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【2005.06.03】

ヒューズとお抹茶

 前回、秋葉原が「萌え」のエネルギーに満ちた街になっているという趣旨のことを書いた。だからというわけではありませんが、このところ、週末はほとんど毎週秋葉原に足を運ぶという過ごし方をしてしまいました。

「萌え」なるものがすっかり一般に定着してしまったせいで、秋葉原に行くというと、メイド喫茶にでも通っているのか、はたまた怪しい趣味にでも走っているのかと思われるのは、ちょっと面白くないところです。たしかに駅前の「ラジオ会館」などは、名前を改めたほうがいいのではと思えるほどに様変わりしていますが、もちろん秋葉原は「萌え」だけの街ではなく、正しく伝統的な電気の街でもあり続けています。

 陽気も穏やかになり始めた春先のこと。自分のオーディオセットを見ていて、ふと「球(真空管のことです)でも変えてみようかと思い立ったのがきっかけでした。何種類か並んでいる球を選んでいると、背後から店の人が「オーディオアンプに使うんだったら、それを試してみるといいよ」と勧められ、言われるままに購入した球を差し込んでみると、出てくる音が激変。それまで低いレベルながらもバランスの取れていたシステムを何とかしなければならないとあわてる羽目に陥ったのです。

 私にはもうひとつはまり込んでいる趣味がありましたし、もともとオーディオマニアではなく、音楽をより良い条件で聴くことが本来の目的だったこともあって、オーディオからは遠ざかっていました。ですから、もとより大きな投資をする気はありませんし、またできませんから、小さくいじるしかありません。それでも、改めて見渡してみると音質改善を標榜したパーツ・グッズ類が、新製品も含めて実にたくさん並んでいて、これだけディープなものが集積されている街というのは、秋葉原を置いて他にはないだろうと思わせるのです。

 ということで、ああでもないこうでもないと思いを巡らしながら街を探索していたわけです。その世界に造詣の深い方には笑われるかもしれませんし、逆に興味のない人には馬鹿馬鹿しい話ですが、ヒューズというのもそのひとつです。過電流が流れたときに回路を保護するために必ず組み込まれているのがヒューズですが、普通に使っている限りヒューズが飛んでしまうという事態には陥りません。であるがゆえに、盲点でもあるのですが、早速引き出してみると、プリアンプのものがちょっと変わった構造になっている。これは何か特別なものなのか、知識がないのでわからない。

 そこで秋葉原のパーツ屋さんのところに行って尋ねると「見た目は違いますけど、機能としてはこれと同じです」と渡されたのはスローブローというタイプのものでした。受け売りですが、ヒューズには標準タイプのもののほかにファーストブロー(速断)とスローブロー(遅延)のものがあって、必要に応じて使い分けられています。

 1個100円にも満たないものですが、さらに調べると、ジリコンサンドという砂粒のようなものを内部に満たしたものやセラミック製のもの、クライオヒューズ(超低温処理したもので、液体窒素で冷却して分子配列を整える。コンセントやプラグ、ケーブルなどにもクライオ処理製品がある)、さらには24金メッキを施したものまであって、単価も1個1,800円もする。「ヒューズ1個に1,800円!」という気持ちもありましたが、今、手元にはいくつものヒューズがストックされてしまいました(球も)。

 ネット通販という手もありますが、やはり、わけのわからない会話が飛び交う秋葉原という街に圧倒されながら歩き回ると、いろいろ発見があって熱くなります。



 さて、タイトルに掲げたもうひとつのほうですが、これは焼き物のことです。6、7年前のことになるでしょうか。旅先の萩でたまたま立ち寄ったギャラリーで出会った湯のみに衝撃を受けた私が、焼き物に魅了されるまでにさして時間はかかりませんでした。上を見ればきりがない世界ですから、手ごろで作家の個性も楽しめる酒器を中心に、せっせとギャラリーでの個展に足を運び続けたために、置き場所に頭を悩ませる状況になっています。

 それだけでは終わりません。当然と言えば当然の成り行きとも言えるでしょうが、興味は徐々に抹茶茶碗に移りつつあります。これは困ったことです。何しろ酒器と比べれば1桁、2桁は違う価格ですから。でも、1つでいいから、これはという茶碗を持ってみるのもいいかもしれないなどという衝動と、今、必死に戦っているところです。

 これもある日のこと、「小盌展」と題して旅茶碗を揃えた展示会があるギャラリーで開かれていました。もう顔馴染みのところでもあり、旅茶碗なら何とかなるかもしれないと出かけて行きました。そのなかで1点、目を引いたものがありました。値段もそこそこ。半ば買おうと思い決めたとき、ご主人がいろいろと説明をしてくれて、「これで一服点ててみましょうか」と言うのです。まだ買うとは言っていないと思いつつもお願いすると、少しして「どうぞ」と点てたお茶を持ってきてくれ、振出しと小皿を乗せた盆を添えてくれます。振出しには金平糖が入っており、それを小皿に移し、口に含んで、それからお抹茶をいただくのです。

 その時、時間の流れ方が変わるのがはっきりと実感できました。効率的に考えれば、最初から皿に盛った金平糖を齧ってお茶を飲めばいいだけのことです。でも、そこにワンクッション入ることで、心のあり方は随分と違ってきます。「ああ、こういう時間を普段の生活の中でも持ちたい」。そんな思いを抱きながら、その茶碗を買って帰りました。

 茶道を習ったことも、いまのところ習うつもりもありませんが、幸いなことにお茶を点てるための道具は一式わが家にあるので、その後は、休日には自分でお茶を点てて安息の時間を持つというのが習慣化しつつあります。

 日本が歴史の中で育んできた焼き物が体現している美意識、お茶という文化は底知れない奥行きと深さをもっていますが、そうしたさまざまな日本文化の魅力の一端を遅まきながら感じ、もっとその世界へと足を踏み入れたいという思いが強くなっています。

 シネマ歌舞伎「野田版 鼠小僧」で話題を集めた松竹(株)の迫本社長はインタビュー(EB9号で掲載予定)のなかで、「日本文化というものが広く再認識されつつありますが、その日本文化を広め伝えていくことが私どもの責任です」という趣旨のことを述べられていましたが、その言葉を聞いて、私は心の中で大きく頷いていました。

 私の経験はささやかですし、興味を持っている日本の伝統・文化はお茶以外にもいろいろありますが、少し気負って言えば、日本人はもっと自国の文化に誇りを持ったほうがいい、というのが私の今の心境です。

 で、前半と後半の話のどこがつながっているのか。私の中ではしっかりとつながっていますが、それは教えません。
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