株式会社トータルプランニング

[運営・コンサルティング]

アフターコロナ・デフレから
インフレ時代のレジャーホテルの経営革新

 

代表取締役 脇田 克廣 

3年にわたるコロナ禍を超えて進化・成長し続けてきたMYTHグループ。2022年2月24日突然のウクライナ侵攻で引き起こされた急激なエネルギーコストや物価の高騰で、ホテル経営が圧迫された。30年にわたるデフレ経済から一気にインフレ経済に転換した。新年度を迎え、どのようにレジャーホテル経営の舵を切っていくべきか。MYTHブランドで全国に50店舗を展開し、年間利用者200万人、雇用スタッフ1,200人を擁する㈱トータルプランニングの脇田会長に伺った。
 

企業名

株式会社トータルプランニング

TEL

06-6776-0500

所在地

大阪市天王寺区生玉前町1-13

URL

https://www.total-p.co.jp 


経営幹部もスタッフも忘れがちな
サービス業としてのホテル経営の原点
 
――過去に経験のない未曽有の経営環境を迎えています。インフレ時代のレジャーホテル業界をどのようにみていますか。
 
脇田  2月に行なわれた日本レジャーホテル協会の賀詞交換会では、列席された議員の先生方がなんの忌憚もなく「レジャーホテル」という言葉を使っていました。古くは「連れ込み旅館」と呼ばれ、「ラブホテル」と呼び名が変わっていったころの業界は明らかな蔑視の対象となっていました。近年「レジャーホテル」の呼称が定着するとともに、以前ほどには蔑視の視線を感じなくなりつつあります。
  しかし、かつてのようにレジャーホテル業態として何もしなくても儲かる時代は終わりました。ホテル事業として計画性と継続性をもって経営を行なっていかなければ生き残っていけない厳しい時代をレジャーホテル事業者は生きています。
  さいわいなことに、コロナ禍の3 年間でも、他の宿泊業態と比べてレジャーホテルは大きなダメージを被ることはありませんでした。1970年代のオイルショックや1991年バブル崩壊、2008年リーマンショックのときと同様、レジャーホテルが不況に強いことを証明したといえます。
  なぜ不況に強かったのか。それは、そこにお客さまのニーズがあったからです。このニーズが失われないよう、私たち事業者はレジャーホテル経営の基本を見つめ直す必要があります。
 
――レジャーホテル経営の基本とは何ですか。
 
脇田  進化したレジャーホテルは、箱貸し、スペース貸しの事業ではありません。お客さまに新しい価値とサービスを提供しなければなりません。しかし、レジャーホテルの現場では対面接客が少ないため、働くスタッフも経営幹部も、そのことを忘れがちです。
  弊社では、各ホテルのホームページやSNSに寄せられるお客さまからのクレームを大切にし、エリアごとに支配人や事業部長らと共有しています。とんでもない暴言を投げかけてくるお客さまや、理路整然と不備を指摘するお客さまもいます。そうしたお客さまの厳しい声は、経営幹部のどんな叱責や指導よりも、店舗のスタッフに響きます。普段は直接聞くことのない、お客さまの生の声を真摯に受け止め、改善することが、サービス向上につながるのです。
  私は常に「お客さまへの感謝の気持ちが、言葉づかいと態度を変える」という言葉を大切にし、各ホテルの支配人・スタッフにもことあるごとにメッセージを伝え徹底化を図っています。まずはそこが第一です。これが徹底できなければ何もはじまりません。
 

よきライバルを置くことで
モチベーション向上と人材定着を図る
 
――多くのサービス業と同様に、レジャーホテル業界も人材確保が難しくなっています。貴社はグループで1,200人を雇用していますが、人材を採用し、育成・定着させる要諦はどこにありますか。
 
脇田  365日・24時間営業の特殊性があり、新規採用で“いい人材” を見つけるのは難しいですね。高額の給料を出すこともできませんから。したがって“いい人材” は自分たちで育てるしかないのです。
  人材育成の要諦は、高額の給料は出せなくても、報奨金制度などを利用してモチベーションを向上させること。そして“よきライバル” と競わせることです。とくに店長や支配人クラスの人材は、部下やパート・アルバイトから孤立し、本社からも離れて目も届かず、競合店舗の情報も入らず、ともすれば“お山の大将” になりかねません。また、ホテルの店長という立場を奪われるかもしれないという疑心暗鬼から、自分をサポートしてくれる優秀な部下を育てられません。そこが大きな問題でした。
  ですから弊社では、コロナ前は月1 回、全国の支配人を集めた店長会議を実施していました。コロナ禍になってからは、ZOOMを活用したオンラインでの店長会議に変更し、さらにエリアごとにZOOMで毎日朝礼を実施しています。同じ立場にある支配人同士が集まり、毎朝コミュニケーションをとる場を設ければ、そこで情報交換や悩み相談もでき仲間意識や競争意識が芽生えます。また、各ホテルの目標と売上げデータをオープンにしていけば、モチベーション向上につながります。そうした人材が育つ環境を整えてきました。
 
