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片桐 亮[デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社 インフラ・公共セクター・アドバイザリー マネージングディレクター]

スタジアム・アリーナにおける
ビジネスモデル構築のポイント

【OVERVIEW】

進むスタジアム・アリーナ開発と 担う役割の変化

<前略>
開発が積極的に推進されている理由として、スタジアム・アリーナによる機能の変化が挙げられる。現代版のスタジアム・アリーナとは、単にスポーツとスポーツ・ファンを結ぶだけのファシリティとして位置づけられるのではなく、スポーツ以外の多様なコンテンツの提供の場とすることで、スタジアム・アリーナを取り巻く地域住民や企業・法人等の多様なプレイヤーを巻き込んだ地域のHUBとしてのスタジアム・アリーナの機能が要請されている[図表1]。
<中略>

ビジネスモデル構築のポイント

スタジアム・アリーナの成功に向けたビジネスモデルの構築にあたって、以下の4つのポイントに着目したい。
4つのポイントとは、①マルチユースを実現するスタジアム・アリーナ、②安定的な収益をもたらすCOI(Contractual Obligation Income)の獲得、③スタジアム・アリーナと不動産開発等が一体となった都市開発、④チームとスタジアム・アリーナの一体運営による相乗効果、である。

 

① マルチユースを実現するスタジアム・アリーナ

スタジアム・アリーナの成功にあたっては、施設の稼動を高め、施設に多くの来訪者を呼び込むことが不可欠である。稼動率の向上は、直接的にスタジアム・アリーナの施設利用収入の向上につながるとともに、稼動率向上に伴う施設来訪者の増加により、飲食・物販収入といった付帯的な収入の増加、さらにはスタジアム・アリーナの広告価値やスポンサー価値の向上にも貢献する。

稼動率の向上にあたっては、スポーツ興行のみならず、音楽興行や展示会・地域イベントなど可能な限りマルチユースを実現することで、週末のみならず平日の稼動率を高めることが肝要である。

音楽興行は収益性を高めるうえで非常に有用なコンテンツであるものの、立地や公共交通のアクセシビリティに大きく左右されることから、事前の十分なマーケティングが必要となる。また、ステージや音響機材の設営に多額のコストが発生する場合、施設のキャパシティによっては音楽興行自体が成立しない可能性もある点についても留意が必要である。

 

展示会等のうち特にビジネス利用を中心とした展示会や試験会場等での利用については、平日の稼動率を高めるために有用なコンテンツとなりうる。ただし、収益性はそれほど高くなく、必ずしも設備としての相性はよくない点に留意が必要である[図表2]。

 

屋外型のスタジアムや天然芝が必須条件となるサッカースタジアムにおいては、スポーツ興行以外の展開が現実的には困難であろう。その場合でも、地域イベントとして子ども等のためのスポーツスクールや部活の外部委託、高齢者等の健康増進のためのプログラム等に積極的に取り組み、スタジアム・アリーナを地域の課題解決の場として位置づけ、さまざまな公共サービスの受け皿として各種予算を確保していくといった工夫等が考えられる。

② 安定的な収益をもたらすCOIの獲得

これまでのわが国におけるスタジアム・アリーナは、収入の構成として、施設利用料や設備利用料等の貸館収入がほとんどを占めており、いわゆる非貸館収入を見込んでいなかった。したがって、支出の多くを公共からの支払いによって賄うほかなく、また、施設稼動率の上限が収入のキャップとなってしまうために成長性が見込まれにくい収入構造となっていた。

COI(Contractual Obligation Income)とは、スタジアム・アリーナについて、契約等に基づき企業や法人より得ることのできるさまざまな収入であり、たとえばネーミングライツやその他の広告・スポンサー収入、VIPやSuites等の利用に係るホスピタリティ収入等によって構成される。海外のスタジアム・アリーナでは、こうしたCOI収入が全体の4〜8割に及ぶケースも存在する。

COI収入はスタジアム・アリーナのコンテンツの質やブランド価値に比例し、一般的にはスタジアム・アリーナの魅力度が高まるにつれ、将来的に価値が向上していく収入と位置づけられる。COI収入は、一般に複数年契約によって確保される長期安定的な収入となることから、COI収入の確保によってスタジアム・アリーナの安定的な経営の実現につながる[図表3]。

COIの獲得にあたっては、企業・法人等が長期的に当該スタジアム・アリーナにコミットすることの意義を明確化していくことが肝要である。上記にあたっては、単にスタジアム・アリーナで展開されるコンテンツの魅力を訴求するのみならず、スタジアム・アリーナが地域に与えるさまざまな貢献や環境負荷低減、ダイバーシティへの取組みをリードし、多様な効果を積極的に対外的に情報発信することで、当該スタジアム・アリーナにコミットすることの企業の社会的責任としての意義にも訴求していく必要がある。

③ スタジアム・アリーナと不動産開発等が一体となった都市開発

スタジアム・アリーナは集客装置であり、まちづくりの拠点となりうる施設である。したがって面的開発にあたっては、スタジアム・アリーナと一体での都市開発を行なうことで、スタジアム・アリーナの効果を最大限に引き出した都市開発を実現することが可能となる。

 

海外ではブラウン・フィールド(なんらかの理由で放置された土地。グリーン・フィールドの対義語)の再開発にあたって、スタジアム・アリーナを中心に面的な開発を行ない、地域の価値向上を図る試みが一般的となっている。近年では、わが国においても、サッカースタジアムを中心にアリーナ、ホテル、商業施設、オフィスなどの複合施設を開発する「長崎スタジアムシティ」や、万博記念公園駅前の公有地を対象にアリーナを中心とした複合都市開発を行う「万博記念公園駅前周辺地区活性化事業」(大阪府吹田市)等、スタジアム・アリーナを核とした面的都市開発プロジェクトの事業化が進められている。

 

単体では、必ずしも高い収益性が見込まれないスタジアム・アリーナ事業であったとしても、周辺都市開発との一体事業化により高いリターンを得られる事業とすることで、事業の魅力度を高めることが可能となる。また、立地環境上、収益施設との一体事業化が困難な場合には、たとえば公共施設等との複合化などを進めることで、初期開発負担の軽減や維持管理費用の効率化を図ることも一案である。

④ チームとスタジアム・アリーナの一体運営による相乗効果

前述のとおり、スタジアム・アリーナは、スポーツコンテンツをファンやサポーターと結びつけるためのHUBであり、当該スポーツコンテンツを有するチームとHUBであるスタジアム・アリーナを一体的に運営することで、相乗効果を最大限発揮させることが可能となる。

 

たとえば、試合開催時の観戦体験の没入感を高め、「入場」から「退出」に至る一連のカスタマー・エクスペリエンスを向上させることにより、ファン・ポーターによるチームへのエンゲージメントを飛躍的に高めることが可能となる。また、パブリック・ビューイングやデジタル配信などを効果的に組み合わせることで、当該スタジアム・アリーナにおいて試合が開催されない時でもファン・サポーターの集客を実現することも可能である。

 

こうした、チームのファン・サポーターのエンゲージメントをオンライン・オフラインの双方から喚起するにあたってカギとなるのは各種デジタル技術の導入である。チームと一体となった各種デジタル技術の積極的な活用により、スタジアム・アリーナは物理的な制約を超えたビジネス展開を実現することが可能となる。

 

また、ネーミングライツや各種スポンサーシップにあたっても、チームとスタジアム・アリーナの一体でのプロモーション、アクティベーションを行なうことで、その価値を飛躍的に高めることが可能となる。
<続きは本誌にて>

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