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【国内先進事例研究】THE SCENE
抜群のロケーションで提供する
独自のホスピタリティとプログラムが
奄美大島にまで足を運ぶ理由を生み出す

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  • ウェルネス

自然環境の豊かさに着目し、2015年9月に開業

 健康・IT・スポーツを柱に、ストレッチ専門店「Dr.stretch」やストレッチピラティス専門店「WECLE」はじめとした店舗ビジネス、国内最大のテニスポータルサイト「tennis365.net」の運営など幅広い事業を展開する潟tュービック。同社による初の宿泊施設事業として、2015年9月1日に開業したのが「THE SCENE(ザ シーン)」である[図表1、2]。
 今年7月に世界自然遺産にも登録された奄美大島の最南端に位置する同施設は、周辺には海や山など手つかずの豊かな自然が広がり、また正面には加計呂麻島を臨む抜群のロ ケーションを誇る。フュービック 代表取締役社長である黒川将大氏はかねてよりホテル開発・運営への意欲をもっており、加えて自身の趣味であるダイビングをきっかけに奄美大島の自然環境に着目。ダイバー向けの宿泊施設(1988年築)を取得しリノベーションした。
 「当時は奄美大島の自然の素晴らしさに対する注目度もいまほど高くなく、施設の交通利便性もけっしてよいとはいえない。ここにどのような価値を付加して、ホテルとして成功できるかが課せられた命題でした」と、同社 リゾートホテルディビジョン 執行役員 小林良輔氏は振り返る。従来の42室から21室へと改修し、リゾートホテルとしてオープンしたが、実は開業時から現在のような「ウェルネス」や「ネイチャークレンズ」といったキーワードが並んでいたわけではない。
※ネイチャークレンズ=フュービックによる造語。自然あふれるロケーションを活かした、心・脳・体の浄化体験を表現している。
 開業当初のコンセプトは「本物のプライベート」。目の前に広がる約1万6000坪におよぶプライベート感のあるビーチを訴求ポイントに、移動に長時間かけてでも行きたくなる秘境のリゾートホテルとして、カップル・夫婦をメインターゲットとした展開を図った。しかし、沖縄でのホテル開発が盛んな時期と重なったことなどもあってか、開業初年度の赤字額は1億円にのぼるほどの厳しいスタートとなった。

ヨガ&リラクセーションでコンセプトを具現化

 ヨガのプログラムは開業当初から展開しており、その参加者の反応が方向転換の契機となったと小林氏。
 「ヨガに参加された女性のお客さまが涙を流されていたことがあり、それは大自然のなかでのヨガによって自然とあふれたものだとおっしゃったんですね。こうした経験から、THE SCENEのロケーションには、人に浄化体験を与えるパワーがあるのだと確信しました」(小林氏)
 開業2年目に、ネイチャークレンズをコンセプトの主軸に据えリブランディング。ターゲットも20歳代後半〜40歳代の働く女性を中心とし、“内側から美しくなれる“点を訴求する戦略とした。リブランディング後、まず目に見えて成果が出たのはこれまでは閑散期であった冬の稼動率アップだ。「最大の武器は目の前に広がる海だと考えていましたが、山を含めたより広範な自然環境を堪能しながらの滞在を魅力として打ち出すことで季節性に依存しない集客につながった」(小林氏)というわけだ。
 施設のコンセプトを具現化するのは、開業3年目から特に積極展開してきたウェルネスプログラム、具体的にはヨガとリラクセーションである[図表3、4]。サンライズヨガやサンセットヨガをはじめ、ロケーションの価値を存分に活かせるプログラム展開によって滞在価値を高めている。あらかじめプログラムを組み込んだ宿泊プランも複数用意するが、特に最近ではプランなしで訪れ、現地到着後にどういったプログラムを受けるか検討するケースのほうが多いという。こうした傾向から、「ウェルネスプログラムのオールインクルーシブプランの構築も考えている」と小林氏は話す。
 また食事については、余計な調味料を使わずに素材そのもののよさを活かしたメニュー(イタリアン、和食)が揃うほか、ファスティングの提案も行なっている。
 運営スタッフは計35〜50人ほどで、地元人材の雇用による地域経済への貢献にも目配せする。加えて、ヨガインストラクターやセラピストも、フロント業務やホールサービス、コンシェルジュの役割を担うなど、マルチタスクを前提とした運営も特徴。本社での研修制度などDr.stretchをはじめとしてスタッフ育成に力を入れてきた同社ならではといえるホスピタリティ、そして店舗ビジネスの実績に裏打ちされた各種プログラムのクオリティの高さも、THE SCENEのファンを生むポイントになっている。

稼動率や泊数はコロナ禍で伸長。今後はコンサル展開も視野に

 平均稼動率はコロナ禍前で約45%。コロナ禍の影響が色濃く現われた昨年は厳しい結果となった一方、今年は年間平均60%台を見込めるような過去最高レベルの稼動率で推移している。また、コロナ禍で平均泊数も2泊から3・5泊に伸長。1週間以上の長期滞在客もふえ、テレワークでの利用も一部みられるようだ。
 20年に1泊単価を5,000円値上げし、またいわゆる「早割」「連泊割」などの割引をしていないこともあり、食事やウェルネスプログラムを含めたADRは5万〜10万円となっている。
 利用者層は20歳代と比較して経済的にも余裕のある30歳〜40歳代の女性が中心。男女比としては9割が女性で、男性は単身客がほとんどおらず、通常のリゾートホテルとしてカップル・夫婦で訪れるケースがみられる程度だという。エリアとしては関東・関西圏が中心だ。また「3日に1人は誰かしらリピーターのお客さまがいらっしゃる」(小林氏)というほどリピーターも多い。年間で計4回訪れる層もおり、そうしたリピーター客については、周辺観光ではなくウェルネスプログラムなどTHE SCENEでの滞在そのものを楽しむ傾向がより顕著だという。
 「近年、女性の役職者がふえるなど働き方の変化、また昨今のコロナ禍での心身の疲れなどを背景として、ネイチャークレンズやウェルネスに対する関心がますます高まっているように感じます」と小林氏。奄美大島自体への注目度が高まることで観光ニーズ拡大も期待されるが、THE SCENEとしては施設コンセプトをぶらさずに、コンセプトに共感する層への訴求に引き続き力を入れていく構えだ。
 またフュービックとしては、奄美大島のTHE SCENEをモデルケースとして、ウェルネスを軸とした宿泊施設の集客や再生のコンサルティングも展開していきたい考えである。
(ほか、国内外先進事例の経営実態や今後の投資・開発動向は本誌にて)
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