――パート・アルバイトスタッフの確保、定着も重要な課題です。いち早くリニューアルの際にバックヤードやスタッフの休憩室やホテルDXにも投資し、働きやすい環境づくりに注力されていますね。
 
脇田  今から35年前、フロントスタッフに怒られたことがありました。「フロントスタッフがトイレのために離席したら、フロントに誰もいなくなってしまいます。なぜフロント近くにスタッフ用のトイレをつくっていないのですか」というのです。私はその現場の声を聞いて、働きやすい職場環境の改善の必要性を痛感し、すぐにスタッフ用トイレを新設しました。
  同じようなことはこれまで何百何千と経験しています。レジャーホテル経営者は、直接的な売上アップにつながる客室や共用部など、お客さまの目に届く範囲にしか投資をしません。でも、バックヤードの動線など運営効率アップを図るちょっとした使い勝手に配慮し投資するべきです。
  リニューアルの工事関係業者との工程会議で、私は必ず「みなさんがつくりやすいものをつくるのではなく、お客さまと私たちが使いやすいものをつくってください」とお願いしています。
 
――一方で、パート・アルバイトの管理も難しい課題です。
 
脇田  弊社のホテルでは、館内各所に監視カメラを設置し、お客さまと従業員の導線モニターとリネンモニターを通してホテル内の動きと全てのスタッフを把握できるようにしています。
  これはひとつには、スタッフ同士の相互監視の効果があります。24時間365日稼動するレジャーホテルでは、店長の目が行き届かない部分も少なくありません。スタッフ同士の「みる。みられる。」環境をつくることで、スタッフはお互いを意識するようになり、手抜きや不正を未然に防ぐことになります。
  また、リネンモニターには各客室の清掃状況の情報が映し出されます。スタッフはモニターを通して情報をキャッチし、ホテル内の状況を的確に把握し、必要に応じて自ら動く習慣がつきます。つまり、スタッフの自主性が養われ、作業効率の向上にもつながるのです。
  もちろん、モニターシステムによる相互監視を導入するためには、スタッフ同士の仲間意識を醸成させる必要があります。同じ職場で働くうえで、適正利益を追求する目標を共有し、互いに高め合っていくための下地づくりが不可欠となります。

インフレ時代に適正利益を追求する
値上げと生産性を高める組織づくり
 
――昨年からエネルギー価格や物価の高騰が続いています。一方で給料が物価に追いついていません。デフレからインフレ時代に転換し、多くの経営者が、料金値上げに踏み切るか、頭を悩ませています。
 
脇田  確かに悩ましい問題です。しかし、レジャーホテルの利用料金は、昭和の時代から上がっていません。むしろ下がっているかもしれません。「卵の価格は優等生」といわれた卵の値段が、179円から347円と昨年の2倍になっています。消費者側も値上げには寛容になっていますから、お客さまのご理解をいただいたうえで、値上げに踏み切ってもいいと思います。弊社の場合、基本料金は据え置いたまま、サービス料として5~10%を段階的に値上げしています。
 
――レジャーホテルのリニューアルコストも高騰しています。
 
脇田  リニューアルは、投資に見合った利益が得られるか、中長期的な視点で分析する必要があります。その際には、立地条件・建築形態・動線なども重要な要素となります。先に話したように、客室だけでなくバックヤードにも投資を行なう必要があります。
  弊社の場合は、予算枠を決めて、お客さまに新しい価値を提供できるハード×ソフト×オペレーションを革新するリニューアル投資を心がけています。ホテルは、総合サービス業です。常にお客さまに来ていただいて喜んでいただけるかです。
  私が今日まで事業を続けてこられたのは、運がよかっただけかもしれません。下手をしたら、明日にでも潰れるかもしれない。そんな危機感をもって、日々の経営に取り組んでいます。今またデフレからインフレへと大転換を迎えています。これまで約400億円を投資し、全国50店舗、年間200万人のお客さまにご利用いただき年商約70 億円までに成長させていただきました。今後ともMYTHグループとしてひとつの事業体として従業員が疎外感を感じることのないよう「仲間意識」と「良きライバル意識」を持った組織文化をつくりあげ、さらなる進化をしてまいります。