋よりも厚手につくり、日常使いもしていただけるほどのクオリティにしています。コストを追求するあまり、お客さまをがっかりさせてしまえばブランド価値を毀損してしまいかねない。お客さまをがっかりさせない、というこだわりが集客施設事業のデザインにもしっかりと踏襲されていることが重要だと考えています。
――スイーツバンクでは、直営のカフェ&ベーカリーやコミュニティスペースのほか、「浜松いわた信用金庫森田支店」がテナントとして出店しています。こうしたデベロッパー的な取組みも興味深いところです。
山崎
 結果的に、家賃収入を得ていることになりますが、それを期待したわけではありません。浜松いわた信用金庫さんとは長いお付き合いのなかで、スイーツバンクの開業が決まり資金面などの相談やサポートをいただいておりました。そのなかで、スイーツバンクそばの店舗が老朽化により移転や建替えの必要性に迫られているとおうかがいしたことから、何気ない会話のなかでご提案させていただいたことがトントン拍子で進んでいったというのが実情です。

イベントや商品開発との連動で若年層の拡大に寄与

――コロナ禍で営業もままならない状況が続きますが、3施設の集客状況はいかがでしょうか。
山崎
 うなぎパイファクトリーは、コロナで半減してしまいましたが、それまでは年間60万∼70万人の方に安定的にご来場いただいていました。お子さん連れのファミリーや団体が中心で6、7割を愛知県などの県外客が占めています。
 ニコエは、コロナ前の年間来場者数は約34万人。県外客メインのうなぎパイファクトリーに対し、こちらは県内からのお客さまが7割で、子連れファミリーのほか、女性同士の小グループが中心です。年齢層もうなぎパイファクトリーに比べ、30、40歳代の女性比率が高い構成になっています。
 そして今年開業したスイーツバンクですが、“映え”を意識したデザインや1日300本ほど売れるエクレアなどのヒット商品もあり、平日800∼1,000人、週末や祝日は約2,000人を集め、目標とする初年度35万人に向け上々のスタートを切りました。
 平日は地元客が8割ですが土・日祝日は県外客が6割と比率が逆転します。さらに特筆すべきは年齢層で、20歳代で3割、30歳代まで含めると5割に達し、これまで当社のウイークポイントであった若年層の強化に大きく貢献してくれています。
――集客施設事業が新たな客層の拡大につながっているわけですね。
山崎
 これまで「うなぎパイ」といえば、50歳代以上の「出張や旅行のおみやげ」というイメージが強かったのですが、集客施設事業とそれに連動したスイーツなどの商品開発が両輪で機能したことで若い世代の方にも受け入れていただくことができたと考えています。
 特にニコエに関しては、レストランが主たる集客機能となりますが、いまの時期でいえばハロウィンなどの季節イベントを展開するとともに、イベントに合わせた新商品も販売しています。
 加えて、定番化した「かき氷甲子園」「焼いもフェア」「いちごフェア」といったイベントでもそれぞれ新商品を販売しています。また、スイーツバンクでも毎月季節商品を投入し、何度来ても楽しんでいただけるような工夫も行なっています。
 サービス面ではLINEアプリを活用した会員システムも導入しました。スタンプラリー形式で3施設どこでも3回来場いただければギフト商品の送料無料などの特典を付与
することで、若いお客さまだけでなく中高年の方にも喜んでいただいています。
 さらにはスマホケースや絆創膏、お手拭き、つまようじなどのうなぎパイの包装紙のデザインをモチーフとしたオリジナルグッズも作成し、「ここでしか手に入らない」リアル空間ならではの価値を高めていくことにも取り組んでいます。
 長年の経験から、ハコ(建物)と商品、そしてイベント、この3つを手を抜かずにつくりあげることでお客さまは来ていただける――3施設の運営経験を通じてそんな手応えをつかみつつあります。

コラボ商品などの連携でともに地域を盛り上げていく

――冒頭で集客施設事業に取り組む動機の1つとして、地域の活性化を挙げられていますが、他の企業や団体との連携でより地域を盛り上げていくようなお考えはありますか。
山崎
 ともに開発や企画ができないかというお話は多数いただいています。直近では「JAみっかび」さんが選果場をオープンするにあたって、当社のうなぎパイファクトリーと組み合わせた工場見学コースを設定できないかというお話をいただきました。また、静岡のクラウンメロンの団体とは共同での商品開発とニコエでのイベントのプロジェクトが進行中です。ほかにもさまざまなコラボ商品やイベントのお話をいただいており、ご縁をいただいたら可能な限りそれにお応えし、一緒に地域を盛り上げていければと考えています。
――最後に、これまでの集客施設事業のご経験から、企業ミュージアムをはじめとした企業PR施設に取り組もうとする事業者にアドバイスをいただけますでしょうか。
山崎
 アドバイスなどおこがましいのですが、当社ではうなぎパイに次ぐ第2、第3の柱づくりが長年の課題であり、集客施設事業を通じてそうした商品が生まれ、育ってくれたらという長期的な視点でこの事業に取り組んできました。
 しかし、そのプロセスはトライアンドエラーの連続で、イベントをやるごとに赤字が増加するなど施設運営事業のむずかしさも痛感させられました。回数を重ねるにつれ、クオリティを落とすことなく効率的なイベントの運営ノウハウが蓄積され、赤字幅も徐々に減らすことができ、いまでは設備にかかる費用を除き、集客施設事業として収支バランスがとれるところまできました。
 集客施設事業をファンづくり、顧客接点機会の創出の場と考えれば、収益性・採算性は求めないという価値観も当然否定すべきではありませんが、単なる「ファンサービス施設」だと割り切ってしまうのはあまりにもったいないように思います。どんな人が訪れ、体験なり購入なりどんなことに関心を示しどんな行動をとったのか、そうしたお客さまの動きを知り、本業にフィードバックさせる機能は整えておくべきでしょう。
 集客施設事業に不可欠な視点として、当社は一貫して「遊び心」を大事にしてきました。われわれの遊び心を通じて、お客さまが笑顔になったり、「なんかいいな」と思っていただける。これは集客施設に限った話ではなく、商品開発などでも社員が「おもしろい」と思ったものは実現に向けて全力でサポートしていく。こうした企業DNAは創業時から当社に根付くもので、それはニコエやスイーツバンクからも感じ取っていただけるのではないでしょうか。
 歴史を振り返っても、金閣寺であったり、お抹茶といったいまも残り続けている文化は「遊び」「楽しみ」のなかから生まれています。これからもそのマインドは大事にしていきたいですね。
――ありがとうございました。
<ダスキンや村田製作所などの注目施設事例研究は本誌にて>

[プロフィール]
山崎貴裕(やまざき たかひろ)
1974年浜松市生まれ。大学在学中、友人との縁で卸問屋の巨l形の甲世へ修業に入り、モノづくりと商売の基本を学ぶ。26歳で居t華堂に入社。企画室長を経て2005年、「うなぎパイファクトリー」の建設にプロジェクトリーダーとしてあたり工場見学施設を竣工。14年には浜北区に「食育と職育」をテーマとした浜北スイーツコミュニティnicoeを竣工。21年春には春華堂本社施設「SWEETSBANK」を竣工する。他、10年より(公社)浜松青年会議所第60期理事長、13年より(公財)浜松市文化振興財団理事を務める。
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